なぜ企業のAI導入の95%が挫折するのか。その壁...
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AIの「血管」を支える京セラの強み。なぜ最先端の半導体には「焼き物」が必要なのか
ビジョナリー編集部 2026/07/15
2つの成長領域の「ど真ん中」に位置する技術資産
生成AIの爆発的な普及は、世界中でデータセンターの建設ラッシュを引き起こしている。AIを駆動させるには膨大な計算能力が必要となり、それを支える半導体の微細化・高積層化も加速の一途をたどる。
この2つのメガトレンドが交差する結節点に、京セラの部品事業が位置している。半導体製造装置向けのセラミック部品で約5割、AIデータセンター向けの光通信用パッケージで約9割―― 同社が握る世界シェアは、いま最も投資マネーが集中する領域に深く根を張っているという。
セラミック、すなわち「焼き物」の技術を創業以来60年以上磨き続けてきた同社が、なぜいま先端産業の最前線でこれほどまでに脚光を浴びているのだろうか。
半導体製造装置向けセラミック部品――微細化が進むほど「セラミック」が要る
半導体は、シリコンウエハー上に光で微細な回路パターンを転写する「露光」と、不要な部分を削り取る「エッチング」という工程を繰り返して製造される。半導体が高性能化するほど、このプロセスは複雑化し、製造装置の稼働台数も増加する。京セラにとっては、装置が1台増えるごとに、自社部品の出番も増える という盤石の構造が築かれているようだ。
▲耐プラズマ性・均熱性に優れた静電チャック
なぜ「焼き物」が最先端の半導体製造装置で重用されるのか
半導体製造の現場は、超高温や強力なプラズマ、さらには腐食性の薬品にさらされる極めて過酷な環境である。同時に、部品にはナノメートル単位の精度が要求される。セラミックは、こうした過酷な条件に耐えうる稀有な素材であるとされる。その特性は以下のとおりだ。
- 硬くて、たわまない: 精密な位置決めが不可欠な露光工程において決定的に重要となる。
- プラズマや熱に強い: 金属すら腐食する環境下でも、劣化しにくい。
- 薬品に侵されず、異物も出ない: 洗浄工程でも安定し、歩留まり悪化の原因となる異物の発生を抑える。
京セラはこれらの強みを活かし、ウエハーを載せる精密な台座である「露光装置用ステージ」や、静電気でウエハーを固定する「静電チャック」、さらには「リング」などの基幹部品を供給している。
市況は力強い「回復局面」へ
2024年後半から2025年前半にかけて、半導体業界はコロナ特需の反動による減速を経験した。しかし、2025年の後半からは需要が力強く持ち直してきている。次世代品の開発案件に加え、既存製品の受注も増加しており、現場は活況を呈している。
同社は並行して、次世代静電チャック の開発にも注力しているという。エッチング精度の向上を求める装置の高機能化に合わせ、さらに高いプラズマ耐性や加工精度が求められるなか、長年蓄積してきた技術力を結集して次なる勝負に臨む構えだ。
AIデータセンター――投資の波が「周辺」へ広がる
京セラのもうひとつの成長エンジンが、AIデータセンター向け部品である。同社は、データをやり取りするネットワーク機器や、電気信号を光に変える光伝送装置 の領域で圧倒的な存在感を放っている。
「頭脳」の次は「神経」と「血管」
AI投資はこれまで、GPUやCPUといった演算チップ、いわゆる「頭脳」に集中してきた。しかし、システムを機能させるには、データを保持するメモリ(作業領域)、サーバー同士をつなぐネットワーク機器(神経)、そしてデータを高速で運ぶ光伝送装置(血管)といった周辺領域の充実が不可欠となる。こうした領域への投資が、2025年後半から急速に活発化している。
背景にあるのは、サーバー単体の性能を上げる「スケールアップ」、サーバー台数を増強する「スケールアウト」、そして拠点間を結ぶ「データセンター間通信」という3つの拡張だ。これらすべてが、京セラにとってのビジネス機会創出につながっている。
光通信用パッケージ――シェア約9割の「本丸」
データセンターの「大動脈」を支えるのは、電気信号を光信号に変換して高速伝送する光ファイバーだ。その中核部品である光通信用セラミックパッケージにおいて、京セラは約9割という圧倒的な世界シェア を誇る。
これを支えているのは、光通信インフラ市場での長年にわたる顧客との信頼関係と、業界最高水準を誇る高周波設計・多層積層技術だ。AIによる通信量の爆発的増加を受け、滋賀の東近江工場を中心に増産体制も整えられている。
▲高速光通信用セラミックパッケージ
多層セラミックコア基板――次世代AI半導体向けの切り札
さらなる布石も打たれている。京セラは2026年4月、次世代のAIデータセンター向けに多層セラミックコア基板 の開発を発表した。
AI半導体は世代を追うごとに大型化・高性能化し、それを支える基板には、より広面積かつ微細な配線が求められる。しかし、従来の「有機コア基板(樹脂製)」では、大型化に伴う「反り」の発生や配線の微細化に限界があった。
そこで同社は、積層セラミックの知見を活かし、この技術的障壁を突破しようとしている。セラミック特有の高剛性で反りを抑制しつつ、独自のプロセスで超微細配線を実現。先端AI半導体の進化を、素材の力で底上げする考えだ。
▲開発中の先端半導体パッケージ向け多層セラミックコア基板
3拠点体制と継続投資が支える成長計画
これらの成長戦略を具現化するのが、大規模な生産体制の整備である。京セラは、鹿児島の霧島工場 、川内工場 、そして長崎の諫早工場 の3拠点で新建屋を完成させている。なかでも諫早工場は2026年9月に開設し、2027年4月以降に本格量産を開始する計画だ。
部品事業への設備投資額は、2026年3月期から2031年3月期までの累計で約6,500億円 にのぼる。毎年1,000億円規模を投じ、半導体製造装置向け、光通信用パッケージ向け、コンデンサ向けの3領域へ、市場動向を見極めながら戦略的に配分していく方針だ。
▲長崎諫早工場完成予想図
「掛け算」が生む独自の成長ストーリー
京セラの強みは、一言で言えば「引き出しの多さ」にある。セラミックから有機素材、パッケージからコンデンサまでを一手に手掛ける幅広さは、かつては「多角化しすぎている」と見られる向きもあった。
しかし現在、AIデータセンターという巨大市場は、同社の持つ多様な技術をパッケージとして必要としている。低消費電力化や高速伝送など、顧客の課題が複合的になるほど、複数の技術を組み合わせて提案できる京セラの価値は高まる というわけだ。
先端半導体・AI周辺領域の売上高を2031年3月期までに2.8倍 に伸ばすという強気な計画は、この「セラミックの総合力」を武器にした確信の表れだろう。投資の波がAI中心からその周辺へと波及し続けるいま、京セラの技術ポートフォリオはかつてない輝きを放っている。


