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ブリヂストンの“空気ゼロ”タイヤ「AirFree」——自治体・自動運転・宇宙でも活躍する新技術
ビジョナリー編集部 2026/07/15
ブリヂストンが長年研究を重ねてきた「AirFree(エアフリー)」は、これまでの常識を覆す“空気ゼロ”の次世代タイヤです。2008年からの挑戦が結実し、2026年には自治体の移動サービスで本格的に導入される段階に到達しました。
空気がいらない?「AirFree」の驚くべき仕組み
最大の特徴は、「空気を使わずにクルマを支える」という点です。従来のタイヤは内部に高圧の空気を閉じ込め、その弾力で車体の重さや路面からの衝撃を受け止めてきました。ですが、AirFreeは構造そのものが違います。
タイヤの側面に並ぶのは、熱可塑性樹脂という特別なプラスチック素材でできた青いスポーク。AI技術を駆使した設計・シミュレーションにより、複雑なカーブや厚みが組み合わされています。このスポークが、空気の代わりにしなやかさと強さを両立し、走行時の重さや衝撃を受け止めているのです。
空気圧の維持やチェックが必要なくなり、たとえ表面に傷ができても走行に支障はありません。管理の手間が減り、パンクによる突然のトラブルから解放されるのは、大きな安心材料となるはずです。
もう一つの大きな強みは、徹底してサステナブル(持続可能)な設計です。タイヤの表面は従来通りゴム素材ですが、すり減った場合はその部分だけを張り替えて何度も使い回すことができます。さらに、樹脂スポークの骨組み部分も粉砕して再び新しいタイヤに再利用可能です。
そして、青いスポークには「視認性の高さ」という重要な役割があります。夕暮れ時や薄暗い道でも、歩行者や他の車から目立つ色合いに設計されているのです。事故を防ぐための、安全を意識したデザインでもあります。
15年以上にわたる挑戦の軌跡
AirFreeは、2008年に「空気なしでタイヤを作る」という前例のない挑戦から始まりました。最初のターゲットは、時速が遅く軽量なシニアカーや小型モビリティ。車重200キロ程度の乗り物で、まずは「空気がなくても安全に走れるか」をゼロから検証する日々が続きました。
ところが、実際に試作と実験を繰り返す中で、次第に新たな課題も見えてきます。それが「乗り心地」の問題です。硬く強い素材だけでは、舗装の継ぎ目や段差でゴツゴツとした感触が伝わりやすく、快適さを損なってしまうのです。
2013年以降は、小型EVなど車重500キロ〜1トンクラスの車両への適用も視野に入れ、柔らかさと強さを両立させるための素材・構造改良が本格化。AIによるシミュレーションや、従来のゴムタイヤで培ったノウハウも総動員して、より自然な乗り心地を目指す試行錯誤が続きました。
グリーンスローモビリティとの相性
今、特に注目されているのが、地方都市や過疎地で使われる「グリーンスローモビリティ」です。これは、時速20キロ未満で公道を走る小型の電動車です。高齢者の移動を支える手段として、今全国の自治体で導入が進んでいます。しかし、こうした地域ほどタイヤの空気圧チェックやパンク修理を担う人が減り、運行の継続が困難になりがちでした。
そのような現場で、AirFreeの登場はまさに救世主でした。空気圧の管理がいらず、パンクのリスクもないため、誰もが安心して使える交通手段を維持できるのです。富山市や久留米市などでの実証実験を経て、2026年には滋賀県東近江市でついに全国初の「定常運行」、つまり日々の生活路線で本格導入がスタートしました。
東近江市奥永源寺地区では、住民の6割以上が高齢者という現実があります。移動サービスの運休や突然のトラブルは、生活そのものに直結します。AirFreeを装着した自動運転車「奥永源寺けい流カー」は、地域の移動の“最後の砦”として期待されています。
現時点での課題と今後の改良点
どんなイノベーションにも乗り越えるべき壁はあります。
まず一つは「重さとコスト」です。複雑な樹脂スポーク構造を持つため、従来のゴムタイヤよりも素材の量が多く、結果的に重くなりがちです。また、製造工程でも特殊な加工や材料が必要なため、現時点ではコストが高めに設定されているのが実情です。
次に、「対応できる車種と速度の限界」も課題です。現在のモデルでは、車重1トン程度・最高時速60キロまでの車両が主な対象です。高速道路を走る一般的な乗用車や、積載量の多い大型トラックなど、より過酷な環境での利用には、さらなる技術革新が求められています。
ですが、こうした課題を一つずつクリアしていくことで、より多様な用途への広がりが期待されています。
未来への広がり——新しいモビリティ社会
注目されているのが、自動運転車との組み合わせです。ドライバーが乗っていない完全自動運転のタクシーや無人配送車では、パンクによる急な停止が大きなリスクとなります。「パンクしない」という特性は、こうした次世代モビリティの実現に不可欠なピースとなるでしょう。
また、2030年に向けては、より軽量で高性能な素材開発を進めることで、一般乗用車や物流車両への本格的な展開も計画されています。空気不要のタイヤが社会に根付く日は遠くないかもしれません。
さらに驚くべきことに、この技術は宇宙開発にも応用されています。JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同開発で、月面探査車用の特殊タイヤにもAirFreeのノウハウが生かされているのです。
まとめ
AirFreeに込められた想いは、「誰もが安心して自由に移動できる社会」です。高齢化が進む地方で、人々の暮らしを守る。地球環境への負荷を減らし、未来世代に持続可能な社会を残す。そして、宇宙という新たなフロンティアにも挑戦する。
これからのモビリティ社会の進化に、ぜひ注目してみてください。


