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保育園倒産が過去最多にーー「量」から「質」へ転換する保育業界の今
ビジョナリー編集部 2026/03/06
今からおおよそ10年ほど前まで「保育園落ちた!」という言葉と共に待機児童の多さが社会問題となっていました。しかし、日本の保育業界は現在、かつてないほどの転換点を迎えています。2025年、保育施設の倒産件数が過去最多を記録したのです。その裏で、待機児童数は減少。なぜこのような現象が起きているのでしょうか。
「量」から「質」への変化
近年、日本の保育政策は「園の数を増やして待機児童をゼロにしよう」という量的拡大路線を突き進んできました。保育園の開園に伴う補助金や無償化政策が後押しし、都市部から地方まで新設園が相次ぎました。その結果、10年前の約2万5千箇所に比べ、2025年時点で全国の保育施設数は約4万箇所近くにまで増加しました。
しかし、急激な施設増加は、都市部では「保育士の奪い合い」、地方では「子どもの奪い合い」という新たな問題を引き起こしました。特に地方では少子化の影響が深刻で、施設の定員割れが常態化しつつあります。都市部でも、立地や保育の質で選ばれない園は定員を満たせず、収益悪化に苦しむケースが目立ってきました。
保育園経営の明暗
2024年度の保育事業者の損益状況を見ると、過去最大規模の人件費引き上げや配置基準の見直しによる加算措置により、半数以上の園が「増益」となりました。とくに、基準以上の保育士を確保していた園には新たな収入源が生まれ、経営の安定化に寄与しています。
一方で、約45%の園が「減益」または「赤字」に陥っているという厳しい現実もあります。保育士の確保がままならない事業者では、受け入れ定員の縮小を余儀なくされ、特に0~2歳児の定員充足率が低い園では人件費が重くのしかかります。さらに、補助金の不正受給や資金流出が発覚し、行政処分を受ける事例も見られます。
このような経営環境の二極化が、2025年に「14件」という過去最多の倒産につながったのです。これは前年の2倍にあたります。休廃業や解散も急増し、市場から退出する園が増えており、「選ばれる園」と「淘汰される園」の明暗がくっきり分かれる時代に突入したと言えるでしょう。
待機児童数の減少
一方で、待機児童の問題は改善してきています。待機児童数は8年連続で減少し、2025年には2254人まで縮小。2017年のピーク時(2万6000人以上)から見ると、1割未満になりました。9割近い自治体で「待機児童ゼロ」となったのは、国と自治体による「受け皿拡大」の成果でもあります。
しかし、施設を増やせば全てが解決するわけではありません。たとえば、都市部では「人気の園に入りたい」というニーズが高まり、特定の園に申し込みが集中する「隠れ待機児童」も依然として存在します。さらに、1・2歳児の枠不足は依然として課題であり、待機児童全体の8割以上がこの年齢層に集中しています。これは、育休明けの復職希望者が多い時期であるため、保護者の働き方改革とも密接に関わっています。
過疎地の苦悩と都市部の再編
地方では、子どもの数そのものが減少傾向にあり、保育園の定員割れが深刻化しています。過疎地の定員充足率は75%台にまで落ち込み、この5年間で大きく低下しました。利用児童数が減れば収入も減少し、経営は厳しさを増します。一方、都市部では新設園が乱立した結果、立地やサービス内容の差別化が重要になり、「選ばれない園」が淘汰される現象が起きています。
このように、地域ごとに「余剰」と「不足」が混在するいびつな構造が形成されているのです。ここで問われるのは、「ただ数を増やす」から「質をどう高めるか」への政策転換です。2026年からは国も「量」から「質」へのシフトを鮮明にし、保育士の配置基準や処遇改善に力を入れています。
保育園経営の複合化と多角化
こうした経営環境の中で、いち早く新たな取り組みに舵を切った園もあります。たとえば、定員割れに悩む園が一時預かりや病児保育を導入することで新たな需要を開拓したり、高齢者デイサービスと調理室や事務部門を共有するといった複合型事業への転換で固定費を削減するケースも増えています。
また、保育の質向上や多様なニーズへの対応に活路を見いだす園も現れました。保育士の専門性を高めたり、ICT(情報通信技術)を活用した園児管理や保護者との連携強化を進めるなど、従来の枠にとらわれない工夫が求められています。今後は「質で選ばれる園」がさらに存在感を増していくでしょう。
まとめ
保育施設の倒産が最多を記録した2025年。女性の就業率や共働き世帯の増加は今後も続く見込みであり、保育ニーズそのものがゼロになることはないでしょう。今後は「いつでも・どこでも同じようなサービス」ではなく、「地域や家庭ごとの多様な要望にどう応えるか」が問われる時代になります。
新しいニーズに応え、選ばれる保育園のヒントは、目の前の地域や家庭の声の中にきっと隠れています。


