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2026

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    「まあ、なんとかなるわ」に宿る再登板の覚悟。大阪サニタリーを救った宇野社長の“楽観と誠実”の経営哲学

    「まあ、なんとかなるわ」に宿る再登板の覚悟。大阪サニタリーを救った宇野社長の“楽観と誠実”の経営哲学

     1955年の創業以来、サニタリー技術のスペシャリストとして日本の飲食の安全を支え続けてきた専門メーカー、大阪サニタリー株式会社。その歴史が途絶えかけた10年前、一度は定年退職した宇野友三郎氏が再び社長として戻ってきた。

     「大阪弁で品がない」と自嘲しながらも、その言葉には営業現場で叩き上げられた勝負勘と、社員や社会への深い慈愛がにじむ。再登板からの10年で、いかにして組織を立て直し、さらには「次世代医療」という新領域へと導いたのか。宇野社長の魂の言葉を、余すことなくお届けする。

    「来なけりゃ潰れてええのか」。再登板への覚悟と使命感

    定年退職後、再度代表取締役として経営の重責を担う決断をされました。その原動力は何だったのでしょうか。

     正直に申し上げると、自分から能動的に「やりたい」と手を挙げたわけではないんです。社員たちから「社長として、戻って来てください」と頼まれたのがきっかけでした。「会社がうまくいっていない、このままでは潰れてしまうかもしれない」――そう言われたときに、1955年の創業以来、60年以上にわたり飲食の安全・安心を支えてきたこの会社をここで終わらせるわけにはいかないという想いが湧いてきました。

     取引先の方々からも同じような声をいただきました。「君が戻って来なければ、この会社は潰れるが、それでもいいのか」と。大手飲食製造メーカーの皆様の生産設備として、私たちのサニタリー(衛生完備)製品やプラントが、日本の食文化や医療を支えているという自負がありました。その社会的使命を果たし続けるためにも、やはり潰すわけにはいかない。原動力といえば、それは 「頼まれたから応える」という純粋な想いと、60年間培ってきた技術と信頼を次の世代につなぐという使命感 で、社長として当社に復帰しました。

    10年前に再就任された際、会社再建にあたり、まず何から着手されましたか。

     まずは、現状把握です。私がいた頃と組織がどう変わったのか、市場環境がどう変化したのか、お客様のニーズがどこにあるのか――それらを正確に把握することから始めました。管理職の人たちの話をじっくり聞き、営業の最前線で何が起きているのかを理解することに時間を費やしました。

     サニタリー製造業界は、食品衛生法や薬機法などの規制対応、HACCPやGMPといった品質管理基準への適合が求められる厳しい世界です。その中で、お客様が本当に求めているものは何か、当社の強みである60年以上の経験とノウハウをどう活かせるかを現場の声を聞きながら手探りで再構築をし、社長に就任してから国内外の工場建設に携わり、時世を考慮し「バイオ」という次世代医療へも進出しました。コロナ禍の時に始めた「クラフトビール/ウィスキー」事業も好調です。経営者が独りよがりで判断するのではなく、現場が何を感じ、何を必要としているのかを理解すること が、再建の第一歩だと考えたのです。

    人は裸になればみんな同じ。宇野流「人」の経営哲学

    宇野社長は経営企画室の澁澤久栄(渋沢栄一の妹の子孫にあたる人物)さんから「人徳の塊」と称されていますが、人と接する際に最も大切にされていることは何でしょうか。

     「人徳の塊」なんて、そんな大層なものじゃないですよ(笑)。ただ、ビジネスにおいても人と接する際に心がけているのは、まず自分のスタイルをオープンにすること です。特にサニタリー製造業界は技術的な専門性が高く、お客様との信頼関係が何より重要です。

     「自分はこういう人間ですよ」と最初から見せることで、相手も心を開いてくれる。大阪弁で品のない私ですが(笑)、それも含めて受け入れてもらう。相手も私のことを「どういう人かな」と思っているだろうし、私も相手を「どういう人かな」と思っている。それなら、お互いにオープンにして、良い関係を築いていきましょうというスタンスです。これは取引先との関係でも、社員との関係でも同じです。地位や肩書きで人を判断せず、フラットに接する。人は裸になればみんな同じですから。そうすることで、本音で語り合える関係が生まれ、結果的にビジネスもうまくいきます。

    美点凝視の経営の実践において、一つだけ許せないこと

    「人を育てる」という点において、部下を信じ抜くための「心の忍耐」をどのように維持されていますか。

     部下を「信じ抜く」というより、最初から疑ったことがないです。サニタリー技術は経験がものを言う世界です。失敗から学ぶことも多い。だから、まずやらせてみる。それで失敗があれば、その都度すぐに修正を促します。私は後から「あの時はこうだったな」ということをほとんど言わないですよ。タイムラグを置かずに、その場で修正させるのが私のスタイルです。

     ですから、「心の忍耐」というほど我慢しているわけではありません。むしろ、失敗した時には「自分の説明が足りなかったかな」と自分自身を振り返ることのほうが多いですね。 ――技術的な指示が不十分だったのか、お客様の要望の伝え方が悪かったのか。そう考えると、部下に対する不信感は生まれません。

     それに、人は絶対に何か能力を持っているものです。プラント設計が得意な人、現場施工に強い人、お客様対応が上手な人――それぞれの長所をいかに見抜き、適材適所で活かすかが問われます。悪いところをクローズアップするのではなく、いいところを評価してあげる。それが私の考える人材育成です。

     ただし、一つだけ許せないこと があります。それは 「人のせいにすること」 です。「お客様がこう言ったから」「あいつがこうしたから」という言い訳をする時には、厳しく叱ります。それは相手が悪いのではなく、君の対応や説明が不十分だったなと。特に当社の製品は、飲食の安全や医療に直結する仕事です。責任転嫁は絶対に許されません。

    失注は「次への投資」。営業現場で培った経営眼

    長らく営業の最前線にいらしたご経験は、社長業における「決断の精度」にどう活かされていますか?

     営業で一番嬉しい経験は、大きなプラント案件の見積もりを出して、それが決まった時ですね。食品工場や医薬品工場の基幹設備を任せていただけるということは、お客様からの絶大な信頼の証です。苦労してよかったと心から思える瞬間です。

     逆に失注した時は、もちろんショックも大きいのですが、「合わなかったのかな」とある程度割り切ります。価格競争で負けたなら仕方ない。ただし、価格以外の理由――例えば「御社は技術力が不足している」「納期対応力に課題がある」と言われた時には、それを必ず次の機会に活かします。

     実際、お客様からの指摘を受けて、高真空二重管の開発やファインウェッジ(L形ストレーナ)の製品化、最近ではTansan Pro(カーボネーター)のリリースなど、新製品開発につながったケースも多々あります。失注は次への投資 と考え、技術力や製品ラインナップの強化に取り組んできました。営業時代に培ったのは、切り替えの早さだと思います。後悔するよりも、次にどうするかを考える。市場環境が変わる中で、悩んでいる時間があれば、次の一手を打つ。それが営業の現場で身につけた習慣です。

    組織が苦境にある時、リーダーが発する「言葉」にはどのような力が宿るべきでしょうか。

     苦境にある時こそ、リーダーは落ち込んではいけないと思っています。平々凡々とした日々なんてないです。みんなしんどい。だからこそ、リーダーには楽観主義が求められる。

     「まあ、なんとかなるわ」という言葉には力があります。 苦境は必ずある。でも、時間は解決してくれる。リーマンショックや震災、コロナ禍など、様々な危機を乗り越えてきましたが、その都度、必ず次の時代には光が見えてきます。関西弁で「しゃあないな」という言葉がありますが、これは単なる諦めではありません。「もう気にしないでおこう、次に進もう」という前向きさも含んでいます。

     特に当社のような専門メーカーは、長期的な視点が必要です。短期的な苦境に一喜一憂せず、リーダーの言葉は組織を前に進めるためのものであって、誰かを責めるためのものではないですから。

    渋沢青淵(せいえん)哲学がもたらした化学反応

    澁澤久栄さんという存在が、宇野社長の経営にどのような化学反応をもたらしていますか?

     澁澤さんが入社してから、当社の視野が大きく広がりました。彼女を通じて「渋沢栄一は何事にも前向きな楽観主義で、客観的な発想を持ち、失敗してもどんどん前進していく人だった」ということをよく話してくれます。

     実は当社も今、大きな転換期にあります。2024年10月に 未来医療国際拠点「Nakanoshima Qross(中之島クロス)」のリエゾンオフィスに入居し、国立循環器病研究センターとの医療機器共同開発プロジェクトを進めています。 また、積水化学工業様やサイフューズ様との再生医療分野での協業も展開中です。澁澤さんの存在は、こうした新規事業への挑戦を後押ししてくれています。

     渋沢栄一は「道徳経済合一説」を唱えましたが、当社も同じ考えです。利益を追求するだけでなく、社会に貢献し、お客様に安全・安心を提供し、従業員を大切にする。その思想が、彼女を通じて経営戦略に化学反応を起こしているのだと思います。

    上が苦しみ、現場の汗に報いる。経営者として譲れないもの

    経営者として「これだけは譲れない」という信念を教えてください。

     一つは、税金はきちんと払うということです。儲かったら喜んで払う。これは企業の社会的責任です。そして、利益が出たらその分は社員にも還元する。これは私が入社した時からずっと続けているスタイルです。

     この10年間、役員賞与があったのは3回くらいでしょうか。利益が上がらない時は役員賞与なし。でも従業員には、ほんの少しでも支給する。 管理職になればなるほど厳しくて当たり前。現場で汗を流している人たちを苦しませてはいけない。 それが私の信念です。

     もう一つは、汗を流さずに報酬を得ることは絶対にダメだということ。 株や不動産、FXなどの投機的な事業には一切手を出しません。当社の事業は、実業です。汗を流して働いて、報酬を得る。そして人の信頼関係が育っていく。それが正しい姿だと思っています。だからこそ、障害者施設への支援やカンボジアでの学校建設という社会貢献活動、また業界全体のレベルアップのための「クラフトビール・ウイスキー無料講習会」の開催など、次世代への投資も惜しみません。

    楽観主義を貫き、人を信じる力を持つ

    最後に、ビジネスマンや経営者へメッセージをお願いします。

     先行きが見えない不安というのは、みんなが持っているものです。でも未来のことは、社長一人が抱え込むのではなく、みんなで考えるべきことです。みんなが苦しい時も楽しい時も一緒に。そういうオープンマインドでやっていくことが大切だと思います。

     そして、基本的には楽観主義になってください。 クヨクヨしすぎないこと。なんとかなる!という気持ちで、トップを進んでいくべきです。失敗を恐れていたら、新しいことは何もできません。不安ばかりを抱えていても前には進めません。時には「まあ、しゃあないな」と割り切ることも必要です。

     最後に、人を大切にしてください。技術も設備も大事ですが、結局は人です。人を信じ、人を育て、人と共に成長する。当社が60年以上続いてこられたのも、そうした「人の力」があったからです。フラットに接し、自分のスタイルを大切にしながら、前を向いて進んでいく。それが、私から皆さんへのメッセージです。

    #大阪サニタリー#宇野友三郎#楽観主義#人を大切に#トップインタビュー

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