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「企業は人なり」の原点。全体最適の視点とチャレンジ精神で描くニチバンの次の100年
ビジョナリー編集部 2026/04/13
「セロテープ®」や「ケアリーヴ」など、私たちの生活に身近な製品を生み出し続けるニチバン株式会社。100年を超える歴史を持つ同社において、2019年に社長に就任したのが、長年技術畑を歩んできた高津敏明代表取締役社長だ。長い歴史の中で培われてきた「変えてはいけない」品質への絶対的な信頼と、これからの時代に向けて「変えるべき」前例主義からの脱却。未曾有のコロナ禍を乗り越え、グローバル展開や新たな価値創出を見据える同氏に、経営の原点と次世代へ向けた組織変革のビジョンを伺った。
現場での苦労と恩師の教え。技術畑から学んだ「全体最適」の視点
技術畑でご経験を積まれてきた中で、ご自身の経営観に最も影響を与えた出来事は何でしょうか。
私がニチバンに入社したそもそもの理由は、自分が技術者として設計したものがお店に並び、それをお客様に買っていただくことが実現できれば素晴らしいと考えたからです。埼玉事業所にいた頃は、自主性を重んじ、「好きなようにやっていい、何かあったら責任は取る」と言ってくれる上司に恵まれました。失敗も成功も経験させてもらい、将来自分に部下ができたときには、そんな対応ができる上司になりたいと強く思いました。
私のキャリアにおける大きな転換点は、生産現場から経営企画室へ異動したことです。当時は東日本大震災の直後で、工場は直接的な被害は少なかったものの、計画停電によって生産を止めざるを得ず、原材料をドラム缶から手作業でタンクへ移送するといった、非常に苦労の多い時期でした。
そうした激動の中で経営企画室に移り、当時の上司から教わったのが 「全体最適」として俯瞰して物を見る見方 です。それまでは一つの工場しか見ていませんでしたが、部分最適では良くても、グループ全体としての最適化ができなければ意味がない。この経営的な視点は、現在の私の大きな軸となっています。また、1976年に資本参加いただき経営の危機を救っていただいた大鵬薬品工業株式会社創業者の小林幸雄名誉会長からは、勝負時の「目利き」や判断の重要性を直接伺う機会があり、そのお話も今の経営判断に深く活きています。
コロナ禍の危機感とオフィス移転。「当たり前」を疑い、コミュニケーションを再構築する
社長に就任されてから、お考えが変わられた瞬間はありましたか。
2019年に社長に就任し、翌年から新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。工場では現場と間接部門を接触させないようにし、食事の際も全員が同じ方向を向いて食べるなど、これまで当たり前のように取れていたコミュニケーションができなくなりました。その時、意思疎通の難しさと 「当たり前のことができる大切さ」 を痛感しました。
従来のニチバンは、先行して新しいことに取り組むよりも、様子を見てから動く慎重な社風でした。しかし、コロナ禍の緊急事態においてはそのような姿勢では通用しません。在宅勤務の導入など、「うちの会社では絶対やらないだろう」と思われていたことを先んじて実行しなければなりませんでした。この経験が、 「どうせ無理だ」という社内の意識を転換する良いきっかけになった と考えています。
また、直近の本社オフィスの統合移転も、コミュニケーションの再構築が大きな目的です。従来の旧本社は複数階に部署が分かれており、同じビルで働いていても別のフロアの社員の顔が分からない状態でした。今回、隣駅にあった営業部門なども含めてワンフロアに集約したことで、横のつながりが生まれ、すぐに相談できる環境が整いました。この空間が、新製品開発のスピードアップや売上貢献に目に見える形でつながっていくことを期待しています。
100年企業が守るべき「企業品質」と、打ち破るべき「前例主義」
歴史ある企業として、変えるべきものと守り続けるべき伝統についてはどのようにお考えですか。
社内で全国の拠点を回って対話会を行っているのですが、そこでもまさにこのテーマを話し合っています。社員の誰もが口にするのは、 「品質」と「ブランド」、つまり「企業品質」は絶対に変えてはいけない ということです。製品の品質はもちろん、企業としての信頼や誠実さがあるからこそ、お客様に製品を買っていただけています。不祥事一つで企業の信頼が一瞬にして失われる今の時代、ここは絶対に守り抜かなければなりません。
一方で、変えるべきところもたくさんあります。100年続いているがゆえの「前例主義」や、「やったことがないから」と尻込みする内向きな姿勢は、すぐにでも変えなければならない喫緊の課題です。
そのために、私が社長に就任して最初に取り組んだのが「理念の浸透」です。単に理念を唱和するのではなく、それぞれの部署で「この理念に対して、私たちはどういう想いで取り組むのか」を自分ごととして語ってもらい、実際の仕事や判断に結びつけてほしいと伝えてきました。最近では、採用面接に来た学生から「チャレンジできる会社だと感じた」という声を聞くようになり、若い世代の意識が少しずつ変わってきていることを心強く感じています。
サステナビリティを事業につなげ、新たな市場を切り拓く
セロテープ®は植物由来の原材料で作られているなど、早くからサステナブルな取り組みをされていますね。
セロテープ®は75年を超える歴史がありますが、セロハンフィルムは木材パルプ、粘着剤も天然ゴムなど、主原料は天然素材から作られています。以前はそれをアピールしても、結局は価格の話になり、石油由来の安価なテープに負けてしまうことがありました。
しかし、近年は「サステナブル」という価値観が浸透し、セロテープ®の持つ環境価値が改めて評価されています。購買担当者だけでなく、企業の経営企画や環境担当の方に価値をお伝えし、共感して購入いただけるようになってきました。弊社では、テープを使い終えて残った芯を集める「巻心(まきしん)ECOプロジェクト」を16年にわたって続け、国内の植林活動やフィリピンのマングローブの植林につなげる活動も行っています。社会的な貢献や環境への対応をしっかりと行い、それが最終的に事業の成長にもつながっていくサイクルを作ること が不可欠です。
また、スポーツテーピングの技術を応用した「日常生活でも使いやすいテーピング」も新たな市場として成長しています。スポーツの枠を超え、手指や足裏をサポートする専用形状のテープを「バトルウィン プロテクター」シリーズとして打ち出したところ、立ち仕事で疲れを感じている方や、中高年の方々に非常に響き始めました。このように、私たちが当たり前だと思っている技術も、伝え方や発信の仕方を変えることで、世の中の新しい役に立てると実感しています。
「企業は人なり」。共感で周囲を巻き込み、チャレンジを続ける会社へ
5年後、10年後の未来に向けて、ニチバンをどのような会社にしていきたいとお考えですか。次世代へのメッセージも併せてお願いします。
2030年に向けたビジョンとして掲げているのは、「グローバル展開」と「新しい価値の創出」です。日本国内で評価いただいている製品を世界中のお客様に使っていただくこと。そして、メーカーとしてイノベーティブな新しい価値を創出し続けること。この2つの軸は普遍的なものだと考えています。
経営判断のベースにあるのは「社員にとって何がベストか」という考えです。いくら立派な戦略を立てても、実行するのは人です。 「企業は人なり」という言葉の通り、従業員がワクワクして働き、「ニチバンで働いてよかった」と家族や知人に誇れる会社にしていくこと。 グループ全体で1,200人以上の従業員とその家族の生活を背負っている責任を胸に、人を大切にする経営をこれからも受け継いでいきます。
これから会社を担っていく次世代の皆さんには、変化の激しい時代であっても保守的にならず、チャレンジする精神を持ち続けてほしいと伝えています。失敗しても修正し、階段を一歩ずつ上がっていけばいいのです。自分の仕事に自信と誇りを持ち、周囲から共感を得て、みんなを巻き込みながら前進していけるリーダーに成長してくれることを願っています。


