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「感性×AI」で解き明かす“バズる”の方程式。VAZ谷社長が挑む、共感エコノミー時代の新たなマーケティング論
ビジョナリー編集部 2026/04/07
かつてYouTuberを中心としたインフルエンサー事務所として一世を風靡し、その後、経営危機に直面した株式会社VAZ。その再建を託され、見事に黒字化へと導いたのが、現・代表取締役社長の谷鉄也氏だ。谷氏は今、単なるインフルエンサー事務所の枠を超え、若年層のトレンドとAI技術を掛け合わせた「感性AI」という新たな領域に挑んでいる。「バズる」という不確定な現象を科学し、共感経済(シンパシーエコノミー)をリードする同社の戦略と、自らアプリ開発まで行う谷氏の徹底した現場主義、そして組織再生の根底にある経営哲学に迫った。
「アテンション」から「共感」へ。再建の中で見出した次世代の勝ち筋
経営難に陥っていたVAZを個人で買い取り、再建されたと伺いました。当時の状況と、そこからどのような変革を行われたのでしょうか。
正直なところ、私が引き受けた当初のVAZは非常に厳しい状況でした。月次で多額の赤字が出ており、組織も空中分解しかけていました。親会社である共同ピーアールのCFOからは「会社として買うのはリスクが高すぎる」と反対され、結果的に私が個人で買い取ることになったのです。そこからコスト構造を見直し、1年半ほどかけて黒字化を実現しました。
私がVAZに見出した可能性は、単なる「インフルエンサー事務所」としての機能ではありません。YouTuber事務所というビジネスモデルだけでは、クリエイターが辞めてしまえば価値がなくなるため、再現性が低い。目指したのは、コンテンツ・ドリブンでありながら、マーケティング・ドリブンな会社 への転換です。
今、広告業界の流れは大きく変わっています。かつてのような、テレビCMで認知を獲得する「アテンション・エコノミー(関心経済)」から、推し活や熱狂に代表される 「共感エコノミー(シンパシー・エコノミー)」 へとシフトしています。広報(PR)と広告の境界線が溶け合い、PR的な視点で広告を捉える手法が主流になりつつある。VAZはこの新しい潮流の中で、インフルエンサーという「人」を基軸にしたマーケティングを展開できる強みがあります。
論理と感情の掛け算。「感性AI」が解き明かすヒットの正体
独自の戦略として掲げられている「感性AI」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
今年から本格的にチャレンジしているのが、 「感性AI」 という領域です。「感性」という割り切れない情緒的なものと、「AI」という確率論的で論理的なものを掛け合わせる試みです。
例えば、TikTokのショート動画がなぜバズったのか。これまでの分析は、再生数や視聴者層といった定量データが中心でした。しかし、本当の要因は動画の中に含まれる「間」の取り方や、視線の動き、声のトーンといった、言語化しにくい要素にあることが多いのです。私たちはマルチモーダルAI(テキスト、音声、画像など複数のデータを統合して処理するAI)を用いて、動画内のあらゆる要素を読み解き、「エモい」「尊い」と感じる 人間の感情のメカニズムを科学的に解明 しようとしています。
従来の広告代理店が持つデータは、どうしても「過去の理論(ストック・セオリー)」になりがちです。対して私たちは、めるぷち(女子中学生・高校生に人気のYouTubeチャンネル)をはじめとする若年層のクリエイターという「動的なデータ」をリアルタイムで持っています。彼女たちが何に反応し、何を面白いと感じるのか。その生きたファクトをAIに学習させることで、精度の高いマーケティング予測や商品開発が可能になると考えています。
「かっこつけない」リーダーシップ。組織再生の鍵は泥臭いコミュニケーション
Z世代などの若い社員やクリエイターと向き合う上で、大切にされていることはありますか。
一番大切なのは、 「おじさんになること」 、つまりかっこつけないことです。無理に若者の流行に合わせたり、物分かりのいいふりをしたりしても、相手にはすぐに見透かされますし、一番「寒い」ですから(笑)。
私は100%「おじさん」として接します。その代わり、同じ釜の飯を食うような泥臭いコミュニケーションは大切にしています。例えば、VAZのオフィスにはキッチン付きのセミナールームがあるのですが、そこで私がエプロンをつけて、社員やクリエイターのためにローストビーフや鍋ものを振る舞うこともあります。また、社員旅行ではグランピングに行き、全員で3時間のAI研修をした後に、一緒に野菜を収穫してバーベキューをし、星空を眺めました。
マネジメントの父、ドラッカーの言葉に 「戦略は真似できるが、企業文化は真似できない」 というものがあります。どんなに素晴らしい戦略も、それを実行する組織のカルチャーが健全でなければ機能しません。特に中小企業や再建フェーズの会社においては、創業者の思いや、苦しい時に支えてくれた社員との絆といった「根っこ」の部分が何よりも重要です。AIという最先端の技術を追いかけながらも、組織づくりにおいては、人間味のあるアナログなつながりを大切にし続ける。それが、私の経営における変わらぬ信条かもしれません。


