「企業は人なり」の原点。全体最適の視点とチャレン...
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「完成させず、アップデートし続ける」――三谷産業社長が語る、AI時代のプロトタイピング経営と100年受け継がれる遺伝子
ビジョナリー編集部 2026/04/23
創業約100年の歴史を持つ三谷産業株式会社。化学品やIT、樹脂・エレクトロニクスなど多角的な事業を展開する総合商社でありながら、近年は「AI社外取締役」の導入や「月刊ムー」とのコラボレーションなど、ユニークな取り組みで注目を集めている。同社を率いる三谷忠照・代表取締役社長が掲げるのは、あらゆる施策を「完成させず」に試行錯誤しながら進める「プロトタイピング」という考え方だ。AI時代に求められる柔軟な組織づくりから、学生時代の原体験、そして祖業である石炭事業から脈々と受け継がれる同社のDNAについて、その思いを語る。
制度も事業も「完成させない」。変化の時代を生き抜くプロトタイピング経営
全社を実験場と位置づけ、次々と新しい施策を打ち出されています。その背景にはどのようなお考えがあるのでしょうか。
私は事業や施策において、最初から完璧なものを目指すのではなく、最小単位でリリースし、常に改善とアップデートを続ける「プロトタイピング」の考え方 を大切にしています。
たとえば、人事制度もプロトタイピングの対象です。定年退職の事実上の廃止といった大がかりなものから、AIの知識を問う「G検定」に合格した際の全社的な報奨金制度まで、あえて「時限措置」として導入しています。理由は、普通、人事制度は慎重に設計するものですが、企業の制度を作るスピードと、時代の変化の速さが合っていないからです。かつてモーターが家庭に普及し、今ではあらゆる家電に溶け込んでいるように、コンピューターやAIもやがて社会に完全に溶け込み、今とは求められる知識が変わるはずです。だからこそ、環境の変化に合わせて柔軟に制度を変えていくプロトタイピング的なアプローチが、今の時代には合理的だと考えています。
具体的に、プロトタイピングを落とし込んだ製品もあります。グループ会社のモジュール家具「Tesera」で、用途・空間に応じて組み合わせることで、デスクやシェルフなど多種多様な家具に組み替えることができます。オフィスもTeseraを活用して、事業部毎のカラーで、働きやすい環境づくりにつながっています。

「何でもやっていい」空気感が原点。先進技術に触れた学生時代
そのような柔軟な発想や行動力の原点は、どこにあるのでしょうか。
原体験は、慶應義塾の高等部に通っていた高校時代に遡ります。同級生の半数が帰国子女という環境で、隣の大学キャンパスに行けば、コンピューター系の先進的な先生方がいて、新しい技術がゴロゴロ転がっていました。NTTドコモの方が「2010年のビジョン」の映像を見せてくれるなど、新しくてワクワクするものに触れる機会に恵まれました。
そこにあったのは、「何でもやっていい」という自由な空気感 です。大学時代には、まだ一般的ではなかった電子書籍デバイスのハードウェア設計に没頭し、アメリカのシリコンバレーでの就職後も、この電子書籍デバイスの取り組みが評価され、日本のコンテストで優勝したことがありました。
私は昔から、お堅い環境の中で少しはみ出ているバランス が好きなんです。三谷産業という歴史あるカチッとした会社の中で、少し緩んでいたり、枠からはみ出したりする部分を残しておくことが、私にとって非常に心地よい状態なのです。
組織においても、部署や立場など既存の枠をはみ出して新結合を生む環境があります。例えば、事業部がたくさんあるからこそ、お客様のニーズに応じて、全く別分野の事業部によるソリューションと組み合わせた、複合的な提案につなげることができます。また、現場のアイデアの事業化を応援する「550制度(みんなで550万円使える探索型プロトタイピング応援制度)」を活用することで、思いがけないアイデアが商品化されることもあります。ただ、そういった様々なメンバーが集うときは、会議の場でその部署だけの「方言」、つまり専門的な用語を使わず、みんなで文脈を共有しながら行う、ということは心がけています。
スリーピースを着て真面目にふざける。「AI社外取締役」に込めた遊び心
ビジネスコンテストの開催や「AI社外取締役」など、ユニークな取り組みも話題ですね。
主催するビジネスコンテストに宇宙服を着て登場したり、「月刊ムー」さんとコラボレーションしたりと、一見ふざけているように思われるかもしれません。しかし、私たちはあくまで 「スリーピースを着て、ネクタイを締め、すごい真面目な顔をしてふざける」のが三谷産業らしさ だと思っています。真面目な形をしているのに、どこか変なものが混じっていて違和感がある。そういう会社でありたいのです。

「AI社外取締役」の導入も、その延長線上にあります。AIの時代において、生成AIを使う作業そのものがプロトタイピングです。最初から100点の答えが出るわけではなく、6割、7割の精度のコメントを発言するのに対し、微調整を繰り返して理想に近づけていく。
ビジネスも同じです。真っ直ぐ一直線に走るだけでは壁にぶつかってしまいますが、小刻みに軌道修正を繰り返せば、致命的な失敗を避けられます。ドラえもんの漫画に、ひみつ道具によって体のパーツがばらばらにくっついてしまったのび太くんが「これはこれで面白いじゃない」と言うシーンがありますが、まさにその精神です。当初想定していなかった面白い結果を見つけることこそが、プロトタイピングの醍醐味 だと考えています。
「自分たちは何屋か」を定義せず、常にアップデートし続ける
まもなく創業100年を迎えられますが、会社のアイデンティティについてはどのようにお考えですか。
実は、私は周年行事などの節目そのものは、あまり重視していません。なぜなら、100周年の翌日には、また違うものが生まれているかもしれないからです。
社内でも「自分たちは何屋なのか」を常に問い直しています。私はよく 「もうすぐ創業100年のベンチャー企業です」「イノベーションを作れる複合商社です」 と名乗ります。AとBの事業があるだけでなく、AとBを掛け合わせて新しいXを生み出す。そう名乗ることで、自分たちの意識もイノベーションに向かっていきます。
ある葬儀屋さんの話があります。急な雨で参列者が困っている時、「うちは葬儀屋なので傘の用意はありません」と答えるのか、それとも自分たちを「大切な人とのお別れコーディネート業」と捉えて傘を買いに走るのか。自分たちの事業の輪郭を固定してしまうと、やらないことも明確になりすぎてしまう危うさ があります。だからこそ、枠組みをカチッと決めすぎず、常にアップデートし続けることが重要なのです。
石炭事業からIT・化学品など6つの事業へ。時代を超えて受け継がれる「三谷産業のDNA」
事業領域が変化し続ける中で、変わらずに大切にしている「芯」のようなものはあるのでしょうか。
私たちの祖業は石炭の卸売ですが、そこから受け継がれているエピソードがあります。当時、お客様から「石炭を10トン持ってきてもらいたい」と言われても、私たちは生産現場を確認し「ボイラーへの投入量が多すぎる。6トンで十分です」と提案していました。最初は怒られましたが、結果的に経費削減と貯炭場のスペース削減につながり、空いた場所で新たな事業を始めることができました。
また、戦後には化学肥料を作る際に出る硝酸の燃えカスを引き取り、石炭への配合用として全国の練炭工場に販売し、何十年もかけてその山をなくしたこともありました。ある人にとって無駄な廃棄物が、別の人にとっては良質な原料になる のです。
この考え方は、現在にも脈々と息づいています。お客様から「在庫管理システムが欲しい」と言われても、現場を見て「作りすぎが原因だから、必要なのは生産管理システムです」と提案する。都市鉱山から資源を回収し、新たな原料として再利用する。
領域がITや化学品などに変わっても、分野が違う事業領域からの知見を持ち込んで活用しながら、お客様の課題の本質に向き合う姿勢 は変わりません。これこそが、石炭事業時代から獲得してきた三谷産業の遺伝子であり、イノベーションを生み出す源泉なのです。


