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2026

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    「ありがとうの心」と「武士の精神」――ALSOK社長が語る、震災で確信したパーパスと「人財」を軸に据えた未来への変革

    「ありがとうの心」と「武士の精神」――ALSOK社長が語る、震災で確信したパーパスと「人財」を軸に据えた未来への変革

    創業以来、ALSOK株式会社の根幹を成す「ありがとうの心」と「武士の精神」。このパーパスは、新卒で同社に入社した栢木伊久二(かやき いくじ)社長が学生時代、一冊の本と出会ったことに端を発する。神戸支社時代には阪神・淡路大震災を経験し、警備が 「社会の安全を支える最後の砦」 であることを身をもって確信した。現在、栢木社長はAI活用や事業領域の拡大を推進しながらも、その中心には常に「人」があるべきだと説く。未曾有の災害時に貫いたプロ意識と、次世代の「人財」と共に描く今後の 展望を聞いた。

    学生時代に手にした一冊。感謝を起点とする「ありがとうの心」こそ企業の背骨

    創業以来の経営理念である「ありがとうの心」と「武士の精神」について、社長ご自身はどのように捉えていらっしゃいますか。

    ALSOKの社員は全員、 「ありがとうの心」と「武士の精神」 をもっています。新入社員には5日間の宿泊研修を行っており、その中でこの2つの理念を心に沁み込むまで徹底して教えていますので、一人として知らない者はおりません。

    警備という「安全・安心」を売る仕事において、目に見える商品は存在しません。例えば、防犯用のセンサーを見てもお客様は安心だとは思いません。お客様が感じる安心感は、その先にある、提供するサービスの質によって決まるのです。だからこそ、常に感謝を忘れない「ありがとうの心」と、強く、正しく、温かい、「武士の精神」は、私がいなくなろうとも、時代やビジネスモデルがどう変わろうとも揺るがない、当社の背骨 なのです。

    私自身、この理念との出会いは学生時代に遡ります。就職活動中に、創業者・村井順の著書『「ありがとうの心」の経営』を手に取ったのがきっかけでした。『人間は生きていく中で、産んでくれた親、守ってくれた先生、社会など、自分を支えてくれる全てに感謝しなければならない』という教えに、深く腹落ちしました。企業であれば、それは社員、株主、お客様というステークホルダーへの感謝に他なりません。

    「武士の精神」とは、卑怯な振る舞いをせず、嘘をつかず、愚直に努力を続ける姿勢を指します。情報が瞬時に拡散する現代において、その場しのぎの嘘は通用しません。常に誠実であること。この精神を忘れた時が、私が警備の仕事を辞める時だと考えています。

    震災の極限状態で貫いた「安全最優先」の使命感。社会から寄せられた信頼

    阪神・淡路大震災の際、神戸支社で非常に過酷な経験をされたと伺いました。

    震災は今でも決して忘れることのない、非常に壮絶なものでした。少し話は遡りますが、私がALSOKへ入社する際、親からは「大学まで出て、なぜ警備員になるの」と言われていました。しかし、当時は「水と安全はタダ」と言われていた中、水はお金で買われるようにもなってきており、「これからは、安全もお金で買う時代になるのではないか」と考え、入社を決断したのです。そうして、神戸支社へ配属された中で、かの阪神・淡路大震災が起こりました。

    当時の状況は想像を絶するものでした。倒壊した建物の中をALSOKの車両で走ると、被災者から「ここにお父さんが埋まっているから、掘ってくれ」と言われることもありました。私が出社したころには、現場の隊員が帰ってきて、「懐中電灯を渡しました」と言っていました。瓦礫の下に埋まった車両から、這って抜け出してきた社員もいました。

    金庫のカタチだけが残った、倒壊した銀行の金庫を守るためにパイプ椅子一つ持って警備員を配置しました。行員の方々が到着する前から、支店の安全を確認するために駆けつけたため、行員の方々からは、「うちの行員はお昼頃まで誰も来ないのに、ALSOKさんはなんで朝から来てくれているんだ」と、驚きと感謝のお声をいただきました。 混乱の中で、お客様から「あなたたちがいてくれて本当に助かった」という言葉をいただいた時、我われの仕事が社会にどれほど必要とされているのか、その使命を再確認したのです。結果として、警備会社の存在意義を世の中に知っていただく契機にもなりました。

    こうした非常事態において、自らの安全を確保した上で他者の安全のために動けるのは、日頃から 「非常呼集」「非常参集」 ――すなわち、『有事の際には這ってでも会社へ出て、社会に貢献する』という覚悟をもって、教育を積み重ねているからです。この経験が、現在の「社会インフラとしてのALSOK」という誇りを形作っています。

    新たなビジネスチャンスは「本社」ではなく「若手人財」にあり

    社長に就任されてから、特に「人」を大切にする文化を強化されているように感じます。

    私は「人材」を、会社にとっての「財産」である 「人財」 と表記しています。全国に数万人の社員を抱える当社において、最も重要なのは、本社の経営陣ではなく、最前線でお客様と向き合う現場の社員です。

    本社の経営層と話をしても、そこから新たなビジネスが生まれることは、なかなか無いのが実情です。現場で多感な感性を持って働く若い世代との対話にこそ、未来へのヒントがあります。そのため、私は全国の事業所を回り、若手社員と直接対話する機会を設けています。社長就任後に対話した若手社員は1,500人を超えました。最初は緊張していても、回を重ねるごとに「社長、こういうところを改善してほしいです」「こんなサービスに挑戦したいです」という声が上がってくるようになりました。私自身も、彼らと話していると、新しい発見を得ることがたくさんあります。

    そして、こうした現場からの提案を実際に反映させる取り組みの活性化を図りました。それが、月に1度の「提案制度委員会」です。委員会には提案の積極的な採択を促す一方で、自ら事業所を回り、その活用を呼びかけました。すると、次第に注目が集まっていき、社員も積極的に意見を発信してくれるようになりました。自分の意見で会社が変わるという実感を持つことは、社員の大きなモチベーションにもなります。社員が自走し、挑戦し、成長すること。その挑戦を応援できる環境を整えることこそ、経営者である私の責務だと思っています。

    AIと人の融合がもたらす新たな安心。120周年を見据えた「警備もやる会社」への変革

    テクノロジーの進化が加速する中での、今後のALSOKが目指す姿を教えてください。

    ALSOKは昨年、創業60周年を迎えました。次の60年、すなわち120周年に向けて、我われは「警備の枠」を自ら広げていかなければなりません。もっと、社会インフラとして外せない企業になる。そこで掲げているのが、 「警備もやる会社」 へのトランスフォーメーションです。事業ポートフォリオを拡大し、「ALSOKって、警備もやっているんだ」と言われるような会社へと成長していく必要があると思っています。

    現在、労働人口の減少に伴い、ビルの管理や設備の保守を担うプロフェッショナルが不足しています。我われには全国2,300以上の拠点があり、すぐに駆けつけられる機動力、そして専門知識を持った人財というインフラがあります。この「ラストワンマイル」を担う力こそが、これからの社会で不可欠な武器になると確信しています。

    もちろん、AIの活用も積極的に進めています。しかし、AIはあくまで「判断」をサポートするツールです。例えば、先日の大阪・関西万博では問い合わせに対応するAIを展示しましたが、AIが膨大なケースを学習するまでは、警備員が一部サポートをしていました。しかし、何万という問い合わせに答える中で、最終的には、警備員の出番はほぼなくなりました。しかしゼロにはできなかった。AIだけですべてに対応するとなると、膨大な時間と費用がかかる。当面はAIと人が複合的に動いていく潮流を感じています。

    だからこそ、AIが導き出した最適な解決策を、教育を受けた温かみのある「人」が、現場で実行する。このAIと人の『高度な融合』こそが、我われが提供する『新しい安心のかたち』なのです。

    次世代リーダーへ。冷静な判断力と「相談相手」を持つ勇気を

    これからの時代を担う若手社員や、次世代のリーダーたちへメッセージをお願いします。

    「挑戦」と「成長」でいこう。この言葉を送りたいです。これは、私が新卒社員に送っている言葉でもあります。

    これからは「VUCA」と呼ばれる、不確実で複雑な時代です。こうした変化の激しい環境でリーダーを務めるには、常に 「誠実さ」を土台に置き、物事を「冷静」 に判断する力が必要です。

    もう一つ伝えたいのは、 「相談相手を持ってほしい」 ということです。独り善がりの判断は、往々にして見落としを生みます。社内だけでなく社外にも多くの仲間をもち、意見を戦わせることで、自分の視座を高めることができます。

    ALSOKが120周年を迎える時、そこには誇りを持って働く社員たちがいて、地域社会から「ALSOKがいてくれて良かった」と心から信頼される存在でありたい。そのためにも、私はこれからも社員一人一人の声に耳を傾け、共に挑戦を続けていきたいと考えています。

    #トップインタビュー#栢木伊久二#ALSOK#ありがとうの心#武士の精神

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