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「なぜ?」から始まるビジネスの突破口――アブダクション思考の実践術
ビジョナリー編集部 2025/07/31
あなたはこのような経験をしたことはありませんか?
- 「競合他社の商品が突如として売れ始めた理由がまったく分からない」
- 「プロジェクトがうまく進んでいたのに、思いもよらぬトラブルが発生した」
このような「想定外」の出来事に出会ったとき、私たちはどう原因を考えるべきなのでしょうか?
実は、こうした局面で力を発揮するのが、アブダクション思考です。
アブダクションとは何か?
「アブダクション」は、日本語で「仮説的推論」とも呼ばれます。
難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は私たちの日常でも自然と使っている思考法です。
具体例で紐解くアブダクション
たとえば、外に出た時に地面が濡れていたとします。あなたは「雨が降ったのだろうか?」と考えますよね。
この「雨が降ったのかも」という推測は、観察した結果から原因を逆算して仮説を立てており、これがアブダクションの思考です。
他の推論法との違い
- 演繹法
既存の原理やルールから、論理的に結論を導く方法。
例)「人間は必ず死ぬ。ソクラテスは人間だ。だからソクラテスは必ず死ぬ。」 - 帰納法
複数の事例や観察から共通点を抽出し、一般論にまとめる方法。
例)「A地点の白鳥は白かった、B地点の白鳥も白かった。だから白鳥はみな白い。」 - アブダクション
目の前の事実(結果)から、最もありそうな原因や説明(仮説)を逆算して導く方法。
例)「地面が濡れている。雨が降ったのかもしれない。」
アブダクションは、演繹法や帰納法と違い、必ずしも正解を導き出すものではありません。しかし、「未知の現象」や「前例のない問題」に直面したときに、柔軟に仮説を立てて素早く行動するための思考法です。
ビジネスでアブダクションが不可欠な理由
変化と予測不能の時代、論理だけでは突破できない壁
現代ビジネスは、「過去の延長線上の論理」や「データ分析」だけでは通用しない予測不能な時代に突入しています。
- 市場や消費者ニーズの変化が速い
- 競合の動きが読みにくい
- テクノロジーの進化が激しい
そのような中で、従来の演繹的な「正しさ」や帰納的な「再現性」だけを求めていては、 他社と同じ結論にしかたどり着けず、差別化やイノベーションは生まれにくくなります。
想定外をチャンスに変えるアブダクション
たとえば、新卒採用のエントリーが急増したとします。演繹法なら「景気回復の影響だろう」と一般論に落ち着くかもしれません。帰納法なら過去のデータを分析して答えを探すでしょう。
しかし、アブダクション思考なら
- 「もしかしたら有名インフルエンサーがSNSで自社を紹介したのかもしれない」
- 「競合他社が採用を控えた影響かもしれない」
- 「求人サイトの特集記事に掲載されていたのでは?」
こうした仮説を次々に立て、実際にSNSや求人サイトを調べ、 素早く「本当に起きていること」を突き止めて対策に活かせます。
アブダクションをビジネスで活かすための実践ポイント
1. 仮説を立てる習慣を持つ
アブダクションで大切なことは「とりあえず仮説を立ててみる」ことです。日常の小さな疑問や違和感に対しても、「なぜこうなったのか?」と自分なりの仮説を立ててみましょう。
- 事実(結果)に対し、「こうかもしれない」と複数の仮説を挙げる
- その仮説がどのような前提や条件に基づくかも一緒に書き出す
2. 小さく素早く検証する
思いついた仮説は、できる範囲ですぐに検証してみましょう。
- SNSや口コミをチェックしてみる
- 顧客にヒアリングする
- サイトのアクセス解析を行う
検証の過程でデータや新たな事実が得られれば、仮説を修正しながら、より現実に即した答えに近づけていきます。
3. 失敗を恐れず、フィードバックを価値に変える
アブダクションは「間違いを前提とする思考法」です。
すべての仮説が当たるわけではありませんが、失敗から得た学びやフィードバックこそが、次のイノベーションの種になります。
4. 組織で活用するなら、失敗を許容する文化が重要
アブダクションは、個人の発想力だけでなく、組織としての「挑戦」と「学び」の文化が重要です。
- 小規模なプロジェクトから仮説検証を始める
- 失敗しても責めず、経験として共有する
- 柔軟なスケジュールやリスクヘッジの体制を用意する
こうすることで、現場から新しい価値やイノベーションが生まれやすくなります。
アブダクション思考の注意点
1. 仮説と事実を混同しない
アブダクションは仮説の形成であって、証明ではありません。自分の仮説を事実と勘違いし早合点してしまうと、誤った判断や戦略に突き進んでしまう危険があります。
- 仮説と事実を明確に区別する
- 5W1Hやフレームワークで情報を整理する
- 関係者の多角的な視点を取り入れる
2. 論理だけに偏りすぎない
論理的思考は重要ですが、人の感情や現場のリアリティを無視しがちです。仮説を現場で検証する際は、必ず「顧客や関係者の声」も反映させましょう。
3. 行動に移すスピードも大切
仮説を立てることに満足して、いつまでも分析や検討ばかりしてしまうのは本末転倒です。「まずやってみる」マインドが、変化の激しい時代には不可欠です。
4. 目的を見失わない
アブダクションは手段であって、目的ではありません。「何のために仮説を立てるのか?」というゴールを常に意識しましょう。
まとめ
アブダクションは、「結果」から「原因」を逆算して仮説を立てる思考法です。
- 不確実で複雑な時代にこそ、柔軟な仮説形成が武器になる
- 失敗を恐れず、小さく検証し、フィードバックを次に活かす
- 組織で活用するには、挑戦と学びの文化づくりがカギ
あなたも今日から、「なぜ?」と問いかけ、小さな仮説を立ててみてはいかがでしょうか。思いがけない突破口やイノベーションが、きっと生まれるはずです。


