大手夏のボーナス過去最高が示す「光と影」〜好業績...
SHARE
キャッシュレス時代になぜ? 11年ぶりに1円玉が「増産」される意外な裏事情
ビジョナリー編集部 2026/08/24
QRコード決済やクレジットカードなど、日常の買い物をキャッシュレスで済ませる機会が急速に増えました。現金を使う頻度が減ったと感じている人も多いのではないでしょうか。
そのような中で、造幣局が一般流通向けとなる1円硬貨の製造について、平成27年度(2015年度)以来、11年ぶりとなる本格的な量産を開始したのです。当初の製造計画は約2,000万枚と見込まれていましたが、最終的にはその6倍以上にあたる約1億3,200万枚へ上方修正されました。
時代の流れに逆行するように思える増産には、私たちが普段利用している身近な店舗の環境変化や、日本の貨幣制度が持つ仕組みが深く関係しています。
本記事では、小銭の発行枚数の推移をはじめ、増産の背景、さらには紙幣と硬貨における発行の違いまでわかりやすく解説します。
データでたどる発行枚数とキャッシュレス化
日本の小銭(硬貨)の発行量は、社会情勢や税制の変更に大きく左右されてきました。かつて最も1円玉が製造された時期は、1989年の消費税(3%)導入時や、その後の税率改定時です。当時は商品価格に細かい端数が生じるため、大量に必要とされていました。
しかし、2010年代半ばから潮目が変わります。電子マネーやスマホ決済の普及に伴い、小銭の需要は減少しました。財務省と造幣局は製造枚数を絞り込み、2016年度から2025年度までの10年間、流通向けの製造枚数は実質的にゼロに抑えられていました。
なぜ今? 1円玉が大量に必要な事情
キャッシュレス化が進んでいるにもかかわらず、急激に需要が高まった要因として、店舗の現場で起きている3つの変化が挙げられます。
セルフレジや自動精算機の急速な普及
スーパーやドラッグストア、コンビニなどで導入が進む自動精算機や完全セルフレジの存在は大きな要因です。自動精算機でお釣りを取り扱うためには、あらかじめ機械内部のカートリッジへ一定量の硬貨をプール(保管)しておく必要があります。レジの導入台数が全国規模で拡大した結果、各店舗の機械の中に大量に確保されることになり、市場で流通する1円玉の不足を招きました。
老朽化した硬貨の世代交代
1円玉はアルミニウムでできており、非常に軽く扱いやすい反面、長年の使用によって摩耗や変形が起きやすい性質を持っています。近年、傷んだ状態の硬貨が自動精算機に投入された際、機械が正しく認識できず読み取りエラーを起こすトラブルが増加しました。精算機をスムーズに稼働させるためには、状態の悪い旧硬貨を回収し、機械に通りやすい新品の硬貨へと入れ替える必要が生じたのです。
店舗側の「現金回帰」とリスク分散の動き
相次ぐ物価高の中で、店舗側がキャッシュレス決済に伴う加盟店手数料の負担を抑えるため、あえて現金決済に限定した券売機やレジへ戻す事例が見られます。また、過去に起きた通信障害やクレジットカードのシステム障害の経験から、非常時のリスクヘッジとして現金決済の価値が再評価されている側面もあります。現金取引の機会が依然として維持されていることも、需要を底上げする一因となりました。
知っておきたい「お札」と「小銭」の違い
実は「紙幣(お札)」と「貨幣(小銭)」では、発行している主体や製造に関する仕組みが異なります。
まず、1,000円札や10,000円札などの紙幣は「日本銀行券」と呼ばれ、中央銀行である日本銀行が発行しています。実際の印刷は国立印刷局が行いますが、市場に出回る量は日本銀行が社会の景気や現金の需要状況に応じてコントロールしています。
一方で、1円玉から500円玉までの小銭は「貨幣」と呼ばれ、発行主体は日本銀行ではなく「日本政府(財務省)」です。実際の製造は造幣局が担っており、毎年国会で予算とともに製造計画が決定されます。財務省は流通量を算定したうえで計画を立てるため、日銀の判断で機動的に供給量を調整できる紙幣とは異なり、小銭の発行には法的・行政的な手続きが伴います。
さらに、小銭には「製造コスト」の問題がつきまといます。特に1円玉は、原材料となるアルミニウムの価格高騰や加工費の影響を受け、1枚作るために1円以上がかかる「原価割れ(逆ザヤ)」の状態が続いています。無駄な発行を行えば国のコスト増につながるため、政府は必要なタイミングを見極めてから慎重に増産計画へと踏み切る仕組みになっているのです。
終わりに
キャッシュレス化の中で決定された今回の動きは、一見すると時代に逆行するように感じられます。しかしその本質は、セルフレジや自動精算機という「無人化・効率化テクノロジー」の導入が進んだからこそ、それを維持するための現金が必要になったという、過渡期特有の構造変化にあります。
デジタル決済が普及しても、日本ではまだ現金が欠かせない面もあります。テクノロジーの裏で日本の決済インフラを支える貨幣の役割に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


