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2025

    “指示待ち人間”から脱却する――成長企業が実践する「フォロワーシップ」とは?

    “指示待ち人間”から脱却する――成長企業が実践する「フォロワーシップ」とは?

    必見!成功者が実践するビジネススキル

    有能なリーダーだけでは仕事は回らない

    組織が成長するためには、「リーダーシップ」が大切だとよく言われます。しかし、ビジネスの現場は年々変化が激しく多様化・複雑化しており、一人のリーダーの指示に部下が忠実に従うだけでは、現代社会に対応することは難しくなっているのが現実です。

    そこで求められるのが、上司の指示待ちではなく、現場の最前線で主体的に考え、行動する人ーー「フォロワー」です。

    昨今「フォロワーシップ」という概念が注目されていますが、これは単に「リーダーへ従う」という意味ではありません。自律的に判断し、必要に応じてリーダーに建設的な意見を述べ、組織の目的達成に貢献する「能動的な役割」をもった個々人と、そのチームワークのことを指しています。

    フォロワーに求められる「自律とプロ意識」

    「うちの部下は指示待ちだ」
    「現場に任せるのは不安だ」

    こんな言葉を、周囲から聞くことはありませんか? 従来型の組織、特に日本においては、上司が指示をし、部下は指示を受けて行動するという形が一般的でした。しかし、いま必要とされている人材は、ただ「言われたことをやる人」ではありません。

    自らの役割を主体的に捉え、「本当にこれで現場はうまくいくのか?」「もっとお客様の満足度を高める方法はないか?」と思考し、行動する。しかし決して「勝手に動く」ということではなく、リーダーの意思を汲み取り、指示命令には効果的に従いつつも、時には必要に応じて意見を伝え軌道修正を促す──そんな、リーダーを自律的に支え自走できるメンバーが、「フォロワー」なのです。

    すなわち、フォロワーシップを体現する人材とは、組織の成長を「自分ごと」として受け止め、現場から主体的に動ける存在であるといえます。

    成果の8割はフォロワーによって生まれる

    フォロワーシップの研究の基礎を築いたのは、米カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授です。彼の著書『The Power of Followership』によれば、企業の成果の8〜9割は、リーダー以外のメンバーの主体的な行動によって生まれると言います。 裏を返せば、組織の成長を左右するのはリーダー単独の力量ではなく、フォロワーの自律的な行動なのです。 「会社をもっとよくしたい」と思う一人ひとりの意思と行動が、企業文化を変革し、持続的な成長へと導きます。

    社員一人ひとりが、自らを「自分はいち社員だから…」「上司のいうことをやっていれば怒られないから…」といった意識でいると、組織は変わりません。

    「自身が変わることで、組織を動かすことができる」という意識をもち、『下から突き上げる力』こそ、これからの時代に肝要なのです。

    フォロワーシップの2つの特性

    ケリー教授は、フォロワーの特性を「批判的思考」と「積極的関与」という2つの独立した軸で捉え、分析しました。

    批判的思考(Critical Thinking):
    これは、リーダーの指示や組織の方針、あるいは周りの意見に対して、従順に従うのではなく、自らの価値観に基づいて独自の視点からそれが妥当かどうかやその影響を評価し、建設的な批判を行う能力です。重要なのは、これが単なる否定や反対のための批判ではない点です。むしろ、主観や感情に流されることなく物事を客観的に捉え、より良い案や改善策を考え、組織全体の利益につながるような健全な思考プロセスを意味します。この軸では、「主体的に行動しているか」が評価のポイントとなります。

    積極的関与(Active Engagement/Contribution):
    これは、組織の目標に向け自らのエネルギーと能力を注ぎ込み、主体的に行動する力です。与えられた役割だけでなく、担当している業務以上の仕事にも取り組み、イニシアチブを発揮して組織に貢献する姿勢が求められます。この軸では、「積極的に関与しているか」が評価のポイントとなります。

    この理論の核心は、効果的なフォロワーシップを発揮するためには「思考(=批判力)」と「行動(=貢献力)」の両方が欠かせないという点にあります。どちらか一方の軸の能力が高いだけでは不十分で、両方の軸において高いレベルであることを示すことが、組織にとって最も価値あるフォロワーシップであると考えられています。この2軸の組み合わせと度合いにより、多様なフォロワーのスタイルが生まれます。

    フォロワーの5つのタイプと特徴

    ケリー教授は、前の「批判的思考」と「積極的関与」の2軸を用いて、フォロワーを5つの類型に分類しました。

    ①模範型フォロワー (Exemplary Follower / 協働者)

    批判的思考と積極的関与の両方が高いレベルにある、最も理想的なフォロワーです。リーダーの方針や決定に対して、必要であれば建設的な提言や健全な批判を行います。同時に、組織の目標達成に向けて主体的に行動し、高い貢献意欲を示します。リーダーにとっては右腕とも呼べる頼もしい存在で、周りのメンバーを巻き込み、チームをまとめ、時にはリーダーシップを発揮することもある、将来のリーダー候補として期待される存在です 。

    ②孤立型フォロワー (Alienated Follower /評論家)

    批判的で、組織への積極的関与が低いタイプです。彼らの批判や意見は的を射ていることもありますが、自らは行動を起こさないため、「評論家」などと見なされがちです。チームワークを苦手とし、周囲から孤立してしまう傾向があります。しかし、潜在的に高い能力を持っていることが多いため、組織への貢献意欲を引き出せれば、有能なフォロワーへとなる可能性もあります。

    ③順応型フォロワー (Conformist Follower /イエスマン)

    積極的関与の度合いは高いが、批判的思考のレベルが低いタイプです。リーダーの指示には忠実で真面目に取り組むため、一見素直な部下に見えます。しかし、自ら考えることをしない「イエスマン」となりがちです。「指示待ち」の状態に陥りやすく、リーダーの判断が誤っていても、それに疑問を持つことなく遂行してしまうことがあります。このタイプのフォロワーが多い組織は、発展性に乏しくなる可能性があります。

    ④消極的フォロワー (Passive Follower /無気力)

    批判的思考と積極的関与の両方のレベルが低いタイプです。自ら考えることをせずリーダーに依存し、仕事に対する熱意や責任感、積極性に欠ける傾向があります。最低限の業務しかこなさず、自分の業務範囲を超えることはしません。貢献度は5つのタイプの中で最も低く、主体性がないため、周りからは「やる気がない」と見られがちです。もはやフォロワーとは言い難い存在とされます。

    ⑤実務型フォロワー (Pragmatist Follower / 実践者)

    批判的思考と積極的関与の2軸において、中程度のレベルを示すタイプです。彼らは現状を好み、与えられた自分の業務の範囲内で、責任感を持って堅実に仕事をこなします。しかし、リスクを避け、担当外のことはやらない傾向があるため、「官僚的」と評されることもあります。一方で、現実的でバランスがとれているとも言え、適切な動機付けを行えば、より貢献度の高いフォロワーへと成長する可能性を持っています。

    リーダーは、メンバーがどのタイプに近いかを理解し、それぞれの特性を認識することが重要です。画一的なマネジメントではなく、個々の強みを活かし、弱点を補い、より望ましい模範的なフォロワーシップを発揮できるよう、タイプに応じた育成や関与の方法を検討する必要があります。例えば、孤立型の批判力を建設的な提言につなげるための対話や、順応型の主体性を引き出すために権限委譲をすること、などが考えられます。

    実例に学ぶフォロワーシップ

    実際、ビジネス現場でフォロワーシップを実践し、成果を上げている企業も少なくありません。

    伊那食品工業

    長野県の伊那食品工業は、寒天製品のトップブランドです。国内では約8割のシェアを誇り、業界内で圧倒的な地位を確立しています 。
    同社は、「ノルマなし」「社員の幸福優先」という経営方針のもと、50年以上連続して増収増益を達成しています。始業前には社員が自発的に職場を清掃し、現場からの改善案が絶えない環境であるといいます。
    このような環境は、数値目標や管理だけでは決して生まれません。
    その背景には、社員一人ひとりが自ら考え、行動し、組織に貢献する文化が根づいていることがあります。
    同社は、「いい会社をつくりましょう」という経営理念を掲げています。ここでいう「いい会社」とは、単に業績が良い会社ではなく、社員とその家族、仕入れ先や得意先、地域社会といった、会社を取り巻くすべてのステークホルダーが幸せになれる会社を意味します。この理念を実現する経営手法が「年輪経営」です。これは、企業を一本の木にたとえ、急激な成長を目指すのではなく、木が毎年、年輪を重ねて太くなっていくように、無理なく着実な成長を持続させることを目指しているのです。

    ネッツトヨタ南国

    高知県のネッツトヨタ南国も、社員一人ひとりの主体的な行動が顧客満足度の高さに直結しています。同社では、理念に共感する社員が多数を占めており、10年以上にわたり顧客満足度全国トップを維持、離職率1%以下という驚異的な数値を誇っています。社員の「やってみたい」を尊重し挑戦させる風土が、企業価値を押し上げています。
    その礎にあるのが、明確な経営理念です。経営の究極的な目的を「社員を人生の勝利者に」と定め、何よりもまず社員の満足(ES: Employee Satisfaction)を追求することを、最優先課題としているのです。
    同社の考え方の根底には、「社員がやりがいを持って働いていなければ、お客様を真に満足させることはできない」という信念があります。すなわち、高いESが社員のモチベーションと主体性を引き出し、それが高い顧客満足(CS: Customer Satisfaction)につながり、その結果として顧客からの感謝や評価が社員のさらなる働きがい(ES向上)を生み出す、という好循環を創り出しています。

    また、この好循環を実現するために、社員の主体性、すなわちフォロワーシップを育むための独自の取り組みを数多く展開しています。

    理念共感を重視した採用:
    同社は、新卒採用を最重要課題と位置づけています。応募者の能力や即戦力化よりも、会社の理念や価値観への共感を重視し、一人の学生に対して最低でも30時間以上をかけ、丁寧な面接を心がけています。これは、学生が納得した上で入社できるようにするためであり、エンゲージメントの高い人材を確保することにつながっています。

    社員の主体性を尊重する文化:
    経営陣は、社員が自ら「気づき、考え、行動し、反省・改善する」というプロセスを大切にしています。指示ばかりでは主体性を失ってしまうという考えに基づき、「委ねる」ことを重視しています。次に、社内には、役職や経験にかかわらず、誰もが自由に意見できる雰囲気が醸成されています。新入社員であっても、積極的に発言でき、プロジェクトチームにも参加できます。リーダーは、メンバーが発言しやすいよう、議論を促進する役割を担います。また、イベントの企画や運営も、若手社員が中心となって自主的に行われます。これにより、社員は責任感と当事者意識を持って仕事に取り組む経験を積むことができます。

    顧客のES向上:
    同社のショールームには、通常展示されているはずの新車が置かれていません。これは、お客さまがまるで自宅のリビングのようにリラックスして過ごせる、広々とした快適な空間を提供するためです。また、お客さまに対しては、駐車場での出迎えから店内までが連携し、顧客情報を瞬時に共有、「〇〇様、いらっしゃいませ」と名前で呼びかけるなど、パーソナライズされた温かな対応を徹底しています。さらに、トヨタ車以外でも利用可能な無料の洗車サービスや、最長48時間の試乗ができるなど、お客さまの期待を超えるサービスを展開。これらの取り組みは、単なるCS向上策ではなく、「お客さまに喜ばれることで、社員自身が嬉しくなり、働きがいを感じる」というES向上のためでもあります。

    社員同士が助け合う職場:
    社員同士が互いを尊重し、困っている人がいれば自然に助け合う組織風土が根付いているため、失敗を過度に恐れることなく挑戦でき、誰もが安心感を持ち、働くことを実現しています。「ES最優先」と主体性を重んじる経営は、目覚ましい成果を上げているのです。

    高い従業員満足度と定着率:
    ESを最優先する経営は、従業員の満足度と定着率にも表れています。10年以上にわたって離職率はわずか1%程度で、メンタルヘルス不調者はゼロという、極めて健全な職場環境です。社員が仕事に「働きがい」を感じ、心理的に安心して働けることが、この高い定着率を支えています。

    生産性への寄与:
    顧客情報を瞬時に共有できるCRMを活用することで、顧客情報や業務プロセスを見える化し、社員から主体的な行動や改善提案が出たり、部門を超え業務プロセスを効率化する体制が整っているため、それが生産性向上に貢献し、社員の満足度も高めることにつながっています。。

    フォロワーシップの体現:
    同社の成功の秘訣は、まさに社員一人ひとりが発揮するレベルの高いフォロワーシップにあると言えます。マニュアル通りの対応ではなく、お客さま一人ひとりの状況やニーズを汲み取り、自律的に判断し、行動する。プロジェクト活動に主体的に参加し、役職にかかわらず意見を述べ、チームとして目標達成を目指す。これらはすべて模範的なフォロワーシップの具体的な現れです。同社の経営理念と文化は、こうしたフォロワーシップが最大限に発揮される土壌を提供しているのです。

    同社の事例は、伊那食品工業とは異なるサービス業という業態でありながら、経営の中心に「従業員の幸福や働きがい」を据えることで、卓越した成果を生み出せることを示しています。特に、顧客と直接かかわる現場の社員一人ひとりの主体的な判断と行動、すなわちフォロワーシップが、顧客満足と企業業績を左右する上で決定的に重要であることを教えてくれます。「ES→フォロワーシップ→CS→業績」という好循環モデルは、多くの企業にとって示唆に富むものです。

    フォロワーシップを高めるための実践ステップ

    では、個人がフォロワーシップを高めるにはどうすればよいのでしょうか。以下のステップが参考になるでしょう。

    • 自ら意見を述べる勇気を持つ
      「こうした方がよい」という改善案を提案します。
    • 周囲との対話を重ねる
      メンバーと課題意識を共有し、より良い方法を探ります。
    • 小さな挑戦を積み重ねる
      突然大きな変革を目指すのではなく、日常業務の中で一つずつ工夫と改善を試みます。
    • リーダーをサポートする意識を持つ
      リーダーの負担軽減を意識し、自身がサポートできる領域を探ります

    リーダーに求められる「サーバントリーダーシップ」

    管理職・リーダー層にとっても、メンバーたちからフォロワーシップを引き出すための心構えが重要となります。
    特に「聴く力」。部下の提案を即座に否定せず、一度受け止め、共に考える姿勢を見せることです。そうした職場でこそ、フォロワーシップは育まれます。
    リーダーシップは、現場の声を聴き、支援し、部下のポテンシャルを最大限に引き出す「サーバント(奉仕型)リーダーシップ」へと進化していく必要があるのです。

    フォロワーが組織の「新たな主役」へ

    今の組織は、リーダー単独でチームを牽引する組織から、フォロワーが主体的に動く「全員参加型」の組織へと移行しつつあるのです。成果を左右するのは、リーダーではなく、メンバー一人ひとりの意識と行動です。

    「自分はただの一社員にすぎない」と考える必要はありません。
    むしろ、変革の主役はあなた自身です。
    今日から、自らのフォロワーシップを磨き、組織に新たな力をもたらしていきましょう。

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