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2025

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    洋上風力発電の全貌と課題――日本のエネルギー転換の現在地

    洋上風力発電の全貌と課題――日本のエネルギー転換の現在地

    ニュースや新聞で「再生可能エネルギー」や「カーボンニュートラル」という言葉とともに、洋上風力発電が注目される機会が増えています。しかし、具体的にどんな事業なのか、なぜ今これほど注目を集めているのか、そしてどのような課題があるのかは、意外と知られていません。
    その背景には日本のエネルギー政策の未来や、私たちの暮らしに直結する課題が潜んでいます。本記事では、洋上風力事業の全体像から、現在抱える問題点、そしてこれからの展望まで、わかりやすく解説いたします。

    洋上風力発電とは?陸上風力発電との違い

    まず、洋上風力発電とはどのような仕組みなのでしょうか。

    洋上風力発電の仕組み

    洋上風力発電は、海上に設置された大型の風車(タービン)を使い、風のエネルギーを電力に変換する発電方式です。陸上にも風力発電はありますが、海の上では山や建物などの障害物が少なく、より安定して強い風を得やすいという特徴があります。

    陸上風力発電との比較

    陸上風力発電は、設置場所の確保や騒音・景観といった課題があります。また、風の強さや安定性は地形に左右されやすく、効率的な発電が難しい場合もあります。その点、洋上は「大型風車の設置が可能」「安定した風を活用できる」「住宅地から離れているため騒音や景観への影響が小さい」といったメリットがあります。

    洋上風力発電の種類――着床式と浮体式

    洋上風力発電は、その設置方法によって2つのタイプに分かれます。

    着床式

    海底に支柱を直接固定する方式です。水深が比較的浅い(50m未満)海域で採用され、欧米ではこの方式が主流です。安定性が高く、大型風車の設置も可能ですが、設置できる場所が限られます。

    浮体式

    海面に浮かせた台の上に風車を設置し、海底とアンカーでつなぐ方式です。日本のように急深な海岸が多い国では、この浮体式が将来的な主役になると期待されています。設置場所の自由度は高い一方で、技術的な課題やコストの高さが現時点では壁となっています。

    なぜ洋上風力発電が注目されるのか?

    1. 脱炭素社会・カーボンニュートラルの実現

    「2050年カーボンニュートラルの実現」――日本政府が掲げるこの目標にとって、洋上風力発電は欠かせない存在です。石炭や石油を使う火力発電とは異なり、発電時にCO₂を排出しないクリーンなエネルギー。SDGsでもエネルギーの転換が重要課題とされています。

    2. エネルギー安全保障

    日本はエネルギー資源の多くを輸入に頼っています。再生可能エネルギーの中でも、洋上風力は「風」という国内資源を活用でき、国際情勢の影響を受けにくいという大きなメリットがあります。

    3. 地域経済の活性化

    洋上風力発電所の建設・運用には、調査・設計・建設・メンテナンスなど多様な産業が関わります。地元企業や自治体にとっては新たな雇用や税収増につながる可能性があり、地域経済の活性化も期待されています。
    秋田県や長崎県では、沿岸部の地形や強い風を活かした風車設置が進み、地域振興と再生可能エネルギー推進が両立するモデルケースとなっています。

    世界の洋上風力発電

    欧州や中国では、すでに洋上風力発電の導入が急拡大しています。

    欧州の事例

    例えば、デンマークやイギリスは、着床式洋上風力を中心に導入を進め、2023年時点で欧州全体の累計導入実績は32.4GWに達しています。

    中国の躍進

    近年では中国が急速に導入を進め、2023年までに累計37.3GWと、世界トップレベルの実績を誇ります。

    一方、日本の2023年までの累計導入実績はわずか0.2GWです。さまざまな制度的・技術的・経済的な課題があります。

    洋上風力発電の壁

    1. コストの高さ

    洋上風力発電は、初期投資・運用コストともに高額です。海底基礎工事や送電ケーブルの設置、維持管理のための船舶費用など、陸上風力と比べても1.5倍以上のコストがかかると言われています。

    2. サプライチェーンの弱さ

    日本国内には大型風車メーカーが存在せず、多くを海外メーカーに依存しています。補修部品も輸入に頼るため、いざ故障すると、部品調達や修理に長期間を要し、コストも膨らみがちです。

    3. 設備の故障リスクと運用課題

    大型風車は故障が多く、特にベアリングやプロペラなどの交換には高所作業や長期間の作業船チャーターが必要です。
    実際、欧米では風車の運転年数が経つにつれ、発電コストが2倍近くに跳ね上がったという報告もあります。
    故障発生率は「出力が大きいほど高い」というデータもあり、稼働率の低下や修理コストが収益を圧迫しています。

    4. 許認可・手続きの煩雑さ

    日本では、環境アセスメントや地盤調査などの許認可プロセスが複雑で、建設までに5年以上かかることも珍しくありません。プロジェクトの長期化は、コスト増や投資の不確実性につながります。

    5. 自然条件の不利

    日本近海の多くは急深な海岸で、欧米のような遠浅海域が少ないため、着床式の設置が難しい場所が多いです。また、年平均設備利用率も欧州の55%に対し、日本では30%前後がせいぜいというデータもあります。

    6. 生態系や漁業への影響

    建設時の騒音や水質の変化、風車の振動による生態系への影響が懸念されています。一方で、漁礁効果による新たな漁場創出などプラスの側面も指摘されており、丁寧な環境アセスメントが不可欠です。

    三菱商事の撤退――現実が突きつけた壁

    2025年、再生エネルギー拡大の旗手と目された三菱商事が、千葉・秋田県沖の洋上風力発電大規模プロジェクトから撤退するというニュースが大きな波紋を呼びました。

    なぜ撤退したのか?

    建設費や人件費の高騰、円安によるコスト増、想定外の故障リスクなどが重なり、採算が取れないと判断したためです。実際、三菱商事は524億円もの損失を計上。これだけの赤字を記録するのは、事業採算性の厳しさを如実に物語っています。

    業界の潮流

    三菱商事だけでなく、欧米や米国でも大手事業者が巨額の損失を計上し、規模縮小や撤退を決断するケースが増えています。建設コストやメンテナンス費用の上昇が、洋上風力ビジネスの持続可能性に影を落とし始めているのです。

    今後の展望と課題解決へのヒント

    1. コストダウンとイノベーション

    浮体式風車など新技術の開発・導入を進め、設置場所の柔軟性やコスト削減を図る必要があります。サプライチェーンの国内整備や、部品の国産化率向上も重要なテーマです。

    2. 制度・手続きの簡素化

    欧州のような「ワンストップ型」許認可制度の導入により、プロジェクトのリードタイム短縮や投資リスクの軽減が期待されます。

    3. 地域との共生

    地元漁業者や住民との丁寧な合意形成、環境モニタリングの強化が求められます。洋上風力発電が新たな漁場や観光資源として地域に貢献する事例も生まれつつあります。

    4. 政策・財政支援のあり方

    補助金や売電価格の設定など、事業者が長期的に安定運用できる制度設計が重要です。国際競争力を持つ産業育成の観点から、官民一体の投資・研究開発も不可欠です。

    まとめ

    洋上風力発電は、脱炭素社会の実現やエネルギー安全保障、地域活性化といった多くの希望を背負った「未来の主力エネルギー」です。しかし、現実にはコスト、技術、制度、自然条件といった複雑な課題が山積しています。
    三菱商事の撤退が象徴するように、「夢のエネルギー」の実現には、技術革新だけでなく、制度設計や社会的合意、現場の課題解決が不可欠です。今こそ、国・自治体・企業・地域社会が一体となって、本気で持続可能なエネルギー政策を考える時期に来ています。
    私たち一人ひとりがその意義と課題を知り、応援していくことが、サステナブルな社会への第一歩となるはずです。

    #再生可能エネルギー#カーボンニュートラル#洋上風力発電#風力発電#脱炭素#SDGs#エネルギー政策#サステナビリティ#クリーンエネルギー

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