「25億円の既存事業を捨て、ゼロから再始動」――...
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銀行員から起業家へ。充電不要のスマートリング「EVERING」の川田社長が描く“すべてが繋がる”未来と「Less is Smart.」の哲学
ビジョナリー編集部 2026/06/25
指輪をかざすだけで、決済が完了し、家の鍵が開く——。そんなSF映画のような体験を現実にするスマートリング「EVERING(エブリング)」。メガバンクの投資銀行部門でM&Aを担当していた川田健社長は、いかにしてハードウェアビジネスの世界へ飛び込んだのか。充電不要のデバイスに込めた「Less is smart.」の哲学や、名だたる大企業と手を取り合う独自のパートナー戦略、そして決済の枠を超えてヘルスケア領域へと広がる未来のビジョンについて、川田社長に話を伺った。
メガバンクでのM&A担当から一転。MTG松下社長との出会いが生んだ起業への道
メガバンクや投資銀行でのキャリアから、前例のないハードウェアビジネスでの起業を決断された背景を教えてください。
もともと私はメガバンクに入行し、支店勤務を経て大企業営業のセクターで経験を積みました。その後、時代が大きく変わる中で投資銀行部門の立ち上げに参画し、エレクトロニクス業界を横断的に見るM&A案件創出を担当することになったのです。当時の日本の電機メーカーは構造改革の真っ只中で、経営者の方々と事業再編についてダイナミックな議論を交わす日々は非常に刺激的でした。
そうした中で、テクノロジーのビッグトレンドを肌で感じていました。「スマホがなくなる時代が来る」「機能が分化していき、いずれはウェアラブルデバイスを複数身につける時代になる」という確信があったのです。
そんな折、株式会社MTGの松下剛社長と出会いました。MTGが過去に買収したイギリスの企業(マクレア社)の技術についてお話を伺った際、それが決済データを取得できるスマートリングの技術だと知りました。私は直感的に 「社長、これは絶対にこれから来ますよ」 とお伝えしたのです。
私はプライベートな時間を使って1〜2カ月かけて事業提案書を作成し、MTGの役員陣に向けてプレゼンテーションを行いました。松下社長の「君に任せよう」という懐の深さと、実業を正面から切り拓いてきた経営者としての熱量に感銘を受け、起業を決意しました。IPOを目指して独立するという形で、奇跡的なご縁からこの事業はスタートしたのです。
「充電不要」がもたらす驚き。機能の引き算から生まれた「レスイズスマート」の哲学
スマートリングが多機能化する中で、あえて「引き算」のポジションを選び取った背景や、デザインへのこだわりについてお聞かせください。
当時、スマートリングという言葉自体がまだ浸透していませんでした。決済という行為自体は、それだけでは感動を生むものではありません。しかし、「充電不要」で決済ができるというデバイスの特性は、人々に明確な驚きと喜びを与える と考えました。
我々がブランドのベースに置いているのが 「Less is smart.(レスイズスマート)」 という言葉です。情報過多の現代において、より洗練された必要な機能や行為だけに絞り込むことで、満足のいく生活を送れる状態を目指しています。
この哲学は、アプリのUI(ユーザーインターフェース)にも色濃く反映されています。金融系のアプリは機能がてんこ盛りになりがちですが、我々のアプリでは極限までそぎ落としました。金額を入力し、カードを選んでチャージし、履歴を見ることだけを最優先としました。ハードウェアが「充電不要でかざすだけ」と極めてシンプルなのに、アプリが複雑ではバランスが悪いですからね。感覚的にパッと見て分かるというシンプルさには、非常にこだわっています。

ドコモショップでの想定外の反響。「シンプルさ」がとは別に「安心感」が加わった瞬間
実際にパートナー企業と展開する中で、当初の想定とは違った反響や気づきはありましたか。
発売当初は、ITやテック、デバイスへの感度が高いアーリーアダプター層のお客様が中心でした。しかし、NTTドコモ様と提携し、全国のドコモショップで販売していただくようになってから、全く違う文脈の声が届き始めたのです。
それは 「安心だから」 という声でした。
万が一リングを落としても、スマホのアプリでワンタップですぐに利用を停止できる。クレジットカードのように使いすぎる心配のないチャージ式である。画面がシンプルだからこそ操作に迷う恐怖感がない。そして何より、アプリを立ち上げずに充電不要でリングをかざすだけで使えるというシンプルさ。我々が追求した 「Less is smart.」や「便利さ」が、一般の方々にとっては「安心感」に繋がっていた のです。これは我々にとっても非常に大きな新しい気づきでした。
また、LIXIL様が展開するスマートロック「FamiLock」との連携でも、新しい使われ方が見えてきました。お子様にリングを持たせれば、塾の帰りにコンビニで買い物をした際に決済のポップアップ通知が届き、そのままリングで家の鍵も開けられます。わざわざメッセージのやり取りをしなくても、親御さんが自然とお子様の安全行動を把握できる。こうした「家族の安心」という価値も、実生活に落とし込むことで明確になってきました。
黒衣となってインフラに溶け込む。「Everything」に繋がる独自のパートナー戦略
多くの名だたる大企業がEVERINGに出資し、パートナーとして協業しています。どのような関係構築をされているのでしょうか。
我々の社名である「EVERING」には、 「Everything(すべて)に繋がるリング」 という意味が込められています。自社単独でメガスタートアップを目指すのではなく、様々な企業と繋がることで機能を拡大し、パートナー企業の先にいるユーザーにデバイスを届けていく戦略をとっています。
大企業が自らスマートリングを開発し、新規事業としてリスクを取るのは非常にハードルが高いのが現実です。私自身が大企業に長くいたため、社内調整の煩雑さや新規事業のリスクを取ることの難しさは肌感覚で分かります。だからこそ、我々スタートアップが先行してリスクを取り、大企業にとって組みやすいパートナーになること に一定の価値があると考えています。
現在、多くのパートナー企業様に先行投資という形でご出資いただいていますが、それは現在のビジネスだけでなく、我々が描く「スマートリングが当たり前になる未来」のビジョンに可能性を感じていただいているからこそだと思っています。
決済からヘルスケアへ。未病予防に役立つデータを適切に届ける未来のビジョン
最後に、5年後、10年後を見据えた将来の展望や、スマートライフの構想についてお聞かせください。
究極的には、「EVERING」というブランド名が前面に出なくてもいいと思っています。気づいたら皆が当たり前のようにスマートリングを着けていて、決済もできれば、家の鍵も開き、認証もできる。誰もそれを不思議に思わないほど社会に浸透している状態が、我々の理想とする完成形です。
そして次の大きな展開として、ヘルスケア領域でのバイタルデータ取得 を見据えています。実はもう5年ほど研究開発を続けており、世の中にあるものとは違う形で、未病予防に役立つ根源的なデータを正しく取得できるデバイスの開発に目処が立ちつつあります。
パーソナルなバイタルデータを見える化することで、一人ひとりの生き方やパフォーマンスの向上に役立てていただけるはずです。情報過多の時代において、適切な情報を、適切なタイミングで、適切な人にお届けする こと。我々のデバイスがその一助となり、人々をよりご機嫌で幸せにするインフラになれれば、これほど嬉しいことはありません。


