創業から続く“熱”と「不易流行」の哲学——老舗ク...
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「迷ったら前へ出ろ」下り坂の靴業界を救う大逆転劇。マドラスの岩田社長、偶然から生まれた「リカバリーファッションシューズ」で世界へ挑む
ビジョナリー編集部 2026/06/25
コロナ禍で売上が激減し、存続の危機に立たされた老舗靴メーカー。その窮地を救ったのは、社長が偶然目にしたテレビ番組から生まれた「リカバリー指圧インソール」だった。従来の革靴の常識を覆す圧倒的な機能性は、インバウンド層を中心に爆発的な支持を集め、銀座店では驚異的な売上を記録している。「迷ったら前へ出ろ」を信条に、バブル崩壊やコロナ禍といった幾多の危機を行動力で乗り越えてきた岩田達七社長。斜陽と言われる日本の靴業界において、いかにして「唯一無二」の価値を生み出し、世界へ打って出るのか。その開発秘話と未来への展望、そして熱き経営哲学を語る。
コロナ禍の危機を救った偶然の出会い。医療用ゲルがインソールの常識を変える
これからリカバリーファッションシューズを一つの柱にされていくと伺いました。どのような背景で開発されたのですか。
一つの柱どころか、私としてはもうこれしか価値がないとすら思っています。従来の商品では他社との差別化が全くできず、自社から新しい靴を出す意味合いが見出せない状況でした。
開発の背景には、2020年のコロナ禍があります。外出自粛の影響で仕事そのものがなくなり、売上が3分の1にまで落ち込んで真っ赤っかの状態でした。このままでは10年後に会社がなくなると強い不安を感じていた時です。忘れもしない2020年8月30日、毎日見ているテレビ番組で、岐阜県にあるタナックという会社が「医療用ゲル」を扱っているのを目にしました。
通常の工業用ゲル は硬いため、靴のインソールには向きません。しかし、テレビで紹介されていたのは体内で骨と骨をくっつけるような用途に使われる医療用ゲルでした。それを聞いた瞬間、目から鱗が落ちました。このゲルをインソールに使えば、私が何十年来ずっと靴に対して抱えていた「土踏まずが浮いてしまう」という不満を払拭できる とひらめいたのです。偶然の出会いでしたが、すぐに商品部長に連絡を取り、そこから開発がスタートしました。もしあの時、私がテレビを見ていなかったら今のこの話は全く存在しません。本当に奇跡的で運命的な出来事でした。
数値が証明する圧倒的な機能性。4つのブランドで展開する「リカバリーファッションシューズ」
開発されたインソールは、他社のリカバリーウェアなどと比べても大きな違いがあるそうですね。今後のブランド展開についても教えてください。
開発には四苦八苦しましたが、半年ほど経って完成したファーストサンプルを履き、毎日公園を散歩しているうちに、「これは間違いなく指圧効果がある」と実感しました。そこで、有名な浪越徳治郎先生の指圧事務所に商品を持ち込んだところ、1週間も経たずに「本当に指圧効果がある。こんな靴は今まで持ち込まれたことがない」と驚きの電話をいただいたのです。
さらに、科学的なデータを取ったところ、驚愕の結果が出ました。一般的に評判となっているリカバリーウェアの血流改善効果の基準が5%と言われる中、私たちのメタインソールは20%という4倍の数値 を叩き出したのです。
このインソール技術を活用し、今後は主に4つのブランドを展開します。最高機能のメタインソールを搭載した高級ラインの『マドラス』、少し数値を抑えつつ単価を下げた『モデロ』、そして防水のゴアテックスにインソールを組み合わせた『マドラスウォーク』です。さらにこの秋以降は、リカバリーシステムを導入して5,000円から8,000円程度の大衆向け価格に抑えた新ブランド『オンリーワン』を大々的に打ち出します。
3月末には会社として一般医療機器の製造販売業の認可も取得しました。これからは**「リカバリーファッションシューズ」として、この4ブランドを中心に全社を挙げて戦っていきます。**
デザインから機能へ。銀座店での爆発的ヒットが示す新しい靴の売り方
実際に店舗での反響はいかがですか。銀座店ではインバウンド層を中心に非常に売れているとお聞きしました。
銀座店は絶好調で、前年比の350%ほどの売上を記録しています。開店前からお客様が並ばれるほどで、購入者の8割から9割がインバウンドのお客様です。「リカバリー」という言葉が彼らに刺さるうえに、ナイキやアディダス、アシックスといった世界的なスニーカーを履いてきた方が、その場でうちの靴に履き替えて帰られることも珍しくありません。
一方で、日本の百貨店での販売には大きな壁を感じています。これまで百貨店は、海外の有名ブランドや見た目のデザインを重視した売り方をしてきました。しかし、私たちのリカバリーファッションシューズは、履いていただいて初めて圧倒的な機能性が伝わる商品です。店頭で「リカバリー」という言葉を前面に出して打ち出さなければ、お客様の興味を惹くことはできません。 現に、直営店でリカバリーという言葉を全面に出す店舗作りを行ったところ、一気に売上が伸びてきています。
日本の靴工業会や経産省は「日本の靴業界も海外へ進出せよ」と言いますが、実際の百貨店の現場では海外ブランドが優遇されているのが現状です。古い体質を開き、日本発の機能的な靴を世界に発信する手助けをしてほしいと強く願っています。
先日ようやく、厚生労働省から当社インソールの指圧効果が認められ、大きな第一歩を踏み出すことができました。
迷ったら前へ出ろ。下り坂のエスカレーターを駆け上がる経営哲学
これまで様々な事業を展開される中で、社長がビジネスにおいて最も大切にされている考え方は何でしょうか。
一番大切にしているのは「お客様の本当にためになるかどうか」、そして「しっかり利潤が出せるかどうか」です。どこにでもあるような商品では付加価値は取れません。昔のように、有名な海外ライセンスのブランド名をつければお客様がなびいてくれた時代は終わりました。いかにして自分たちで唯一無二の新しい付加価値を見出すか が最も重要です。
今の靴業界は、全体が右肩下がりの厳しい状況にあります。私はよく社員に 「今の業界は下り坂のエスカレーターだ」 と伝えています。とどまろうとして何もしなければ、そのまま下に落ちてしまいます。勝ち上がろうと思ったら、よっぽどの力で踏ん張って歩き続けなければなりません。
だからこそ、私は 「迷ったら前へ出ろ」 という考えを信条にしています。何か行動してつまずくのは構いませんが、じっとしていて落ちていくのは許されません。私自身、過去のバブル崩壊や金融危機、そして今回のコロナ禍など、最大のピンチを思い切った勝負に出ることで切り抜けてきました。これからもリカバリーファッションシューズという新しい市場の開拓に全力投球し、ゆくゆくはグローバルの舞台で堂々と戦っていきたいと思っています。


