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2026

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    「経営」の視点で伝統組織を進化させる。東京国立博物館・藤原館長が挑む、日本文化を力にした世界戦略とブレないリーダーシップ

    「経営」の視点で伝統組織を進化させる。東京国立博物館・藤原館長が挑む、日本文化を力にした世界戦略とブレないリーダーシップ

     日本で最も長い歴史を持ち、国内最大級の規模を誇る東京国立博物館(東博)。154年の歴史と膨大な国宝・重要文化財を擁するこの日本を代表する博物館は、文化財を守り、伝えるという使命を担いながら、「経営」の視点を組み入れ、さらに強化する段階を迎えていた。その取り組みを力強く進めているのが、文部科学省事務次官の経験を持つ藤原誠館長だ。

     就任後、光熱費の高騰という危機に直面したことを機に、外部から民間人材を登用し「経営企画室」を新設。資金調達から組織風土の抜本的な改革まで、矢継ぎ早に策を講じている。官僚時代から「正しいと信じたことはブレずに貫く」という哲学を持つ藤原館長は、伝統ある組織をいかに次の時代へと進化させているのか。そして、日本文化という強大なソフトパワーを武器に、どのような世界戦略を描いているのか。文化安全保障の重要性から、ビジネスパーソンがアートに触れる意義まで、力強い言葉で語られた。

    伝統組織に新たな視点を。「経営企画室」新設から始まった意識改革

    就任後に民間的発想や経営戦略の強化を掲げ、硬直化しがちな伝統組織の意識改革を推進されていますが、最も大切にされているリーダーシップの哲学は何でしょうか。

     就任当初、東博は国からの予算を前提に、文化財の保存・研究・公開という博物館の使命を着実に担っていることは実感しながらも、一方で、いわゆる 「経営」の視点 を、より明確に組織運営へ取り入れていく必要があることを痛烈に感じました。ウクライナ侵攻の影響で光熱費が1億円から2億円に跳ね上がった際、国からの支援スキームが一切ないことに私は愕然としました。さらに、隣の国立科学博物館がクラウドファンディングで多額の資金を集めている中、東博も社会に向けてより積極的に支援を呼びかけ、自ら資金を生み出していく必要があると強く感じました。そこで、組織のあり方を根本から見直す決意を固めました。

     まずは、外部の民間人材を登用し、経営企画室を新設しました。文化事業と経営の両方がわかる新聞社出身の室長をはじめ、資金集めに知見を持つ広告代理店出身者、自ら文化の事業をやりたいと飛び込んできた外資系コンサルティング会社出身の若手などを集め、改革の中核部隊としました。また、企業の方々にも文化支援の意義を丁寧に説明し、寄付会員制度の活性化など、私自ら資金調達にも動きました。

     組織風土の改革においては、伝統ある組織だからこそ生まれやすい縦割りや遠慮を乗り越え、より自由闊達に意見を交わせる環境をつくるため、若手職員を少人数ずつ集めて対話を重ねました。

     リーダーシップの哲学として大切にしているのは、ゴールとなる目標を設定し、それに向けてブレずに進めていくこと です。そのためには、単にお題目を唱えるだけでなく、情報収集を行い、具体的な証拠(インテリジェンス)を提示して改革の根拠を示すこと が不可欠です。文部科学省時代、小泉政権における三位一体改革の際に、義務教育の重要性を訴え続けた経験が、この「正しいことは初志貫徹してブレずに貫く」という姿勢の原点になっています。

    日本のサブカルチャーは古来の文化と地続き。世界を惹きつける東博の強み

    現在、海外の博物館や美術館との連携強化を急速に進められていますが、藤原館長が実感されている日本文化、そして東博のコレクションの強みとはどこにあるとお考えでしょうか。

     当館のコレクションの強みは、1872年の創設以来、明治政府が国の威信をかけて収集してきた圧倒的な質と量にあります。日本各地あらゆる地域のものが揃い、ここに来れば日本美術の全体像を深く理解できるという網羅性が最大の強みです。

     また、海外から見た日本文化の魅力は、その歴史的連続性にあります。海外の人々はまずアニメや漫画といったサブカルチャーから日本に関心を持つことが多いですが、そのルーツをたどると、浮世絵や刀剣など、我々が所蔵する古い伝統文化に繋がっている のです。

     昨年、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ政府の文化観光庁と包括連携協定(MOU)を結びました。歴史の浅い湾岸諸国はこれまでアメリカやフランスなど欧米の文化に強い影響を受けてきましたが、国として成熟していく過程で、欧米とは異なる日本文化の価値を見出してくれています。彼らが求めるのは単なる古い伝統文化だけでなく、サブカルチャーも含めたトータルとしての日本文化であり、そこに対する期待の大きさを肌で感じています。

    文化の相互理解が国家の衝突を防ぐ「文化安全保障」の役割

    国際情勢が緊迫化する中、博物館に求められる役割とは何でしょうか。また、2028年に予定している世界館長会議の構想についても教えてください。

     世界では、戦争や紛争によって貴重な文化財が破壊される痛ましい出来事が起きています。暴走を止めるのは容易ではありませんが、そこに未然に至らないためのバッファーとして、文化の力は確実に存在します。言葉が通じない未知の存在と遭遇すれば争いになりやすいのと同じで、互いの文化を知り、お互いに異文化を尊重し合うことが、最悪の事態を防ぐ防波堤になる と信じています。こうした文化外交の積み重ねこそが「文化安全保障」なのです。

     私が就任した当初、当館が協定を結んでいたのは中国と韓国の3館のみでした。しかし、日本を代表する存在である以上、グローバルに動くべきだと考え、欧米や中東などにもネットワークを広げ、現在では29の機関と協定を結んでいます(2026年7月末現在)。個人の研究者同士の繋がりではなく、組織と組織の永続的な関係へと「組織戦」に転換 したのです。

     将来的には、世界中のトップを日本に招待し認識を共有し合うことで、日本の良さが更に発信され、それが大きな意味での安全保障のネットワークに育っていく目標を持っています。最近では外務省や現地の日本大使館とも連携を深めており、先日はモロッコの国立博物館財団と異例のスピードで協定を結ぶなど、国を挙げた文化外交も進んでいます。

    精神的なゆとりが新たな発想を生む。経営トップが支える文化支援の輪

    東京国立博物館に足を運ぶ意義や、近年強化されている企業とのパートナーシップについて教えてください。

     日本の経営者の方々を見ていると、日々非常に忙しくされており、精神的なゆとりを持ちにくい環境にあると感じます。しかし、精神的なゆとりがなければ、新しい発想は生まれてきません 。海外のトップ層は、どんなに多忙でもそうしたゆとりを大切にしています。アートに触れることは、精神的なゆとりを取り戻し、経営を充実させるための有力な選択肢の一つになると確信しています。

     企業とのパートナーシップについては、文化支援を通じて企業の社会的価値が高まるという側面はもちろんあります。しかし、実際に支援を決断してくださる経営者の根底にあるのは、「日本の最高峰の文化を守り、応援したい」という無償の愛や純粋な思いです。

     包括連携を結んだ法律事務所や、高額な支援をしてくださった名だたる企業の社長などが、日本の文化に対する深い造詣を持たれています。たとえば、ある社長とは当館で開催されたディナーパーティーで偶然隣の席になり、東博の現状をお話ししたところ、トップダウンで支援を決めてくださいました。私自身、文部科学省時代から経済界のトップと積極的に関わり、開かれた組織を目指してきた原点があります。人と人との繋がりや、トップ同士の深い文化への理解が、大きな支援の輪を生み出しているのだと実感しています。

    能登半島地震へのオール東京での復興支援と、未来へ繋ぐ「子どもファースト」

    能登半島地震の発生を受け、博物館が復興の力やコミュニティの象徴となるために、今後どのような支援をお考えですか。

     能登半島地震の支援については、当時の馳浩・石川県知事から直接のご相談を受け、すぐに動き出しました。東博単独ではなく、東京にある国立・公立・私立のミュージアムが連携し、オール東京として支援 する体制を構築しました。その一環として、石川県七尾市出身の長谷川等伯にちなみ、当館が所蔵する国宝『松林図屏風』などのゆかりの作品を貸し出したり、ZOZO創業者の前澤友作氏が所有する重要文化財の展示協力を仰ぐなど、文化の力で被災地を励ます取り組みを進めています。

    最後に、館長お気に入りの東博のディープな楽しみ方を教えてください。

     当館の楽しみ方としてぜひお勧めしたいのが、谷口吉生氏の設計による「法隆寺宝物館」です。明治の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の折にお寺の経営が厳しくなった際、法隆寺から皇室に献納され国が受け継いだ貴重な宝物が収蔵されています。博物館構内の奥に位置しているため意外と知られていませんが、非常に幻想的で落ち着いた空間です。この秋には、アムステルダム国立美術館のように、素晴らしいレストランもオープンする予定です。

     また、今後の大きな方針として 「子どもファースト」 を掲げています。日本の未来を担う子供たちが博物館に親しめるよう、子供服のミキハウスのご協力も得て、未就学児連れの来館者が一息つけるファミリースペースなども拡充してきました。こうした場所にもぜひ足を運んでいただき、日本文化の奥深さを体感していただきたいですね。

    #東京国立博物館#経営改革#組織変革#リーダーシップ#マネジメント#日本文化#世界戦略#文化安全保障

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