Diamond Visionary logo

7/30()

2026

SHARE

    「AI時代こそ理念が心柱に」——パーソル和田社長が語る「はたらいて、笑おう。」の原点

    「AI時代こそ理念が心柱に」——パーソル和田社長が語る「はたらいて、笑おう。」の原点

     「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げ、国内外で総合人材サービスを展開するパーソルホールディングス。同社を率いる和田社長のキャリアは、決して平坦なものではなかった。最初に入社したベンチャー企業の倒産、慢心していた時期の突然の異動、そして社長就任前夜の重圧——。数々の修羅場を乗り越えてきた背景には、幼少期から培われた「継続は力なり」という精神と、テンプスタッフ創業者・篠原欣子(よしこ)氏から受け継いだ確固たる経営哲学があった。AIの台頭によって働き方が激変する「大人材流動化時代」において、100年、200年と続く企業をいかに創り上げるのか。自身の半生を振り返りながら、これからのビジネスパーソンに求められるキャリア自律と理念の重要性を語る。

    幼少期から学んだ「継続は力なり」。強豪サッカー部での厳しい経験

    幼少期や学生時代で、今の価値観や仕事観に影響を与えた出来事は何かありますか。

     私の実家は京都の北山杉の里で、代々林業を営んでいました。子どもの頃は見よう見まねで伐採や苗植えを手伝っていましたが、それが嫌で野球やサッカーに打ち込むようになりました。

     高校時代はサッカーの強豪と呼ばれる名門校のチームに所属していました。非常に練習が厳しく、入学時に20人ほどいた同学年の部員のうち、最後まで残ったのはたったの4人でした。周りには私より上手で、間違いなく伸びるだろうと思う選手もたくさんいましたが、どんどん辞めていってしまったのです。

     その中で私が続けられた理由は、「絶対に最後までやろう」と自分で決めていた からです。毎日少しずつ努力を継続していると、社会人のクラブチームの指導者から「お前は一番滞空時間が長くてヘディングで勝てるな。毎日やっておけば通用する」と褒められたことがありました。その時に、 「毎日やることが大事なんだ」「センスがない人間は努力しかできない。継続していれば通用するようになる」 と身をもって学びました。

    対極的な2人の経営者から学んだ「堅実な経営」

    社会人になってから、転機となった体験や挫折はどのようなものでしたか。

     最初に入社した会社が倒産したことは、非常に大きな転機でした。当時で言うスタートアップベンチャーで、社長は私より若く、華やかで魅力的な方でした。「一緒に頑張ろう」と思っていた矢先に社長が飛んでしまい、マネジメントを任されていた私は、残されたメンバーのために奔走することになりました。

     その後、ご縁があってテンプスタッフ(現・パーソルテンプスタッフ)に入社し、創業者である篠原欣子名誉会長の近くで働く機会を得ました。篠原さんは、前の会社の社長とは真逆で、非常に地道で堅実な経営者でした。

      「怒っちゃダメ」「威張っちゃダメ」「カッコつけちゃダメ」 というのが篠原さんの口癖でした。カッコをつけて見栄を張ろうとすると派手になり、無駄なコストを使ってしまう。それは成長の妨げになるからです。派遣業界において、多くのスタッフが一生懸命働いてくださった結果として得られた利益なのだから、 「1円たりとも無駄に使っては駄目だ」 と徹底して教え込まれました。

     倒産したベンチャー企業の派手な経営と、篠原さんの堅実な経営。この対極的な2人の経営者を間近で見たことで、「見習うべき経営」と「見習ってはいけない経営」の判断基準が明確にわかるようになりました。

    慢心からの異動と数々の修羅場が育てた「経営者としての覚悟」

    ご自身で走り続けてこられた印象がありますが、一歩踏み出しにくかったことや、それを乗り越えたタイミングはありましたか。

     実は、テクノロジーの技術者を派遣する部署の部長を務めていた頃、事業が順調に伸びて「俺ってすごいな」と完全に慢心していた時期がありました。そんな一番業績が良かった時期に突然の異動を命じられたのです。

     当初は「左遷された」と腐り、辞めることすら考えました。しかし、思い切って新しい環境に飛び込んでみると、全く違う景色が見えました。競争環境も、需給のバランスも、組織の規模も違う場所では、交渉やマネジメントの仕方も変えなければなりません。「自分が今やっていることが一番だ」と思い続けるのは良くないと気づかされました。おそらく、当時の篠原さんや経営陣は、私の慢心に気づいて荒療治をしてくれたのだと思います。

     その後も、事業の分割や分社化など、次々と新しいミッションを与えられました。同格の部長たちをまとめる役割を担った時は、会議のたびに強烈なストレスを感じました。しかし、そうしたプレッシャーとの戦いが、すべて今の自分の財産になっています。苦労はすべて財産になる ので、どんなに厳しい経験でも、そこから逃げずに乗り越えることが大切だと思っています。

    はたらくWell-beingの原点は「自己決定」にある

    会社のビジョンや、「はたらくWell-being」について、社員の方にどのような期待を持っていますか。

     私たちが掲げる「はたらいて、笑おう。」というビジョンは、篠原さんの創業の思いを継承したものです。1973年当時、女性が活躍するフィールドがなかった日本において、「働くことは人生にとって大事であり、人を成長させる機会になる」という信念からテンプスタッフは生まれました。仕事は決して苦役ではありません。仕事を通じて成長や貢献を実感し、最後に笑ってもらえるような世界を作りたいと考えています。

     その「はたらくWell-being」において大切な観点が、 「自分の仕事を、自分で選択し、決定できているか」 ということです。自分で決めて、自分で責任を持って自己実現に向かう。この「自己決定」こそが、人々の幸福感に大きな影響を与えることがデータでも証明されています。

     だからこそ、社員には常に成長を志向し、現状維持バイアスから脱却してほしいと伝えています。今のままが一番安心だと感じるかもしれませんが、実は変化し、成長し続けることこそが、安全と安心を獲得する一番の手段 なのです。

    「理念」を心柱に、AIと人が共存する未来の世界へ

    最後に、これからの時代を生きるビジネスパーソンに向けたメッセージをお願いします。

     これから先、AIの進化によって働き方は大きく変わり、「大人材流動化時代」に突入していくと確信しています。そこで重要なのは、AIを使われる側になるのではなく、AIを人の能力を拡張するツールとして使いこなし、最終的には人が主導権を握っていく ということです。

     そのためには、労働市場全体で人材移動を加速させ、社員が自分のキャリアを自分で選べる「キャリアオーナーシップ」を育む環境を整えていく必要があります。

     先日、フランスの企業を買収しましたが、現地に赴く前は、「欧米と日本では、働くことに対する根本的な感覚や哲学が違うのではないか」といった懐疑的な声もありました。しかし、創業者・篠原さんの思いとグループの原点、またなぜ国境を越えて一緒にビジネスをやりたいのかを、未来のビジョンとともに伝えたところ、現地のトップ層や社員に驚くほどスムーズに通じました。最先端のAI企業であるフランスの会社へ飛び込んだことによって、国境などは関係なく、「最後は人である」というパーソルの理念の普遍性が証明されたと感じています。

     ガウディのサグラダ・ファミリアが100年以上も建築を続けられているように、100年、200年と続く企業を作るためには、「理念」という確固たる心柱 が必要です。ビジネスモデルは時代とともに変わっても構いません。しかし、「仕事に貴賤はない。国籍や性別、年齢に関係なく、働きたい人に機会を提供する」という私たちの理念だけは、これからも揺るぐことなく世界中に広げていきたいと思っています。

    #パーソル#和田孝雄#ウェルビーイング#キャリア#働き方#リーダーシップ#経営哲学

    あわせて読みたい

    記事サムネイル

    「趣味嗜好品で心に喜びを」——リーマンショックの...

    記事サムネイル

    「文房具店」からの脱却と銀座の誇り。伊東屋 伊藤...

    記事サムネイル

    「最初の3年は頭を横に置け」——JACリクルート...

    記事サムネイル

    「全自動の生命保険」で業界の常識を覆す——ライフ...

    Diamond AI trial

    ピックアップ

    Diamond AI
    Diamond AI