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2025

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    エントリーシートの歴史と課題 就職活動の新しい形

    エントリーシートの歴史と課題 就職活動の新しい形

    就職活動と聞いて、真っ先に思い浮かぶものは何でしょうか。自己分析、企業説明会、面接、そして――エントリーシート。多くの学生が、人生の大きな分岐点でこの「ES(エントリーシート)」という関門に向き合ってきました。

    ところが近年、大手企業が相次いでエントリーシートを取りやめるというニュースが世間を騒がせています。「なぜ、あの企業がESを廃止したのか」「就職活動はどう変わっていくのか」。そんな疑問を抱いた人も多いのではないでしょうか。

    生成AIの登場、人口減少、そして働き方の多様化。これらの変化は、就職活動の“常識”そのものを静かに、しかし確実に揺るがしています。本記事では、エントリーシートがどのように生まれ、なぜ今見直されつつあるのか。そして、これからの就職活動がどのような形へ向かっていくのかを、具体的な事例や最新動向を交えながら解説します。

    ES誕生の背景――「大量応募」と「選抜」の歴史

    エントリーシートが日本の採用現場で定着したのは、そう古い話ではありません。戦後、高度経済成長の真っ只中で企業はこぞって新卒採用を強化し、1990年代に「就職氷河期」を迎えると、少数精鋭を目指す企業が応募者を効率よく選抜する必要性に迫られました。こうして、「学歴不問」「オープンな採用」が謳われる一方で、大手企業や人気企業には応募が殺到。書類段階でふるいにかけるための道具として生まれたのがエントリーシートでした。

    このESには、自己PRや学生時代に力を入れたこと(いわゆる“ガクチカ”)、志望動機といった定番の設問が並びます。応募者はこれに自分の経験や思いを書き連ね、企業はそれをもとに面接へ進める学生を選ぶ。こうした構造が、長きにわたり“当たり前”として続いてきました。

    ESの「限界」――AI時代の到来

    しかし、時代の変化はESの存在意義を揺るがせています。まず、生成AIの急速な普及です。ChatGPTやCopilotなど、AIが人間と遜色のない文章を量産できる時代になりました。実際、就活生の間でも「ESはAIに書かせている」という声が珍しくなくなりつつあります。さらに、インターネット上には人気企業の内定者が過去に作成したESが出回り、“コピペ”や“盛りガクチカ”と呼ばれる誇張も横行しています。

    こうなると、企業の人事担当者からは「ESだけでは人の本質が見えない」「誰が書いても似たような内容になっている」といった嘆きが聞こえてきます。AIが書いたESを、企業側もAIで選別する――そんな本末転倒な状況すら現実味を帯びてきました。

    少子化・人材争奪戦――「ES選考」の存在意義を問う

    もう一つの大きな変化は、人口構造の変化です。総務省のデータによると、日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少を続けており、2030年には約30%減ると予測されています。新卒採用の母集団自体が縮小する中で、企業は“選抜”よりも“出会い”を重視するようになってきました。特に中小企業では既に人材不足が深刻で、ESによる選抜の意義が薄れつつあります。

    さらに、大企業でも新卒一括採用が成り立たなくなり、通年採用やジョブ型雇用の導入が進み始めています。ジョブ型雇用では、職務内容ごとに求めるスキルが細分化されるため、従来の「自己PR・ガクチカ・志望動機」などが有効とは言い難い場面も増えているのです。

    企業の「ES離れ」――大胆な採用手法の転換

    こうした状況を受けて、実際にエントリーシートを廃止したり、大幅に見直したりする企業も増えています。

    たとえば、ロート製薬は2027年新卒採用からESによる書類選考を廃止し、15分間の人事担当者との対話型選考「Entry Meet」を導入しました。「ESでは本質的な個性を捉えきれない」という危機意識が背景にあり、生成AIによる内容の均質化も決断の後押しとなりました。直接の対話を通じて、お互いの価値観を確かめ合う手法です。

    また、USEN-NEXT HOLDINGSはES提出をやめ、自己PR動画の提出と面接に切り替えました。ここでは、学生一人ひとりが納得できるまで自己表現できる工夫や、最終面接への再挑戦制度など、従来の「一発勝負」から脱却した柔軟な運用が評価されています。

    また、チームラボでは、エンジニアはESの代わりにプログラミングや数学的思考のテストを、クリエイティブ職志望者はポートフォリオ提出を求めています。実績や能力といった“ごまかしのきかない”評価軸を重視することで、本当に必要な人材の見極めを実現しています。

    就活生のリアル――「ESで本音は出せない」現実

    こうした企業側の変化の背後には、学生側の本音もあります。調査によると、ESで事実と異なる経験を“盛る”学生は少なくありません。実績の誇張、テンプレート化された回答、AIや内定者ESのコピペ……。本来、ESは自己表現や自己理解の場であるはずが、いつの間にか「合格するための対策」に特化した受験勉強のようになってしまっています。

    「ESのために自分を飾るより、直接会って話したい」「自分を本当に見てくれる企業に魅力を感じる」――そんな声が、就活生からも多く聞かれるようになりました。

    ES廃止が生む「新しい出会い」――中小企業にとっての追い風

    時代の流れを前向きに捉えるなら、この「ES離れ」は特に中小企業にとって大きなチャンスです。書類選考のハードルを下げ、より多くの学生と出会うことで、従来なら見逃していた逸材に巡り合える可能性が高まります。もちろん、デメリットとして面接や対話の負担は増えますが、それでも「会ってみなければ分からない人材」と出会える確率を高めるという意味では、ES廃止は投資と捉えることもできるでしょう。

    また、学生側も“対策”から解放され、本当に自分の価値観ややりたいことに向き合える就活が実現します。企業と学生が対等な立場で「すり合わせ」をし、互いに納得して選び合う――そんな出会いが、これからの就職活動のスタンダードになっていくでしょう。

    まとめ

    エントリーシートそのものが悪いわけではありませんが、AIの普及等に伴い、課題が顕在化してきた現在、就職活動は大きな転換期を迎えています。効率化やAI活用の波に飲み込まれるだけでなく、個性や本質を見抜く新しい選考手法が次々と生まれています。

    「型にはまったES」だけに頼るのではなく、ぜひ自分自身の言葉と経験で、企業と向き合ってみてください。そして企業側も、従来のやり方を疑い、「本当に必要な問い」を学生に投げかけてみてはいかがでしょうか。

    就活の形は、これからも変わり続けます。その変化を恐れず、前向きに捉えることこそが、すべての就活生と企業にとって最良の道を拓くはずです。

    ※ 記事内の情報は2025年12月時点のものです。

    #就活#エントリーシート#ES#新卒採用#就職活動#採用トレンド#生成AI#少子化#ジョブ型雇用#働き方改革

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