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ペーパーティーチャーとは――教員不足時代に再び注目される“眠れる人材”の正体
ビジョナリー編集部 2026/01/26
教員免許は持っているのに、学校現場からは遠ざかっている――そんな「ペーパーティーチャー」という存在が、今、教育現場の人材難を解く鍵となるキーワードとなっています。皆さんは「ペーパーティーチャー」と聞いて、どのような人たちを想像するでしょうか。もしかすると、自分自身や身近な人がその一人かもしれません。日本の教育現場が直面する“先生不足”という危機に、この存在がどのように活きるのか。現場のリアルな声や各地で進む取り組みをもとに、その実態に迫ります。
「先生が見つからない」現実とペーパーティーチャーの活用
教員不足は、単なる一時的な人手不足ではありません。1970年代のベビーブーム期に大量採用された教員が定年を迎え、現場から一斉に退職していることに加え、小中学校では35人学級の導入などにより、必要とされる教員数そのものも増えています。一方、かつては難関だった教員採用試験の倍率が下がり、臨時教員を目指していた人材も減少しています。2025年度の小学校教員正規採用倍率は全国平均で2.2倍と、過去最低水準を更新。教員のなり手が根本的に足りなくなっているのです。
こうした危機を受けて、各自治体や教育委員会が注目するのが“ペーパーティーチャー”です。彼らは教員免許を取得したものの、さまざまな理由で学校現場から離れた人々。例えば、就職氷河期や家庭の事情で教壇に立つ機会を逃した、あるいは一度は教職に就いたもののライフステージの変化で退職した、そんな人々が今、再び教育現場に戻って活躍する舞台が増えています。
ペーパーティーチャーの実像――なぜ今、必要とされるのか
ペーパーティーチャーの内訳は実に多様です。新卒時に採用試験を突破できなかった人、民間企業や他業種でキャリアを積んだ人、子育てや介護で一時的に教職から離れた人、定年退職後に再び働きたいと考える人。年齢も20代後半から70代以上まで、まさに“幅広い社会経験と人生の厚み”を持つ人材の宝庫です。
実際に各自治体では、ペーパーティーチャー向けの研修講座やセミナーが盛況です。埼玉県の場合、2022年度は3回のセミナーに187人が参加し、そのうち75人が臨時教員として登録。2024年度には9回で273人が参加、82人が現場に復帰しています。佐賀県でも独自の「ペーパーティーチャー研修講座」を実施し、教育現場への復帰を強力に後押ししています。
彼らの参加動機もさまざまです。ある40代男性は「社会で経験を積んできたが、学生時代から教員になりたい思いがあり、今こそ挑戦の時だと感じた」と語ります。50代の女性は「就職氷河期で教職を断念したが、大学で学んだ知識を生かして子どもたちと接したい」と笑顔を見せます。人生経験が教職への自信となり、「今なら子どもたちの力になれる」と感じているのです。
ペーパーティーチャーがもたらす新しい教育の可能性
ペーパーティーチャーは単なる“数合わせ”の補充要員ではありません。社会人としてのキャリアや家庭での経験は、むしろ現場に新たな風を吹き込んでいます。
例えば、社会福祉法人で5年以上働いた後に小学校教諭となった先生は、「福祉の現場で得た子どもや家族との関わり方が、日々の教室運営に役立っている」と語ります。また、10社以上の転職を経て50歳を過ぎてから中学校の国語教員になった先生は、「営業時代に培った対話力や多様な価値観への理解が、子どもたちの心を開く上で大きな武器になった」と振り返ります。
こうした「異業種からの再挑戦」は、教員集団に多様性をもたらします。現場の管理職や同僚教員からも「社会経験に裏打ちされた安心感や、子どもの気持ちに寄り添う姿勢は大きな財産」と高く評価されています。もちろん、最初はブランクや新しい教育ツールへの戸惑いもあるものの、最近ではタブレット端末の活用や、日本語指導のワークショップなど、現場に即した研修・サポートが充実しており、参加者が「これなら私もやれるかもしれない」と思える工夫が随所に見られます。
再挑戦を後押しする自治体の取り組み
ペーパーティーチャーの力を最大限に引き出そうと、各地の教育委員会も知恵を絞っています。埼玉県や神奈川県では、現役教員との懇談会や模擬授業、ICTを活用したワークショップなど、現場の「今」を体験できる機会を設け、復帰への心理的ハードルを下げています。千葉県ではショッピングモールで個別相談会を開催し、より身近な場で参加のきっかけを提供しています。
特筆すべきは、ペーパーティーチャーの“現場復帰”までの道筋が年々スムーズになっていることです。研修後、勤務地や勤務条件が合えばすぐに任用されるケースも増えています。時短勤務や非常勤、講師といった多様な働き方の相談にも柔軟に応じるなど、ライフスタイルに合わせた復帰が可能です。これが、子育てや介護など家庭の事情を抱える人々にも門戸を広げています。
一方で、労働環境については課題も残されています。多くの参加者が「長時間勤務や残業の多さには不安がある」と率直に語ります。自治体側も「働き方改革は進めているものの、まだ課題は多い」と認めており、教員という仕事の魅力発信と労働環境の改善を両輪で進める必要性が指摘されています。
ペーパーティーチャー活用の今後と「教育の未来」
ペーパーティーチャーの活用は、単なる“数合わせ”ではなく、教育現場に多様性と柔軟性をもたらす重要な社会的チャレンジです。それは、人生のどこかで教職を志した人が、キャリアや家庭の節目で“再挑戦”できる社会であること、また教育現場が「異なる経験」を歓迎する柔軟な組織であることの証でもあります。
一方、教員不足の根本解決には、若年層への正しい情報発信や、働き方改革のさらなる推進が欠かせません。現場の多忙さや保護者対応、教員の給与体系や労働時間といった課題にも、社会全体で向き合う必要があるでしょう。
それでも、ペーパーティーチャーの存在は、教育における“第二の人生”や“多様な働き方”のモデルケースとして、今後の教育界に大きなヒントを与えてくれるはずです。「教員免許を持っているが現場を離れている」という方は、ぜひ一度、自治体のセミナーや説明会に足を運んでみてはいかがでしょうか。あなたの経験が、子どもたちの未来を照らす新しい光になるかもしれません。


