厚木事務所で学んだ現場力と、お客様を「主語」に考...
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#13「君は何をやりたいんだ?」——上意下達を打ち破った、出向先の東急不動産で受けた衝撃
野本弘文 2026/05/13
私がキャリアの中で直面した壁を成長の糧にしたエピソードがあります。
第11回・第12回でお話しした厚木事務所の現場で14年間勤務したあと、渋谷・本社の田園都市事業部へ異動になりました。そこでは、厚木での経験を活かし、多摩田園都市で山積していた難しい課題に取り組みました。1年後、これらの課題を概ね解決したころ、担当役員から、「君はもう工事の仕事はいいから、少し管理の仕事をやってみろ」と言われ、予算管理や人事などを統括する業務を担当しました。
私が若い頃の東急は、上に立つ人の意見や考えを、下位の人に伝達する「上意下達」の文化が根付いていました。自分の意見をストレートに言いすぎると、「あいつは生意気だ」と上司にそっぽを向かれることもありました。当時は良くも悪くも組織の上下関係のヒエラルキーがあったのです。
そのため、上司に私の考えを聞いてもらうための工夫をする術を身につけていきました。自分が実現したい企画案が決まっていても、あえてA案、B案…等、いくつかの選択肢を用意し、上司に選んでもらう。最終的に上司に決めてもらうことで、自分の仕事をスムーズに進めていくことができたのです。
そろそろ課長になれるかなと思っていた矢先、東急不動産への出向を命じられ、新規事業である会員制リゾートホテルの開発を担当することとなりました。この時の出向が、私にとって大変貴重な経験となりました。
東急不動産では仕事の進め方が、当時の東急電鉄とは異なっていました。いつものように、リゾート施設の建築プランをA案、B案、C案と並べて持っていき、「Aではこんな風に。Bでは、こういう風にできますよ」と説明した私に対し、担当の部門長がまっすぐ目を見てこう言ったのです。
「いろんなことができると言うけど、結局、君は何をやりたいんだ?」
この言葉は衝撃でした。「自分で一番良いと思うものを決めて、はっきりと提案していいのだ」と。
これは人が育つやり方なのだと膝を打ちました。自分がやりたいことを自発的に考えて提案し、その結果に責任を持つ。そこに至るまでにはしっかりと根拠を持てるよう勉強をしなければなりませんし、たしかな「覚悟」が生まれるのです。
当時、東急不動産と東急電鉄では社風が異なり、狩猟民族と農耕民族のような違いがありました。東急不動産は、目的に対して「狩り」に行くようなイメージで仕事をするのに対し、鉄道業を営む東急はチーム全体を優先する雰囲気でした。
この時の「君は何をやりたいんだ?」という問いは、後の私の経営スタイルの礎となりました。社長を経て会長になった今でも、部下が複数案を持ってきて、それぞれの短所と長所を説明するものの、結論を出さずにただ選択を委ねるようなときには、「君はどうしたいんだ?」と必ず問うようにしています。
自分の意思で決断した結果、たとえ失敗したとしても、それは本人の「経験」になり、必ず次に生かすことができ、本人の成長にも繋がります。


