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#07「三つ子の魂」が勘を作る――スイカ売りとゆで卵に学んだ商売の本質
野本弘文 2026/05/07
経営者の方々とお話をさせていただくと、子ども時代の体験が、大人になっても仕事の判断基準として生き続けている方が多いと感じます。「三つ子の魂百まで」という言葉は、性格以上に、商売の勘や価値観にも当てはまるのだと思います。私自身、今の考え方の原点を辿ると、やはり実家の「野本商店」の店先での経験に行き着きます。
私が育った福岡県行橋市の商店街は、近くに魚市場と青果市場があり、数百軒もの店がひしめく活気ある場所でした。特に夏の「土曜市」はすさまじい賑わいでした。夕方になると各店が特売品や珍しい商品を並べ、近隣の町からも大勢の人が押し寄せるのです。
中学生になった私は、この熱気に商機を見出しました。父に頼んで店先を借り、切ったスイカを氷の上に乗せてキンキンに冷やし、土曜市に来たお客さまに売ったのです。これが私にとって、自分の才覚で小遣いを稼ぐ初めての商売でした。
ところが、予期せぬトラブルが起きました。保健所の監視員、いわゆる「Gメン」に見つかってしまったのです。「許可証はあるのか」と厳しく問われ、中学生の私が「何それ?」と呆気に取られていると、直ちに営業停止を命じられました。その時、奥から父が出てきて、「子供がやったことですから」と頭を下げてその場を収めてくれたのです。親父の背中をすごいと思うと同時に、商売にはルールがあること、そして時には度胸も必要であることを肌で学びました。
単に物を売るだけでなく、「いかに利益を出すか」という工夫もこの頃に覚えました。
例えばスイカは、畑ごと100個近くをまとめて買い上げ、トラックに積み込んで店に運ぶ。こうすることで仕入れ値を抑えることができます。また、卵の問屋から安く仕入れた卵を、茹でて「ゆで卵」にして売る。さらに、ビールもただ売るのではなく、氷で冷やして「冷やしビール」にすると、通常より5円高く売れるのです。
常温のビールと冷えたビール。中身は同じでも、手間を加えて顧客のニーズに応えれば、そこに「付加価値」とともに、利益が生まれます。この商売の基本を、私は教科書ではなく、店先での小遣い稼ぎを通じて学びました。
お中元やお歳暮のシーズンは繁忙期でした。田舎の小さな町では「野本商店の包装紙」で包んであることが、一つの信用の証でもありました。私は番頭さんやアルバイトに混じって、洋酒や缶詰を組み合わせ、ギフトセットを作る手伝いをしました。「どの組み合わせなら売れるか」「どう並べれば見栄えの良い商品の陳列に仕上がるか」。真剣に試行錯誤しました。なぜなら、その売上が自分の小遣いに直結するからです。
“マーケティング”という横文字で語られることも、突きつめれば「人は何に価値を感じるのか」を探ることに他なりません。野本商店の店先での経験は、その本質を私に教えてくれました。
ビールを冷やして5円の価値を加えたように、お客さまが何を望んでいるのかを考え、小さな工夫を積み重ねれば、そこに新しい価値が生まれます。幼い頃に培った商人の勘は、今も私の中で生き続けています。


