Diamond Visionary logo

5/6()

2026

SHARE

    商売の原点は「母の膝の上」 客あしらいの妙に見た現場の知恵

    #02商売の原点は「母の膝の上」 客あしらいの妙に見た現場の知恵

    原石からダイヤへ

     私は酒屋の息子として生まれ、常に両親と共に過ごしてまいりました。振り返れば、私にとっての「商売の教科書」は、母の膝の上で見た光景そのものでした。母の膝に座り、店にやってくるお客さまへの対応を間近で見て育ったのです。子供ながらに客あしらいの妙を肌で感じる環境にあり、少しばかり「ませた子供」であったかもしれませんが、あの経験は今の私の骨格を作る上で、非常に大きな意味を持っていたと感じております。

     私はよく、会社組織であっても社員に「現場に子供を連れておいで」と言ったりします。それは、「親が働く背中を見せること」が、何よりの教育だと思うからです。サラリーマンの家庭では、父親が外でどのように働き、苦労し、社会に貢献しているのか、子供にはなかなか見えません。家でいつも下着姿だけでくつろいでいる姿を見せて「お父さんを尊敬しなさい」と言っても、それは無理な話でしょう。

     昔は給料袋を直接手渡しでもらってきたものですが、今は違います。父親の価値が「ATM」と感じられるような寂しい状況もあります。だからこそ、親が真剣に仕事に向き合う姿を見せる機会は、意識して作らなければならない大切なものだと考えております。

     私の実家の店には「角打ち」があり、中には酔っ払いもやってきました。しかし、母はそれを見事な形で対応するのです。からかってくるような相手に対しても、機嫌を損ねることなく、実に鮮やかに受け流していく。母が酔客を上手にあしらう姿を横で見ながら、私は「人との接し方」の極意を、自然と体に染み込ませていきました。

     一方、父はどちらかと言えば「外向き」の人でした。お祭りなどの町の行事があれば、いつもまとめ役として奔走していました。ひたすら店を守り抜く母と、地域のために尽力する父。この両輪の姿が、私の原風景となっております。

     当時の商売は、夜遅くまで続きました。店の前が映画館だったこともあり、土曜日は「ナイトショー」が終わるまで店を開けていました。閉店が23時を過ぎることも日常茶飯事でした。中学生になると、店の手伝いも私の大切な役割となります。重いシャッターの棒を持ち、天井まで届くような大きなシャッターの柱を何枚も立てる。それが私の日課でした。

     今の私があるのは、決して机の上の勉強だけによるものではありません。夜遅くまでシャッターを上げ下げし、母の隣で多様な人間模様を見つめてきた、あの商いの現場があったからこそです。「親の背中を見て育つ」という言葉の重み、そこで学んだ「生きた知恵」こそが、私の経営の根底に今も流れ続けております。

    #野本弘文#東急#東急電鉄#東急不動産#東急グループ#まちづくり#逆転の経営#現場主義#リーダーシップ#創業の精神#3つの日本一#ひとつの東急
    Diamond AI trial