未来に向けて 経験が原石を磨く
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#29アジア太平洋小売業者大会(東京大会)
野本弘文 2026/05/29
百貨店、スーパー、ショッピングセンター、専門店、フランチャイズ――「小売業」には、実に多様な業態があります。
私は現在、「日本小売業協会」の会長職を務めています。同協会には業態ごとの業界団体が参加し、業態の枠を越えた連携の強化に取り組んでいます。
協会の発足は1978年。東急の五島昇社長(当時)が、小売業の社会的な地位と発言力を高めることを企図し、当時の日本商工会議所・東京商工会議所会頭の永野重雄氏とともに設立。初代会長には永野氏が就任し、その後を受けて、五島昇も1984年から同協会会長を務めました。
私が、日本小売業協会会長を拝命したのは2019年。就任までの経緯は、いまでも忘れられません。
前協会長の清水信次氏(ライフコーポレーション創業者)は豪放磊落で、ちゃめっ気のある方でした。東急社長時代、「次はあなたが協会会長に」と言っていただきました。
そのお話をいただいたとき、五島昇が設立に関わった協会であるという重みとともに、私の脳裏に浮かんだのは、幼少期を過ごした福岡県行橋市の商店街の光景でした。
戦後の復興期、まだ決して豊かとはいえない時代でしたが、町には少しずつ人の往来が戻り、店先には品物が並び、人々が足を止めては品定めをする――そんな日常がようやく息づき始めていました。
まだ幼子であった私にとっても、「野本商店」の店先に立って眺めていた光景は、どこか心躍るものでした。買い物を楽しむ人々の表情、店主との何気ないやり取り、その場に流れる温かな空気。そこには、平和であればこそ暮らしが前に進んでいく、確かな手応えのようなものがありました。
「小売の現場には、人の生活を支える力と、日々を少し明るくする力がある」。そんなことを、幼いながらに感じ取っていたのだと思います。
そうした思いもあり、日本の小売業の発展のお役に立ちたいという気持ちはありましたが、当時は東急社長という立場もあり、本業との両立の難しさから、協会長の役目はお断りをさせていただきました。
しかし、私が東急の会長職に就くや否や、清水協会長(当時)から、「東急会長就任の御祝い」と言わんばかりに連絡を受け、小売業協会副会長を依頼されたのです。
「複数名いる副会長の一人なら」と内諾しました。そうして出席した日本小売業協会総会当日、配布資料の私の名前の横には「副会長 “会長代行”」の文字が。事前に聞いておらず、目が点になりました。
代行を1年務めた後、そして清水さんの意図に導かれるように、私は日本小売業協会会長に就きました。
昨今、世界の小売業は、ネット通販の台頭に加え、決済、物流、広告、コンテンツが重なり、業態の「際(きわ)」が急速に薄れています。中小企業も多い小売では、海外展開や技術革新、人材確保など、個社だけで解決しづらい局面が増えました。だからこそ、業態を越えて知恵と経験を持ち寄り「共に将来を考える」場の必要性が益々高まっていると感じます。
小売業協会の大きな役割のひとつに「アジア太平洋小売業者大会」の開催があります。アジア太平洋地域の小売業者同士の交流を通じ、業界としてのさらなる発展を目指し、五島昇、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊氏、イオンの岡田卓也氏らが中心となって、1983年に第1回大会を東京で開催し、以降2年ごとに各国で開催され、40年を超える歴史を持ちます。
2026年10月、アジア太平洋小売業者大会を19年ぶりに日本・東京で開催します。 国内外の著名な経営者や有識者が登壇する国際会議、ならびに展示会を実施し、4日間で延べ1万人の来場を見込んでいます。各国・地域の小売関連企業が出会い、学び合い、協業の芽を育てる機会にしたいと考えています。
大会のテーマは、「小売業の未来~革新と普遍~」です。
Eコマース、AI、ロボティクス、デジタル接客――これらは単なる効率化の手段ではなく、顧客満足を高めるための重要な基盤です。省人化とサービス向上を両立させ、「技術で支え、価値で売る」実践を共有していきたいと考えています。
同時に今回は、「Jサブカル×リテール」を掲げ、基調講演とも連動させながら、日本発コンテンツの力を商品と体験へと広げる取り組みも行います。このことは、政府が推進するコンテンツ戦略とも合致いたします。
現下、世界各地において、先行きの不透明感が高まっており、資源・物流の不確実性も増しています。こうした局面では、各国の産業同士、民と民が、対話と協働を続けることが、より一層重要になるのではと思います。
昨年、東京でアジア太平洋地域の各国小売業協会のトップが集まる会議が開かれ、域内の小売業発展に関わる様々な議論が行われました。
この会議で私は、「小売業は平和産業であり、小売業の発展が平和につながる」と述べました。
これは、協会第4代会長でイオングループ名誉会長の岡田卓也氏の言葉でもありますが、私自身もそのように信じています。
幼少期に目にした商店街の風景。人々が行き交い、対話し、必要なものを手に入れる――。そうした当たり前の営みの積み重ねこそが、経済の基盤であり、ひいては平和を支える土台であると考えています。
そして、「アジア太平洋地域の小売業が連帯を強め、経済の安定成長と安全性を高めることこそ、私ども小売業者の力を発揮するところであり、平和で豊かな国際社会の実現に貢献することが大事である」。
このように話し終えたところ、各国の協会代表からも拍手をもって歓迎されました。
こうした想いを実現していくためにも、アジア太平洋小売業者大会(東京大会)が、参加される皆様にとって、実り多きものとなることを願っています。
写真:2024年開催 第21回アジア太平洋小売業者大会(スリランカ コロンボ大会)で登壇する筆者


