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“自分らしい最期”のために。ホスピス型住宅という選択肢
ビジョナリー編集部 2025/12/12
「もし自宅で介護ができなくなったら、どこで最期を迎えるのがいいのだろう?」
高齢化が進む現代日本において、こうした問いに直面する人が年々増えています。特に、末期がんや難病など医療的なケアを必要とする方にとって、選択肢は病院だけではありません。今、注目を集めているのが「ホスピス型住宅」です。
「穏やかに、そして自分らしい最期を過ごせる場所」
「専門的なケアを受けられる安心感」
そんな期待を抱く方も多いはずです。しかし、同じく高齢者向けの施設である「有料老人ホーム」とは、どう違うのでしょうか。
今回は、ホスピス型住宅の特徴と有料老人ホームとの違い、そして選ぶ際に知っておきたいポイントについて、現場の声や現実の課題も交えながら分かりやすく解説します。
急増するホスピス型住宅
かつて日本では8割を超える人が病院で亡くなっていました。しかし、高齢化と医療費抑制の政策の影響で、病院のベッド数は減少傾向にあります。一方、団塊の世代が平均寿命を迎える2040年には、年間死亡者数が168万人に達するとも予測されています。
そこで政府は、住み慣れた地域や自宅で最期を迎えられるよう、在宅医療や地域包括ケアの仕組みを整備してきました。しかし、現実には家族だけで24時間の介護や医療的ケアを担うのは簡単なことではありません。
「家で看取ってあげたいけれど、実際には難しい」
この受け皿として生まれてきたのが、ホスピス型住宅です。
ホスピス型住宅とは
ホスピス型住宅は、末期がんや進行性の難病など、回復が難しいと診断された方を主な対象とする住宅型施設で、その最大の特徴は“医療ケアの深さ”です。医師や看護師、ソーシャルワーカーなど多職種が連携し、「痛みや苦しみを和らげる」「心のケアも大切にする」「家族のサポートも重視する」といった、いわゆる“全人的ケア”を目指しています。
入居期間に特に制限はなく、ご本人の状態や希望に合わせて、食事や日常生活の支援はもちろん、在宅酸素や点滴、痛み止めの投与など高度な医療的ケアも受けられます。
「自分の家具を持ち込める」「面会時間に縛りがない」など、自宅のように落ち着いた雰囲気で過ごせることも大きな特徴で、病院と自宅の“中間”の場所と位置づけられています。
有料老人ホームとは
一方、有料老人ホームは、高齢者のための「住まい」として広く知られています。要介護認定を受けた方を中心に、食事や入浴、排泄など日常生活のサポートを受けることができます。
医療ケアに関しては、施設によって体制が異なり、日中のみ看護師がいる場合や、医師との連携が限定的な場合もあります。「24時間看護師常駐」をうたう施設もありますが、その分費用が高額になりがちです。
ポイントは、有料老人ホームはあくまで“介護”が中心であり、医療的なケアが必要な方や、末期医療のサポートが必要な方には十分対応できないことも多いという点です。
ホスピス型住宅と有料老人ホームの違い
大きなポイントは、「医療的なケアの質と範囲」「入居できる方の条件」「過ごし方の自由度」にあります。
1. 医療ケアのレベルと体制
ホスピス型住宅では、末期がんや難病など医療依存度の高い方を対象に、24時間体制で看護師が常駐し、症状の変化や急変にも即時に対応できる体制を整えています。
たとえば、在宅酸素や点滴、痛み止めの管理、褥瘡(床ずれ)や人工呼吸器の管理など、非常に専門的な医療サポートが日常的に提供されます。
また、カウンセラーやソーシャルワーカーによる心理的な支援や、ご家族への教育も重視されているのが特徴です。
一方、有料老人ホームは、基本的に日常生活のサポートが中心です。
医療ケアが必要な場合も、施設によっては対応できないことがあり、「医療行為は原則外部の医師や訪問看護師に委託する」というケースも見られます。
2. 入居できる方の条件
有料老人ホームは、元気な高齢者から要介護の方まで幅広く受け入れていますが、医療依存度が高い方は入居を断られることもあります。
ホスピス型住宅は、がんの末期やALSなど国が指定する難病を抱えた方、人工呼吸器や中心静脈栄養、頻回な痰吸引などが必要な方を対象とし、医師の診断が必須となるケースが多いです。
3. 過ごし方の自由度と「その人らしさ」
ホスピス型住宅は、「その人らしさ」を尊重した自由な過ごし方を重視します。
たとえば、家族や友人と気軽に面会できる、好きなインテリアで居室を整えられる、最期の時間を自分のペースで過ごせる──こうした“生活の場”としての自由さが際立っています。
有料老人ホームも生活の場ではありますが、医療的な制約や施設のルールによっては自由度が制限される場合もあります。
ホスピス型住宅のメリットと現実の課題
「家ではもう無理。でも、病院にも長くいられない」
そんな方にとって、ホスピス型住宅は大きな救いとなります。
家族だけでは担いきれない24時間の見守りや、専門スタッフによる手厚いケア、急変時の迅速な対応──これらが、ご本人の安心やご家族の精神的な負担の軽減につながります。
また、医療的ケアだけでなく、心のケアや家族へのサポートも重視されているため、「最期まで自分らしく生きる」ことを支える場所でもあります。
しかし、急増する施設にはいくつかの課題も見え隠れしています。
最も深刻なのは、施設ごとにケアの質に大きなばらつきがあることです。
「ホスピス」という名称を掲げていても、必ずしも専門的な緩和ケアの知識や経験を持ったスタッフが十分に配置されているとは限りません。
また、訪問看護サービスの過剰請求や不適切な運用が一部で問題となり、制度の隙間を突いた不透明な収益構造が指摘されています。
費用面でも、医療・介護のサービスが手厚い分、月額20〜40万円と高額になりやすく、保険適用範囲によって自己負担額も大きく変動します。
こうした現実を理解した上で、施設選びを慎重に進めることが重要です。
どちらを選ぶべきか
「ホスピス型住宅」と「有料老人ホーム」、どちらが自分や家族に合っているのか。
その答えは、必要とするケアの内容、家族のサポート体制、そして費用や居住環境など、さまざまな要素によって変わります。
もし末期がんや難病で医療的ケアが不可欠な場合、ホスピス型住宅は心強い選択肢です。自宅での介護が難しい場合や、病院からの早期退院を求められた場合にも、受け皿として現実的な価値があります。
一方、日常生活のサポートが中心で、医療的ケアが限定的であれば、有料老人ホームも選択肢となります。
大切なのは、「ホスピス」「老人ホーム」という“名称”だけで判断しないことです。
実際に施設を見学し、スタッフの体制や医療機関との連携、夜間の対応、ケアの内容・質などを具体的に確認することが不可欠です。
未来のホスピス型住宅に求められるもの
ホスピス型住宅は、多くの人の“最後の住まい”という社会的役割を担っています。
しかし、その急速な増加の裏には、ケアの質の均一化や制度の適正運用、そして利用者や家族が安心して選べる透明性の確保という課題も残されています。
今後は、専門的な知識と経験を持つスタッフの育成や、緩和ケアの質を担保する明確な基準作りが求められます。また、訪問看護報酬の制度設計や運営の在り方も、見直されていく必要があるでしょう。
おわりに
人生の最終章をどこで、誰と、どう過ごすか──これは誰にとっても避けて通れない大切な選択です。
ホスピス型住宅も有料老人ホームも、それぞれに異なる役割と価値があります。
大切なのは、ご本人とご家族が安心して選び、最期まで尊厳と穏やかさを保てる環境が整っていること。
こうした選択肢が広がった今こそ、名前やイメージに左右されず、自分たちにとっての「納得できる最期」を見据え、冷静に現実を見極める姿勢が求められています。


