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世界で残ったのは「寿司」ではなかった――回転ずしが証明した、日本式外食モデルの強さ
ビジョナリー編集部 2026/01/28
回転ずしが、いま海外でも支持を集めています。ただ、それは「日本食ブームが再び来た」という話ではありません。日本食がすっかり定着した市場の中で、回転ずしが選ばれている──その変化が、いま各地で進んでいます。
アメリカ、タイ、台湾、中国。食文化も市場環境も異なるこれらの地域で、回転ずしが受け入れられているのは偶然ではありません。外食のあり方が問われるなかで、回転ずしという業態が、それぞれの市場に“はまった”結果なのです。
「日本食が珍しい」時代は、すでに終わった
まず押さえておくべき前提があります。日本食は、もはや海外で珍しい存在ではありません。特にアジアでは、日本食レストランの数が増え、寿司やラーメンは日常的な食事の選択肢になりました。
その結果、消費者の目は確実に肥えています。「日本食だから」という理由だけでは選ばれず、価格、利便性、体験、安心感といった要素が、他国料理と同じ基準で比較されるようになりました。市場は成長期を過ぎ、競争と淘汰のフェーズに入っていると言えます。
高級すしとカジュアル和食が直面する限界
この成熟市場で、特に難しい立場に置かれているのが高付加価値型の専門店と、低価格・大量供給型の飲食店という両端の業態です。
高級すしは、品質や職人技で評価される一方、価格帯が高く、日常利用にはなりにくい。景気や為替の影響も受けやすく、利用シーンが限られます。
一方、カジュアル和食は参入しやすい反面、差別化が難しく、価格競争に陥りやすい。店舗数が増えるほど、持続的に選ばれ続けるのは困難になります。
この二極の業態の間にあった“空白地帯”を埋めたのが、回転ずしでした。
回転ずしが持つ、業態としての強さ
回転ずしが世界で残っている理由は、味や文化以前に、構造そのものが強いことにあります。
一皿ごとの価格が明確で、客は自分で食べる量と支出を調整できる。注文から提供までの流れがシステム化され、人手不足や人件費上昇にも対応しやすい。さらに、ネタや味付けを地域ごとに変えやすく、ローカライズ耐性が高い。成熟した外食市場が求める条件を、同時に満たせる業態は多くありません。回転ずしは、その数少ない例の一つでした。
以下では、海外の主要市場に目を向け、回転ずしがどのような理由で支持を集めているのかをご説明します。
タイ──「日本食が増えすぎた市場」で選ばれる理由
タイでは、日本食レストランの数が増え続けています。その中で、すし業態に求められているのは「日本らしさ」ではなく、「価格に対して、どこまで納得感のある体験を提供できるか」です。
回転ずしが評価されているのは、一皿単位で価格が把握でき、客単価を自分で調整できる点にあります。加えて、提供スピードが速く、滞在時間も比較的短い。外食頻度の高い都市生活者にとって、「使いやすい外食」として定着した理由です。
味付けやネタ構成も、現地の嗜好に合わせて柔軟に調整されています。たとえば、生魚中心ではなく、火を通したネタや揚げ物、甘辛いソースを使った寿司を増やすなど、食べ慣れた味に寄せた工夫が行われています。その結果、回転ずしは、日本食が日常的に食べられるようになった市場で、もっとも合理的な外食の選択肢の一つとして定着しました。
台湾──「一人外食」と「回転率」に最適化された存在
台湾で回転ずしが定着した最大の理由は、外食の使われ方にあります。台湾では一人で外食する文化が根付いており、食事にかける時間も比較的短い。30〜40分で完結する外食が好まれます。
回転ずしは、この条件をほぼ完璧に満たしました。入店から注文、提供、会計までがスムーズで、一人でも居心地が悪くならない。価格帯も極端に高くなく、皿数で量を調整できるため、「今日は軽く」「今日はしっかり」と柔軟に使えます。
ネタ構成も台湾向けに最適化され、脂の強さより食べやすさが重視される傾向があります。温かいメニューやデザートの存在感も大きく、回転ずしは寿司専門店というより、一食完結型の外食として完成度を高めていきました。
中国──「可視化された仕組み」が信頼を生む
中国の都市部では、外食の選択肢が非常に多い一方で、「何が出てくるか分からない店」への警戒感も根強くあります。
その中で回転ずしが支持された理由は、分かりやすさと安心感でした。価格が明示され、料理の提供プロセスが見える。注文方法もシンプルで、待ち時間の見通しが立つ。こうした要素が、リスクの低い外食として受け入れられました。
ネタも日本型に固執していません。火を通したメニューや肉類、濃い味付け、地域色の強いソース。「寿司=生魚」という前提を外したことで、より広い層にとって入り口の広い業態になりました。
アメリカ──「食事」より「体験」として消費される
アメリカにおける回転ずしの特徴は、エンターテインメント性にあります。回転ずしは単に寿司を食べる場所ではなく、体験する場所として認識されています。レーンを流れる皿の動き、注文した料理が高速で届く演出、子どもでも直感的に操作できるタブレット注文。これらは、テーマパーク的な要素に近く、食事時間そのものがイベントになります。
週末には、家族で外食を楽しむ場として選ばれ、「何を食べるか」以上に「どこで過ごすか」が重視されます。
また、チップ文化のある市場では、セルフ型・半自動型の回転ずしは会計が明確で、心理的負担が少ない外食でもあります。合理性と楽しさを同時に満たした点が、幅広い層の支持につながりました。
世界で残ったのは「寿司」ではなく「仕組み」
こうして各国を見渡すと、共通点が浮かび上がります。評価されているのは寿司という料理そのものではなく、回転ずしという仕組みです。
価格の透明性、効率的な運営、体験性、ローカライズのしやすさ。
成熟した日本食市場において、これらを同時に満たせる業態は多くありません。回転ずしは、流行ったのではなく、選び残された。その結果、今世界で存在感を放ち、それぞれの場所で支持されているのです。
日本の日常が示す、次のヒント
日本では当たり前になりすぎた回転ずし。しかし世界では、いまなお完成度の高い外食モデルとして機能しています。
重要なのは、日本文化をそのまま輸出したことではありません。日本で磨かれた仕組みを、各地の生活や価値観に合わせて再編集してきたこと。その積み重ねが、回転ずしを世界に残しました。
回転ずしの成功は、日本の「日常」がどのような形であれば世界に受け入れられるのかを考えるうえで、重要なヒントを与えています。


