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2026

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    10年先、20年先も「伊右衛門」の味を守るために。茶農家の悲鳴に、サントリーはどう向き合ったのか

    10年先、20年先も「伊右衛門」の味を守るために。茶農家の悲鳴に、サントリーはどう向き合ったのか

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    「サプライヤー」ではなく「パートナー」と呼ぶ理由

     サントリーグループが年間に製造する製品は約3,000種類にのぼる。その裏側では、世界各国に広がる約200社の取引先とともに、2,000品目を超える原料を調達する巨大な供給網が動いている。

     しかし近年、気候変動や地政学リスクの高まり、さらには深刻な労働力不足など、原料調達を取り巻く環境は急速に複雑化している。

     「BOSS」や「伊右衛門」といった数々のヒット商品を生み出し続ける同社は、この危機にどう立ち向かっているのか。その戦略の核心にあるのは、単なる原料の「購入」という枠を超えた、産地や農家との二人三脚のパートナーシップだという。

     サントリーには、調達活動の根幹となる「サントリーグループ サステナブル調達基本方針」(2011年制定)というものが存在する。企業理念である「人と自然と響きあう」に基づき、人権・労働から環境配慮まで多岐にわたる行動規範を定めているが、その文末には象徴的な一文が置かれている。

     「お取引先との良好なパートナーシップを構築し、真に豊かで持続可能な社会の実現に貢献します」

     同社にとっての「調達」とは、単にモノを買うことではない。そこには、社会的責任を果たしながら、パートナーと共に持続可能な供給網をつくりあげる活動であるという思想が色濃く表れている。

     象徴的なのが、サントリーの現場では調達先を「サプライヤー」と呼ばない点だ。原料調達部 部長の岩井宏之氏はこう語る。

     「サプライヤーという言葉には、どこか上下関係のようなニュアンスが含まれてしまう。私たちは調達先の方々と対等に議論し、一緒に歩んでいく関係性でありたい」

     「パートナー」が指す対象は商社やメーカーに限らず、JAや個々の農家にまで及ぶ。産地と直接リレーションを築き、持続可能な原料づくりの仕組みをゼロから共創することもある。そこまで踏み込むのは、原料を生み出す農家が持続可能でなければ、自社の事業も継続できないという強い危機感があるからだ。

     その危機感が最も顕著に表れた事例の一つが、緑茶の茶葉だった。

    24時間稼働、睡眠2時間。茶農家が直面していた「過酷な現実」

     国産茶葉100%でつくる「伊右衛門」にとって、国内の茶産地が抱える課題は死活問題だ。茶農家の収穫期は4月から10月頃まで続くが、その実態は想像を絶する重労働だという。

     緑茶の茶葉は収穫後すぐに発酵を止める必要があるため、「荒茶」への加工が欠かせない。蒸し、揉み、乾燥といった工程を毎日、天候や収穫量に合わせてこなさなければならず、加工量が多い日には睡眠時間が2〜3時間という農家も少なくない。各農家が自前の加工場を持つため、重量のある茶葉を運び出す作業も日常茶飯事。こうした過酷な生活が、半年近く続くのだ。

     さらに農家を追い詰めていたのは、精神的な不安だった。

     丹精込めてつくった茶葉も、市場に出せば誰の手に届くのかは見えず、品質によって価格も激しく変動する。身体的な限界に近い中で、先の見えない経営不安を抱え続けることは、茶農家にとって大きな負担となっていた。収入の不安定さから肥料代を削らざるを得ず、結果として品質が低下するという悪循環に陥るケースも少なくなかった。

     こうした環境が茶農家の高齢化や担い手不足を加速させ、国産茶葉の生産量は減少の一途をたどっている。この窮状を前に、サントリーは2015年から熊本・鹿児島・静岡のJA、農家、行政と連携し、産地が持続できるための抜本的な改革に乗り出した。

    産地改革の二大柱:加工負担の軽減と「経営の安定」

     サントリーが主導した産地改革は、大きく二つの柱で構成されている。

     一つは、収穫から加工までを農家が一人で抱え込まなくて済む「仕組みづくり」。もう一つは、将来の見通しを持って茶づくりに向き合える「経営環境の整備」だ。

     まず、収穫期の大きな重荷となっていた荒茶加工について、需要が拡大するペットボトル飲料向けに新たな加工プロセスをJAや農家とともに開発した。これにより、農家が無理なく生産量を確保できる体制を整えたという。

    ★農家、JA、サントリーで新工程を開発 記事内画像 記事内画像

    ★新工程で作った茶葉を農家の方とサントリー社員で評価 記事内画像 記事内画像

     さらに、作業を集約するためにJAと協働して「伊右衛門」専用の茶葉工場を新設。農家は「収穫した葉を持ち込むだけ」という選択が可能になった。この工場の機械設備は、サントリーと機械メーカーが共同開発したもので、製造効率の向上だけでなく、GHG(温室効果ガス)の削減にも寄与している。

    ★JA鹿児島ファクトリー・オートメーション茶工場(鹿児島) 記事内画像

     もう一つの柱である経営の安定化では、肥料など茶づくりに必要な経費を保証する仕組みを導入。取引価格についても、農家と議論を重ねながら毎年ガイドラインを策定し、急激な価格変動が起きにくい取引条件を整えた。これにより、茶農家は「良い土壌づくり」という、味と品質の根幹に向き合う作業に集中できるようになったのだ。

    ★鹿児島の契約農家様との年次報告会。 茶葉の品質評価結果の報告と今後の伊右衛門ブランド方針を共有。 記事内画像

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     結果として、「伊右衛門」に必要な国産茶葉を、一定の割合で安定的に確保することに成功している。

    「釣りが楽しめるようになった」農家の変化と、次世代への希望

     産地改革の恩恵は、数値上の安定だけではない。鹿児島のある農家は、かつての苦悩をこう振り返る。

     「24時間おいしい茶葉を作るためにはどうすればいいかを考えることは苦じゃない。でも前は、市場での価格が上下して収入が不安定になるので、どこか気持ちが落ち着かなかった。収穫時期が近づく3月に入ると毎年憂鬱。また、摘採後の荒茶加工が大変で辛い。半年の辛抱と思って何とか続けてきた」

     それが今では、別の農家からこんな声があがっているという。

     「いまは余計な心配がなくなって、美味しい茶づくりに集中できる。休みの日に釣りに行けるようになって、心から楽しめるようになった」

     収入面の不安が和らぎ、身体的負担が減ったことで、「茶づくりを続けたい」という心のゆとりが生まれている。店頭に並ぶ「伊右衛門」を見て誇りを感じるという声も増えており、その誇りが次世代への継承にもつながっている。実際に、若い世代が跡を継ぐために戻ってきた農家もあるという。

    ★JA、農家の方、茶農家を継ぐ息子さん(中央) 記事内画像

     サントリーが「伊右衛門」を通じて取り組んだのは、単なる「効率的な調達」ではない。産地の懐深くに入り込み、農家の課題を一つずつ共有しながら、共に持続可能な環境を整えていくプロセスそのものだ。

     この二人三脚の歩みが、「伊右衛門」の変わらぬ味を支え、産地の10年、20年先の未来を形づくっている。

    #サントリー#伊右衛門#サステナブル調達#パートナーシップ#産地改革#茶農家

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