創造的破壊が未来を拓く――ノーベル経済学賞が示し...
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3400万人の都市が変わる—34歳の民主社会主義者マムダニ、NYC市長に就任
ビジョナリー編集部 2025/11/13
2025年11月4日 ニューヨーク市民は、従来の政治常識を覆す選択をしました。移民の家庭に生まれ、民主社会主義を掲げるゾーラン・マムダニ氏(34)が、市長という重責を担うに至ったのです。資金力も後ろ盾も十分とは言えない挑戦者が、なぜ世界都市のトップに立つことができたのでしょうか。背景には、拡大する格差や政治的停滞に対し、市民が真に「変革」を求めた現実があります。既存の構造では救いきれない暮らしの不安と、未来への期待が、この異例の選出を後押しいたしました。
「生活できない」声が広がる
今、ニューヨークで暮らす人々の多くが「このままでは生活できない」と切実な声をあげています。ワンベッドルームで家賃は約50万円、年収720万円でさえ貧困層と言われるほどです。
ニューヨークの次期市長に当選したゾーラン・マムダニ氏は、民主社会主義を掲げ様々な公約を打ち出すことで、生活が変わる期待と経済に与える不安などが入り混じっています。
本稿では、ニューヨークの生活の現状や、次期市長のマムダニ氏について解説していきます。
※ この記事は2025年11月時点のものです。
ニューヨークの現状
ニューヨークの家賃は、東京の約6倍とも言われています。ワンベッドルームの家賃が平均51万円を超え、年収1230万円の世帯でさえ、家賃が収入の約50%を占めているのが実情です。
ニューヨークでは年収720万円でも「貧困層」と言われ、食料品や光熱費、教育費も軒並み高騰しており、市民の4人に1人が貧困ライン以下で暮らしているという調査結果もあります。
米労働統計局の最新データによると、ニューヨーク都市圏の消費者物価指数(CPI)は年3.2%上昇し、全米平均の2.7%を大きく上回っています。
特に目立つのは住宅費の高騰で、ニューヨーク市と近郊エリアの家賃上昇率は4.7%(全米平均は3.9%)。エネルギー費も3.9%上昇し、ガソリン価格は下がっても天然ガス・電気料金の上昇が生活を直撃しています。
さらに、教育費・保育費の上昇も深刻です。授業料と保育費は5.9%も上昇し、全米平均(3.5%)を大きく上回っています。
食料品価格も例外ではなく、全米2.2%増に対し、ニューヨークは3.5%増。2013年から2023年の10年間で、家庭用食料品の価格は65.8%も上昇したとの報告もあります。
ニューヨークの次期市長にマムダニ氏が当選
2025年のニューヨーク市長選では、期日前投票が73万人を超え、大統領選を除けば史上最多となり、「このままでは暮らせない」という切実な思いが、投票行動につながりました。
そんな市民の希望を受け止めたのが、ゾーラン・マムダニ氏です。
マムダニ氏は、アフリカ・ウガンダ出身のインド系移民でイスラム教徒です。7歳でニューヨークに移住し、2018年に市民権を取得しました。
マムダニ氏は「古い政治からの脱却」と「エリートからニューヨークを取り戻す」ことを訴えてきました。自身もマイノリティであり、9.11以降のイスラム教徒への偏見とも闘ってきた経験が、多くの共感を集めました。
マムダニ氏の政策
0〜3歳児保育の無償化
- 現状:ニューヨーク市では3歳以上は無料だが、0〜3歳は年間約184〜315万円(1人あたり)という高額の負担をし、80%超の家庭が保育費を支払えず、働きたくても働けない親が多くいます。
- マムダニ氏の政策:すべての家庭に無償保育を提供。年間約60億ドル(約9228億円)の予算規模です。法人・富裕層増税を予定し、労働参加率向上による税収増も見込んでいます。
実現すれば、約1万4000人の母親が新たに働きに出て、労働所得が9億ドル(約1384億円)増える可能性も指摘されています。
バス通勤の完全無料化
- 現状:低所得者向けに50%の割引制度がありますが、2024年以降、無銭乗車率は四半期ごとに約40%の水準で推移しています。
- マムダニ氏の政策:全市民向けに完全無料化。年間コストは約8億ドル(約1230億円)と試算しています。また、通勤の負担軽減するためにバス専用レーンの増設も提案し、交通の高速化も視野に入れています。
しかし、バス運営を担うMTA(州の管轄)は、運賃収入がバス予算の19%を占める現状で赤字も深刻です。州政府の協力が不可欠で、実現へのハードルは高い状況です。
家賃規制住宅100万戸の値上げ凍結
- 現状:15年ぶりの家賃補助申請には63万人超が殺到し、高騰する家賃に苦しんでいる状況が浮き彫りになっています。
- マムダニ氏の政策:10年で20万戸の新規家賃規制住宅建設(市の負担は約15兆円規模)、既存の家賃規制住宅(約100万戸、賃貸住宅の半分弱)の家賃を据え置くことを提案しています。
ただし、家賃調整の決定権は「市家賃ガイドライン委員会」にあり、市長単独では決められません。委員9人の任命権を活かし、値上げ凍結に前向きな人物を送り込む方針ですが、家主側の反発や物件の質低下など課題もあります。
市営スーパーマーケット創設
食料品の値上げも、市民の暮らしを直撃しています。
- 現状:2013年〜2023年で食品価格は65.8%上昇(全体インフレ率を大幅に上回る)
- マムダニ氏の政策:市内5行政区に市営スーパーを各1店舗設置(試験導入)、卸売価格での販売を想定。年間運営コストは92億円と見積もっています。
類似した取り組みはシカゴ市でも構想されており、都市政府による食の支援は全米的な関心事となっています。
マムダニ氏の政策実現の壁
増税への反発・富裕層流出リスク
財源の多くを法人・富裕層増税に頼る構想ですが、過去にも同様の政策は州議会で否決された経緯があります。
「税金が上がれば企業や富裕層がニューヨークから逃げてしまう」というリスクと、どう向き合うかが問われています。
州と市のねじれ──政策実行の調整力
保育無償化やバス無料化など、州政府や州議会の協力が不可欠な施策が多く、マムダニ氏の「調整力」が問われる局面が続きそうです。
ニューヨーク市民はどう受け止めているのか?
マムダニ氏の勝利は、ニューヨークのみならず全米に衝撃を与えました。「新しい時代が始まるかもしれない」という期待感とともに、「本当に実現できるのか?」という現実的な疑問も渦巻いています。
現地メディアの論調も、
「民主社会主義者のリーダーが資本主義の中心地で生まれたことは歴史的」
「もしニューヨークで成功すれば、全米の都市に影響が波及する」
など、その象徴的な意味合いを強調しています。
一方で、市民の多くは「生活苦からの脱却」を強く望んでおり、政策の“実効性”こそが最大の関心事です。
まとめ
マムダニ氏の掲げる政策は、高い期待感があると同時に、政策実現には数々の高い壁が立ちはだかっています。
一方で、ニューヨーク市民が変化を強く求めているのもまた事実です。
今後の市政運営が、全米の都市政策や、世界の大都市が抱える課題にも大きな影響を与えるのではないでしょうか。
ニューヨークの挑戦は、私たち一人ひとりの「都市のかたち」を考えるきっかけになるはずです。


