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2026

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    「勝つだけでは、応援されない」――鹿島学園・鈴木雅人監督の「カシマアカデミー」で挑む地元密着型チームへの進化

    「勝つだけでは、応援されない」――鹿島学園・鈴木雅人監督の「カシマアカデミー」で挑む地元密着型チームへの進化

    2026年の全国高校サッカー選手権大会で悲願の初優勝を果たした鹿島学園。その勝因の一つとして見逃せないのが、7年前に設立された「カシマアカデミー」の存在だ。かつては県外からのスカウティングに依存し、「地元選手不在」と言われることもあったチームが、いかにして地域密着型の育成システムを構築したのか。そこには、日本の少年スポーツ界に根付く「ボランティア文化」との闘いと、サッカーを通じた「街づくり」という監督の強い使命感があった。鈴木雅人監督に、アカデミー創設の経緯と経営者としての葛藤を聞いた。

    「ここは誰のチームなのか?」表敬訪問で感じた違和感

    2018年に「カシマアカデミー」を設立されました。高校の部活強化において、なぜ小学生や中学生からの育成組織が必要だったのでしょうか。

    正直に申し上げますと、就任当初はスカウティングに頼っていました。関東各地から有望な選手を連れてきて、彼らを鍛え上げることで結果を出す。そのアプローチによってチームは強くなり、全国大会にも出られるようになりました。

    しかし、勝ち進むにつれてある種の「空虚さ」を感じるようになったのです。 例えば、全国大会出場の報告で地元の市長へ表敬訪問に行った時のことです。「頑張ってください」と激励されるのですが、ふと見渡すと、そこにいる選手の中に地元の子供は一人もいない。

    「勝つことは素晴らしいけれど、果たしてこれは本当に地域の人たちが心から応援できるチームなのだろうか?」 そんな強烈なジレンマに襲われました。地域の方々に寄付金のお願いや応援を求めても、「地元の子がいないじゃないか」という冷めた視線を感じることもありました。

    地域に愛され、根付くチームでなければ、本当の意味での「強豪」にはなれない。 そう痛感し、外部から優秀な選手を連れてくる「短期的な強化」だけでなく、地元の子どもたちをジュニア(小学生)、ジュニアユース(中学生)、そして高校へと一貫して育て上げる「長期的な育成」へと舵を切ることを決意しました。

    「スポーツ=無料」という日本の常識への挑戦

    既存の少年団がある中で、本格的なクラブチームを立ち上げるには、ビジネス面でのハードルも高かったのではないでしょうか。

    おっしゃる通り、最も苦労したのは「文化の壁」です。 日本では長らく、子どものスポーツは学校の部活や地域の少年団など、「安価」あるいは「無料」で行われるものという認識が根付いています。そこに、プロの指導者を雇用し、質の高い環境を提供するために「会費」をいただくクラブチームを持ち込むと、どうしても親御さんたちから疑問の声が上がります。

    「子供のスポーツでお金を取るのか?」「金儲けのためか?」と。しかし、欧州を見れば明らかですが、スポーツで強くなるため、良い指導を受けるためには、相応のコスト(投資)が必要です。 指導者が生活できる給与を払い、良いグラウンドを維持し、遠征に行く。これを持続可能な形で行うには、ボランティアベースでは限界があります。

    私たちは、「スポーツは産業であり、価値あるサービスには対価が必要である」という、日本ではまだ浸透しきっていないビジネスモデルを、地道な説得と実績で根付かせていく必要がありました。一般社団法人の登記、税務処理、スポンサー獲得など、やっていることはまさに「企業経営」そのものです。

    「街づくり」としてのクラブ経営。地元選手ゼロからの脱却

    設立から7年が経ち、どのような変化が生まれましたか。

    数字として如実に表れているのが、地元選手の在籍率です。かつてはほぼゼロ%だった地元出身者が、現在ではチーム全体の約20%を占めるまでになりました。 カシマアカデミーで育った子供たちが、鹿島学園の理念や戦術を理解した状態で高校に入学してくる。彼らはチームの核となるだけでなく、地域との架け橋にもなってくれます。

    また、アカデミーの存在は「街づくり」にも繋がっています。 夕方になれば、地元の小学生たちがグラウンドに集まり、歓声を上げてボールを追いかける。それを見守る親御さんたちのコミュニティが生まれる。 地域に密着して強いチームを作ることが、結果としてその街の活気や魅力になっていく。 これこそが、私が目指していた「育成の醍醐味」です。

    現在はまだ、「鹿島学園の育成組織」という認識が広まった段階ですが、将来的にはもっと地域に開かれたイベントや、欧州のような総合型クラブとしての機能を充実させていきたいと考えています。時間はかかりましたが、地元の子どもたちが育ち、やがて全国の舞台で輝く。そのサイクルこそが、チームと地域を繋ぐ最強の絆になると確信しています。

    画像引用元:カシマアカデミーHP

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