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結婚式はなぜ変わったのか──昭和の皆婚社会から「ナシ婚」時代まで
ビジョナリー編集部 2025/12/29
「結婚式」と聞いて、どんな光景を思い浮かべるでしょうか。華やかな披露宴、家族だけの小さな挙式、あるいは何もしないという選択肢。結婚式のかたちは、時代とともに大きく変化してきました。
かつて当たり前だった結婚式は、今や「挙げる・挙げない」を自分たちで選ぶものになっています。
本記事では、昭和の皆婚社会からナシ婚が広がる現代まで、結婚式の変遷を通して、日本人の価値観の変化をひも解きます。
昭和の「皆婚社会」──結婚が人生の通過儀礼だった時代
戦後日本の高度経済成長期、結婚は多くの人が経験する「通過儀礼」でした。結婚式といえば、家族や親戚、職場の上司や同僚まで一堂に会して盛大に祝うのが一般的。会場は神社の神前式が主流で、やがてホテルや専門式場に移り、どんどん規模が大きくなっていきました。
この時代、結婚式は「家」と「家」をつなぐ公的な儀式であり、新郎新婦だけでなく家族や親族のためのものでもありました。費用は親が負担することが多く、伝統やしきたりが重んじられていました。
バブル期の「派手婚」──豪華さがステータスに
1980年代から90年代初頭のバブル期、日本の結婚式はかつてないほどの豪華さを誇るようになります。大きなウェディングケーキをカットし、新郎新婦がゴンドラで登場する……。芸能人の結婚式がテレビで華々しく報道されるたびに、「あんな結婚式を挙げたい」と憧れるカップルが相次ぎました。
当時の結婚式は、まさに「見せるため」「盛り上げるため」のイベント。新郎新婦の衣装替えは複数回、引き出物も高額で、ゲストも会社関係から親戚、友人まで多種多様。「派手婚」は経済成長の象徴であり、社会的なステータスを示す場でもあったのです。
バブル崩壊後の「地味婚」──合理性と個人主義の台頭
バブル崩壊を境に、華美な結婚式に対する疑問が広がり始めます。不景気を背景に「そこまでお金をかけなくてもいいのでは?」という声が高まり、結婚式の小規模化・簡素化が進みました。
この頃から「地味婚」「アットホーム婚」といったキーワードが登場します。家族やごく親しい友人だけを招いた少人数ウエディングや、会場装飾を最小限にし、派手な演出を控えるスタイルが増加。会費制パーティや、形式にとらわれないフリースタイルの人前式も人気を集めました。
また、未婚率の上昇や個人主義の進展により、「結婚=人生の必須イベント」という考え方自体が揺らぎ始めました。会社や親族のための儀式から、“自分たちらしさ”や“おもてなし”を重視するパーソナルなイベントへと、結婚式の意味合いも移り変わっていったのです。
2000年代以降──多様化する「〇〇婚」と結婚式のパーソナライズ
時代が進むにつれて、結婚式のスタイルはさらに多様化していきます。「オリジナル婚」「リゾート婚」「パパママ婚」「フォト婚」「ソロ婚」など、個々の価値観やライフスタイルに合わせた新しい形が次々と生まれました。
リゾート婚では、軽井沢や沖縄、さらにはハワイやグアムなどの海外で非日常的な挙式を体験するカップルが増加。自然に囲まれたロケーションや、旅行を兼ねたセレモニーの魅力が支持されています。
フォト婚は、結婚式を挙げずにウェディングドレスや和装での写真撮影だけを行うスタイル。結婚費用の負担が大きい、盛大な式はちょっと…というカップルに人気です。費用は一般的な挙式の10分の1程度で、思い出や証を写真に残すことができます。
パパママ婚や授かり婚は、子どもが生まれてから、あるいは妊娠中に行う結婚式。式場も託児室やベビーシッターを用意するなど、家族単位での挙式スタイルに対応するようになりました。
ソロ婚やおひとり様婚は、結婚相手がいなくても「ドレス姿を写真に残したい」「自分自身の節目を祝いたい」と思う人たちが選ぶ新しい形です。
こうした多様なスタイルの根底には、「人と同じでなくていい」「自分たちらしい形で祝いたい」というパーソナライズ志向が存在します。結婚情報誌の創刊やSNSの浸透も相まって、カップルはより自由に、よりこだわりを持って、自分たちだけの結婚式をデザインできるようになりました。
コロナ禍とナシ婚──挙式しない選択肢が半数に
2020年以降、新型コロナウイルスの流行が結婚式業界に大きな衝撃をもたらしました。「密」を避けるため多くの式場が休業や延期を余儀なくされ、大規模な集まり自体が難しくなったのです。
この時期に急増したのが「ナシ婚」──結婚式や披露宴を行わず、婚姻届だけを提出するカップルです。厚生労働省や業界団体の調査によれば、最近では結婚するカップルの約半数が「ナシ婚」を選んでいるとも言われています。
「結婚式は高額で負担が大きい」「準備や打ち合わせの時間が取れない」「結婚式自体に価値を感じない」など、理由はさまざま。経済的な不安や、合理性・コストパフォーマンスを重視する時代背景も影響しています。
また、ナシ婚を選んだカップルの中には、「やはり記念を残したい」としてフォト婚やアニバーサリー婚(結婚記念日や子どもの誕生日などの記念日にセレモニーを行う)を後から選ぶケースも増えています。
結婚式場業界の変化と生き残り戦略
こうした変化に直面しているのが、結婚式場業界です。バブル期のような大規模婚礼を前提としたビジネスモデルはもはや通用せず、小規模化・合理化・多様化への対応が不可欠となっています。
たとえば、従来の式場を改装して、家族や親しい友人だけで食事会ができるスペースへとリニューアルしたり、カフェと併設して小さな結婚式を低コストで提供するサービスも登場。さらに、ドレス姿での「ソロフォトウェディング」や、ゲストと一体感を楽しむ「シェアド婚」など、顧客ニーズに合わせた独自サービスを打ち出す企業も増えています。
一方で、厳しい事業環境から老舗式場の閉鎖や大手同士の経営統合も相次いでおり、業界全体が大きな転換点を迎えているのが現状です。
令和の結婚式は「合理性」と「多様性」の時代へ
今、日本の結婚式は「合理性」と「多様性」をキーワードに、かつてないほどパーソナルなものへと変化しています。「コスパ(費用対効果)」や「タイパ(時間対効果)」を重視し、必要以上の派手な演出や大人数の招待は避ける傾向が強まっています。
一方で、「家族や身近な人たちとの絆を大切にしたい」「自分たちだけの思い出を残したい」という思いは、これまで以上に大切にされるようになりました。震災をきっかけに家族や友人との絆を前面に出す演出が増えたように、社会の変化が結婚式の在り方に大きく影響を及ぼしていることは間違いありません。
結婚式の変遷が示す「幸せの多様なかたち」
結婚式の歴史を振り返ると、日本人のライフスタイルや価値観の変化が色濃く反映されていることに気づきます。かつては「皆がやるもの」「やらなければならないもの」だった結婚式は、今や「やりたい人が、やりたい形で、やりたいときに挙げるもの」へと変化しました。
盛大な式であろうと、写真だけの思い出であろうと、あるいは何もしない選択であろうと──それぞれのカップルが自分たちの価値観に合った「幸せのかたち」を選べる時代です。
あなたがもし結婚式について悩んでいるなら、誰かの常識や過去の慣習に縛られる必要はありません。今の日本には、多彩な選択肢と、あなたなりの「最高の一日」を実現できる無限の可能性があります。


