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リモートワークの終焉? 世界的に進む“出社義務化”の背景とこれからの働き方
ビジョナリー編集部 2025/12/17
数年前までは、リモートワーク(在宅勤務)は画期的な働き方改革の象徴でした。しかし、今、世界の名だたる企業が続々と“リモートワーク撤廃”へ舵を切り始めています。
なぜ、あれほど推進されたリモートワークが見直され、再びオフィス出社が求められるのでしょうか?そして、その動きは日本にもどんな影響をもたらしているのか。
本記事では、世界的企業の具体的な事例とともに、その背景や今後の働き方のヒントを詳しく解説します。
いま起きている「リモートワーク撤廃」の波
ITの巨人たちが出社回帰へ
コロナ禍が収束に向かう中、Amazon、Google、Meta(旧Facebook)、IBMなど、世界を代表するIT企業がリモートワークを大きく見直す動きを見せています。
例えば、Amazonは2025年1月から「週5日フル出社」を原則とする方針を打ち出しました。IBMも2017年という早い段階でリモートワークを廃止し、全員にオフィス勤務を命じて話題となりました。
GoogleやMetaも「週3日以上の出社」を徹底するハイブリッドワークへの移行を進め、完全リモートワークは徐々に縮小しています。
スターバックスやアクセンチュアといった他業種の大企業でも同様の動きが加速しています。
日本企業にも広がる「出社回帰」
日本でも、Hondaやアマゾン ウェブ サービス ジャパンが「原則出社」を通達し、LINEヤフーやGMOインターネットグループもハイブリッドワークへ制度を移行しました。
「この先もずっとリモートワーク」と掲げていたLINEヤフーすら、2025年4月からは事業部門で週1回、他部門で月1回の出社を義務付けると発表しています。
なぜ今、「リモートワーク撤廃」なのか?
1. コミュニケーションの“温度”が下がる
リモートワーク最大の課題は「コミュニケーション不足」です。
チャットやビデオ会議が普及し、業務連絡自体は問題なく進むようになりました。しかし、「雑談」「ちょっとした相談」「偶然のアイデア交換」といった、対面ならではのやりとりが激減。
実際、出社を支持する人の多くが「その場で気軽に質問できる」「深い意思疎通がしやすい」「雑談が企画のヒントになった」と感じていることが調査からも明らかになっています。
Googleの人事責任者フィオナ・チッコーニ氏も「直接顔を合わせることに代わるものはない」と強調。MetaのザッカーバーグCEOも「オフィスに出社していたエンジニアの方が高いパフォーマンスを発揮している」と述べています。
2. 組織文化と一体感の希薄化
グローバル企業では、従業員の多様性が“武器”である反面、企業文化の継承や価値観の共有には対面コミュニケーションが不可欠とされています。
実際に、先輩社員の働きぶりを間近で見て学ぶ「暗黙知の伝承」や、新人育成の場面では、オンラインだけでは十分な効果を得づらいという声も多く聞かれます。
3. 生産性向上への再注力
リモートワーク当初は「自分のペースで集中できる」と好評価だったものの、実際には「生産性が下がった」と感じる管理職や経営層が増加しています。
日本の調査でも「リモートでの生産性低下」を指摘する声が45%を超え、特に意思決定やトラブル対応のスピード感が課題に挙げられています。
4. 従業員間の公平性
現場作業員や店舗スタッフなど、そもそもリモートワークができない職種も多く存在します。
こうした従業員との“格差”が組織内のモチベーション低下や不満につながることも。
イーロン・マスク氏(テスラCEO)は「リモートワークは道徳的に間違っている」とまで発言し、全従業員の公平性の観点からオフィス出社を強く推し進めています。
5. セキュリティやBCP(事業継続計画)観点
自宅など分散環境での業務は、情報漏洩リスクやコンプライアンス管理の難しさを伴います。
また、災害時のBCP対策としては有効でしたが、平常時には「一元管理」のほうがリスクが低いと判断する企業も少なくありません。
リモートワーク撤廃の“副作用”
離職や優秀人材の流出リスク
フルリモートを前提に転職・移住した社員や、ワークライフバランスを重視していた人材にとっては、制度変更が大きなストレスとなり得ます。
実際、LINEヤフーの制度変更発表後には「フルリモートができなくなるなら退職も考える」といった声がSNS等で多く見られました。
調査によれば、リモートワーク廃止をきっかけに離職を検討する人は管理職以外で16%、管理職で10%にものぼります。
コスト増とBCP対策の後退
テレワーク推進でオフィススペースを縮小していた企業は、再度の拡張や設備投資が必要となり、コスト増加が避けられません。
また、オフィスを必要とすることで、災害時等の事業継続力が低下するリスクも指摘されています。
それでも出社回帰は“世界の流れ”なのか?
GAFAに見る「現実路線」
GoogleやAmazon、Metaなどを含む世界の大手IT企業の多くが、完全リモートから「週3日以上の出社」へと方針転換しています。
この背景には、
- イノベーションやチームワークの最大化
- 企業文化の維持
- 管理・評価のしやすさ
など、“人が集まる価値”への再評価があるのは間違いありません。
ここで注目すべきは、「ハイブリッドワーク(出社とリモートの組み合わせ)」が多くの企業で“落としどころ”となっていることです。
MetaやGoogleでは、「業務や役割に応じて柔軟な出社ルール」を設けつつも、一定以上の対面機会を確保しています。
日本企業の「慎重な一歩」
日本の企業でも急速な完全出社回帰には慎重な姿勢が目立ちます。
LINEヤフーのように、「週1回」や「月1回」などの緩やかな出社義務化から始める企業が増えているのは、社員の反発や離職リスクを最小限に抑えるための現実的な選択と言えるでしょう。
リモートワーク撤廃を考える企業ができること
1. ハイブリッドワーク導入で“軟着陸”を目指す
いきなり完全出社を強制するのではなく、段階的なハイブリッドワークを導入することで、従業員の心理的負担を和らげ、スムーズな移行を図ることができます。
たとえば、「週1回の出社からスタートし、状況に応じて頻度を上げる」といった柔軟な設定が有効です。
2. コミュニケーション活性化の仕組み作り
出社時には、部署を超えた交流イベントや社内勉強会、カジュアルなランチ会などを積極的に企画しましょう。
普段接点の少ないメンバー同士の“偶発的な対話”こそが、組織の一体感や新しいアイデアの源泉になります。
3. オフィス環境のアップデート
出社したくなる魅力的なオフィス作りも大きなポイントです。
例えば、リフレッシュスペースやオープンスペースの設置、自然光やグリーンを取り入れたレイアウトなど、快適でクリエイティブな環境を目指すことで、出社へのモチベーションが高まります。
4. 従業員の声を“見える化”して制度設計
アンケートや1on1ミーティングで「どんな働き方を望むか」「現行制度の課題は何か」といった従業員の本音を集めましょう。
制度設計には、現場のリアルな声を反映させることが、離職リスクの低減やエンゲージメントの向上につながります。
これからの働き方、“最適解”は一つではない
リモートワーク撤廃の動きが広がる一方で、「通勤ストレスからの解放」「育児や介護との両立」「自分のペースで集中できる」など、リモートワークのメリットを手放したくないという声も根強く残っています。
実際、エンジニアなどの専門職では「8割がリモート継続を希望している」という調査結果もあります。「働き方の多様性」は、今や人材確保や企業競争力の重要なカギです。
大切なのは「自社に合った働き方」の追求
- 完全出社
- ハイブリッドワーク
- 完全リモート
このいずれか一つが“絶対解”ではありません。自社の事業特性、社員構成、企業文化に合わせて、最適なバランスを模索し続けることが、これからの企業経営には求められています。
まとめ
リモートワーク撤廃は、“組織の力”と“個人の力”の最適バランスを探る挑戦です。
世界の先進企業が苦悩しつつも「出社の価値」を再評価している今こそ、日本企業も「働き方の本質」を問い直す好機と言えるでしょう。
「働き方改革」の“次の一手”は、現場のリアルな課題と向き合うところから生まれるはずです。


