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AIオンデマンドバスがもたらす新時代の地域交通
ビジョナリー編集部 2026/04/07
人口減少や高齢化、感染症の影響も重なる今、地方の交通事業は存続すら危ぶまれる状況になっています。国土交通省の発表によれば、2020年度には一般路線バス事業者の99.6%が赤字。鉄道もローカル線の98%が採算割れに陥っています。こうした中、「AIオンデマンドバス」が注目されています。
変わりゆく地方の「足」――AIが生み出した新しい移動体験
AIオンデマンドバスとは、固定の時刻表や路線を持たない予約型の乗合バスです。交通会社や行政などが協力しながら、実証実験や導入が進められています。
最大の特徴は、利用者の希望に応じてルートや時刻を柔軟に設定できる点です。従来のように決まった時刻や路線を走るバスとは異なり、スマートフォンや電話から「この時間・この場所まで」と予約することで、複数の利用者の予約をAIが効率的に組み合わせ、最適なルートで運行できるのです。
これにより、「バス停まで遠い」「待ち時間が長い」といった不便さが大きく改善されています。
実証実験の現場から見えた「成功」と「挫折」
AIオンデマンドバスは、全国各地で導入が進んでいます。
たとえば、岡山県久米南町では、2016年からオンデマンド交通を導入しました。その後、2020年にAI配車システムを本格採用。これにより、従来のバスでは実現できなかった「いつでも・どこでも・誰でも」利用可能な交通網が生まれました。利用者は1.4倍に増加し、年間600万円のコスト削減にも成功しています。
一方で、導入がうまくいかなかった事例もあります。神奈川県松田町では、地域住民の移動の利便性向上を目指し、約1億円をかけてAIバスの実証実験を実施しました。
しかし、会員数の伸び悩みや運営側の財政難、運行会社への未払いなどの問題が重なり、結果的に事業は3年で終了。事業の目的や運営体制の不透明さが、住民や関係者の信頼を損ねる要因となりました。
この仕組みの導入には、地域の実情に合わせた設計と運営の透明性が不可欠なのです。
住民の「日常」を変える力――実感されるメリット
AIバスの魅力は、利便性の向上にとどまらず、住民の日常そのものを変える点にあります。
従来のバスは「1日数本」「最寄りの停留所まで遠い」「時刻表に合わせて行動しなければならない」といった制約があったため、うまく乗車できないと外出そのものを控えてしまう人も少なくありませんでした。
しかし、この仕組みにより、外出のハードルが大きく下がります。買い物や通院、地域活動への参加がより身近なものとなり、生活の行動範囲が一気に広がっていきます。
さらに、バスの稼働率が高まることで、地域全体の「移動量」も増加します。静岡県長泉町では、導入によって利用者数が増え、地域経済にも好影響が波及しました。
移動が活性化することで、人の流れが生まれ、地域経済の活性化やコミュニティの再生にもつながります。まさに「移動」が地域の活力を支える基盤となっているのです。
技術の進化がもたらした「柔軟性」と「効率性」
ルート設計と運行の効率化ができる点も大きな強みです。AIが予約データや道路状況をリアルタイムで解析し、乗客同士の相乗りや最短経路を自動で計算。これにより、従来のバスに比べて無駄な走行が減り、運営コストの削減にもつながります。
たとえば、長野県塩尻市では、配車から到着までの平均所要時間が約8分に短縮。従来の「2~3時間に1本」だった路線バスに比べ、圧倒的な利便性を実現しました。高齢者やスマートフォンに不慣れな方への配慮として、電話予約や操作サポート窓口も設けられ、住民が安心して利用できる体制が整っています。
一筋縄ではいかない「持続可能性」への挑戦
しかし、その一方で課題も残されています。とりわけ大きいのが、採算性の確保です。
利用者が少ない地域では、一人あたりの運行コストが高くなりやすく、現状では補助金への依存度が高いのが実情です。静岡市や掛川市でも、企業協賛金の活用や既存路線の再編によるコスト抑制など、持続可能な運営に向けた模索が続いています。
また、路線バスより運賃が高くなりやすい点や、「予約が面倒」「希望の時間に必ず利用できるとは限らない」といった不便さも指摘されています。特に、高齢者やITに不慣れな方への対応は、今後の普及拡大の鍵を握る重要な課題といえるでしょう。
成功への道筋――地域の声と共に歩む
この取り組みを本当に成功させるには、まず「何のために導入するのか」を明確にしなければなりません。たとえば、交通空白地の解消、高齢者の移動支援、観光誘致など、地域ごとに解決すべき課題やターゲット層は異なります。そのうえで、地元交通事業者との連携や、住民への丁寧な説明・体験機会の提供が欠かせません。
高齢者やスマートフォンが苦手な方のために、電話予約や有人窓口を設ける工夫も必要です。加えて、サービスの存在や使い方を広く知ってもらうための説明会やイベント、地域コミュニティとの協働が、利用促進には不可欠です。
まとめ
AIオンデマンドバスは、地域の活力を呼び戻す「社会インフラ」としての役割が期待されています。一方で、持続可能な運営体制や住民との信頼構築、そして収益性の確保といった課題も山積しています。本格的な普及には、自治体、交通事業者、地域住民が一丸となり、地道な改善と挑戦を重ねていくことが必要です。


