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印象をコントロールする──「クレショフ効果」の活用
ビジョナリー編集部 2025/07/22
日々の商談やプレゼン、広告作り、あるいは社内資料のデザインに至るまで、私たちは「伝わる表現」に頭を悩ませています。しかし、実は多くのビジネスパーソンが見落としている「強力な心理現象」が存在します。それが、クレショフ効果です。
もし初耳だったとしても、あなたはすでにその影響下にあるかもしれません。なぜなら、この効果は私たちが日常的に受け取っている広告や情報に潜んでいるからです。
「顧客にもっと良い印象を持ってもらいたい」「自社商品に深いストーリー性を持たせたい」──そんな願いを持つ方は、ぜひ最後までご一読ください。
クレショフ効果とは?
映像編集が生み出した心理マジック
クレショフ効果とは、「本来関係のない画像や映像を連続して見せるだけで、私たちはそれらの間に意味や感情を勝手に見出してしまう現象」のことです。
この効果の名は、1922年にロシアの映画監督クレショフ氏が行った実験に由来します。彼は、無表情の男性の顔写真と、全く関係のない別の写真を組み合わせて見せることで、見る人の解釈が驚くほど変わることを示しました。
【実験の概要】
- スープの写真 → 無表情の男性
男性の考えていることは「空腹」と解釈
- 棺の中の遺体 → 無表情の男性
男性の考えていることは「悲しみ」と解釈
- ソファに横たわる女性 → 無表情の男性
男性の考えていることは「欲望」と解釈
同じ男性の無表情にもかかわらず、前後の画像に影響されて全く違う感情を読み取ってしまう──これがクレショフ効果です。
幅広い応用
この現象は、映画やテレビCM、広告デザイン、ビジネスプレゼン資料に至るまで、あらゆる場面で人の印象や感情を操作する「隠れた力」として活用されています。
例えば次のような経験はありませんか?
- 新作カフェの広告で、青空の下に並ぶカップと微笑むカップルの写真を見たとき
「このカフェのコーヒーは爽やかで幸福感がある」と感じる - ビジネス街の風景と同時に映し出される新型スーツ
「このスーツを着ればデキるビジネスパーソンになれる」と思う
これらも、クレショフ効果によって、無意識に連想をしているのです。
クレショフ効果のビジネス活用──印象は作り出せる
1. マーケティングで「イメージ」を自在に操る
事例:同じ商品でも見せ方で印象が180度変わる
たとえば高級ハムを販売するとしましょう。
- イタリアの街並みと組み合わせて紹介すれば、「本格的で歴史ある味」というイメージが自然に生まれます。
- ワイングラスや上品な食卓と並べれば、「特別な日にふさわしい高級感」が漂います。
- 家庭の朝食シーンと一緒に映せば、「日常に寄り添う親しみやすさ」を醸し出せます。
このように、商品の背景や一緒に映る要素によって、購入への動機や商品の価値そのものまで変わってしまうのです。
実際のCMの活用例
たとえば洗剤や柔軟剤のCMでよく見る「青空の下、真っ白なシャツがはためく」映像。
「この洗剤で洗えば、爽やかで清潔な香りと心地よい仕上がりが得られる」と感じてしまう……これもクレショフ効果の力です。
2. ブランディングやストーリー作りにも絶大な効果
具体例:抽象的な価値を具体化する
企業のブランドイメージを「誠実」「信頼」「革新性」などの抽象的な価値で表現したい場合、
- 澄み切った青空
- 真っ白なシャツを着た爽やかな社員
- 透明感あるオフィスの風景
こういった象徴的なイメージと自社ロゴや商品を並べることで、「この会社は爽やかで信頼できそうだ」と直感的に感じさせることが可能です。
3. 営業・対人コミュニケーションでも“印象”を劇的に変える
例:小道具や持ち物で自分のキャラをコントロール
- 堅物に見られがちな人が、犬の写真をスマホの待ち受けに使う
「この人、意外と優しそう」と親しみを感じる - 若く見られがちな人が、落ち着いた色合いの名刺入れを使う
「しっかりしている」「信頼できそう」と印象が変わる
このように、自分の印象を補正するための小道具選びも、クレショフ効果の一種といえるのです。
クレショフ効果をビジネスで有効活用するための3つのポイント
1. 「どんなイメージを持ってほしいか」を明確にする
クレショフ効果は、受け手に「どんな印象を持ってほしいか」を具体的に設計したうえで使うのが鉄則です。曖昧なまま映像や画像を組み合わせると、意図しない連想が生まれてしまい、
- メッセージがぼやける
- 誤解や混乱を招く
- 商品や企業のブランド価値を損なう
というリスクが高まります。
まずは、商品を「高級」と感じてほしいのか、「親しみやすい」と思ってほしいのかなど、ゴールを明確にしてください。
2. ターゲットの文化や感性を徹底的に理解する
クレショフ効果は「認知バイアス」に基づいているため、受け手の文化背景や価値観、生活環境によって、想定外の解釈が生まれることもあります。
例えば、日本では「青空=爽やか」「白=清潔」と連想されやすいですが、国や年代、ライフスタイルによっては異なる意味を持つこともあります。
ターゲット層の当たり前や共通体験をリサーチし、それに合ったイメージやストーリーを紡ぐことが大切です。
3. 細部にこだわり、情報発信者の責任を忘れない
クレショフ効果は強力な分、使い方を誤ると「逆効果」となることもあります。
- 関連づけたくないネガティブなイメージが伝わってしまう
- 一部の人にとって不快な表現となる
- 社会的・文化的な誤解を生む
など、負の連想が発生するリスクにも十分に注意を払う必要があります。
「受け手の立場に立って、誤解や不快感を招かないか?」を常に問い直し、細部まで気を配ることが、成功のカギとなります。
まとめ──印象は演出できる
クレショフ効果は、「脈絡のないもの同士を並べるだけで、強い意味や物語を生み出す」心理テクニックです。
- マーケティングや広告で商品価値を高める
- ブランドに独自のストーリーやイメージを付与する
- 個人の第一印象やコミュニケーション力を劇的に変える
こうした使い方ができる一方、「受け手がどう感じるか」に最大限の注意を払う必要があります。
今日から、ぜひクレショフ効果を取り入れてみてください。印象は「偶然」ではなく、「デザイン」できるのです。

