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7/23(水)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/07/22
「成功した起業家のマネをすれば、自分も同じように成功できるはず」
誰しも一度は、そんな思いを抱いたことがあるのではないでしょうか?しかし、数多くのビジネスパーソンが実践している「成功事例から学ぶ」という手法には、意外な落とし穴が潜んでいます。その正体こそが「生存者バイアス」です。
一見正しく思える判断が、なぜ危険なのか?そして、仕事や人生で「生存者バイアス」に陥らないためにはどうすれば良いのか?
本記事では、具体例をもとに、ビジネスマンが知っておくべき、「認知バイアス」の1つである「生存者バイアス」について、解説いたします。
まず、「認知バイアス」とは何かをご存じでしょうか。
認知バイアスとは、私たち人間の脳が情報を効率的に処理する一方で、現実を正しく認識できない思い込みや錯覚に陥る現象のことです。膨大な情報を瞬時に取捨選択するための便利なショートカットである反面、時に合理性を欠いた結論や誤った判断を招く原因にもなります。
このような思考も、知らず知らずのうちに認知バイアスによって生じています。
このバイアスが働くと、私たちは
と無意識に判断しがちです。
しかし、実際には表に出てこない失敗例こそが、成功の裏に隠れた重要なヒントとなる場合が多いのです。
有名な生存者バイアスの事例に、第二次世界大戦中の航空機の話があります。
戦闘から帰還した航空機の損傷箇所を集計すると、特定部分に被弾跡が多いことが明らかになりました。多くのエンジニアは「被弾の多い箇所を重点的に補強しよう」と主張しました。
しかし、統計学者アブラハム・ウォールドは、全く逆の結論を導きました。
「帰還できた機体が被弾した場所は、撃たれても帰ってくることができた耐えられる場所だ。本当に補強すべきは、帰還できなかった機体が被弾した=データに現れていない箇所である」
つまり、「生還した戦闘機」のデータだけを見て補強箇所を決めるのは、生存者バイアスに陥った典型例なのです。
もう一つ、事例をご紹介します。
猫高所落下症候群(フライングキャットシンドローム)と呼ばれる、猫が高所から突然飛び降りてしまう病態があります。
ニューヨークの動物病院で、高層階から落ちた猫の生存率を調べたところ、なんと90%近くの猫が命を取り留めていたというデータが話題となりました。さらに、「6階以上から落ちた猫のほうが、怪我が軽い」という不思議な結果も報告されました。
この現象は「猫は高いところから落ちても無事」という都市伝説の根拠として流布されました。そして「猫は5階分の高さで終端速度(落下する際にこれ以上速くならない速度)に達し、体勢を立て直すことで怪我が軽くなる」と推測されました。ですが、ここにも生存者バイアスが潜んでいます。
「落下して死亡した猫は飼い主が病院に連れてこないため、統計に含まれていない。
よって、生きて病院に運ばれた猫だけを分析した結果、『高層から落ちた猫ほど無事』という誤った結論が導かれた」
見えていない「脱落例」があることを忘れた分析は、現実を大きく歪めてしまうのです。
ビジネスパーソンにとって身近な生存者バイアスの例が、「成功者の仕事術」「ヒット商品の裏話」「キャリアアップ事例」などを鵜呑みにしてしまうことです。
たとえば……
このような思考に、あなたも心当たりがあるのではないでしょうか?
しかし、実際には、
はほとんど語られることがありません。
成功事例だけを分析し、「これが正解だ」と思い込むことが、生存者バイアスの最たる例なのです。
成功事例は、圧倒的に魅力的です。
こうした心理は、モチベーションアップや行動の指針として一定のメリットを持ちます。
一方で、
という事実を見落としがちです。
成功者の声が拡散されやすい現代社会では、誰もが無意識のうちに生存者バイアスの罠に引き寄せられてしまうのです。
こういった視点で、意図的に負け組のケースやネガティブなデータにも目を向けることが重要です。
たとえば、ベンチャー企業の成功者インタビューを読むだけでなく、失敗したスタートアップの創業者や、撤退したプロジェクトの反省などにも耳を傾けましょう。
自分の経験や所属する組織の論理だけに頼らず、社外の専門家や異業種の知見、立場の異なる同僚の意見など、できるだけ多様な視点を取り入れることが有効です。
こうした複眼的な思考が、生存者バイアスだけでなく、その他の認知バイアスにも強くなれるコツです。
最後に最も大切なのは、
「自分だけは大丈夫」という思い込みこそが、最大のバイアスである
と自覚することです。
「人間は必ずバイアスに影響される」と認識したうえで、常に自分の判断を疑う姿勢が、最も強力なバイアス対策になります。
ビジネスの現場では、成功事例に学ぶことも大切ですが、「失敗の原因」「脱落した事例」「語られないもう一つの現実」に目を向けることで、従来の常識を疑い、本質的な成長と成果につなげることができます。
「生存者バイアス」を自覚し、回避できるビジネスパーソンこそ、変化の激しい時代を生き抜く“真の勝者”になれるのです。