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9/30(火)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/09/25
「贅沢な甘さ、種なし、皮ごと食べられる」。今やスーパーマーケットや百貨店の果物コーナーを賑わせ、贈答用フルーツとしても選ばれるシャインマスカット。ですが、皆様はシャインマスカットが、実は日本で生まれ、30年以上の年月と数えきれない試行錯誤の末に誕生したことをご存じでしょうか?
その開発の裏には、研究者たちの情熱と、想像を超える苦労がありました。また、近年ではその人気の裏で流通や知的財産保護といった新たな課題も浮上しています。本記事では、シャインマスカット誕生から、ブームの裏で起こっている流通問題まで解説いたします。
シャインマスカットの誕生は、1988年、農林水産省果樹試験場安芸津支場(現:農研機構 果樹茶業研究部門)にまで遡ります。日本の気候は湿度が高く、従来のヨーロッパ系ブドウは病害虫に弱く栽培が困難でした。ですが、「日本人の舌に合い、育てやすいブドウを作りたい」という強い想いから、欧米の良さを兼ね備えたブドウづくりが始まったのです。
現場の研究者は「新品種が生まれるのは宝くじで一等を当てるより難しい」と語ります。実際、交配から選抜、栽培試験、味や耐病性の評価……。気の遠くなるような工程を20年以上かけて繰り返し、ようやく理想にたどり着きました。
その要となったのが、「安芸津21号」と「白南」という2つの親品種です。
この2品種の交配から生まれた実生を、さらに選抜していくことで、「高糖度」「種なし」「皮ごと食べられる」「栽培しやすい」といった理想的なブドウが誕生しました。その名も“シャインマスカット”——、2006年、ついに品種登録され、世に送り出されました。
シャインマスカットは山梨・長野・岡山・山形が主な産地です。なかでも山梨県は国内生産量の約4割を占めています。昼夜の寒暖差や日照条件が、より甘く美味しい果実を育てます。
通販でも購入できますが、ブランドや産地の明記があるものを選ぶと安心です。
シャインマスカット人気の高まりとともに、国内外で流通にまつわる課題も噴出しています。
国内外での需要急増により、生産が追いつかない状況が続いています。特にハウス栽培はコストが高く、希少性もあいまって高値が続いています。スーパーの売上高でもシャインマスカットの比率は年々上昇し、2023年にはブドウ全体の6割以上を占めるまでになりました。
最も深刻な課題が「種苗流出」です。開発者の農研機構が2006年に国内で品種登録したものの、海外での品種登録は見送られたため、中国や韓国で無断栽培・流通が拡大。2020年時点で中国の栽培面積は日本の30倍に達し、現地で「香印翡翠」や「香印晴王」といった名で出回っています。
「逆輸入」の事例も発生しており、東京税関で差し止められた実例もあります。農林水産省は、毎年100億円規模の損失が生じていると試算しています。
種苗法改正により、無断持ち出しや自家増殖の制限が強化されましたが、依然として完全な防止には至っていません。
シャインマスカットの流通課題は、日本の農産物全体が抱える「知的財産保護」の縮図ともいえます。今後、国際競争が激化していく中で、次のような取り組みが不可欠です。
シャインマスカットは、数十年にわたる研究者の情熱と、日本の気候・食文化への飽くなき挑戦から生まれた奇跡の品種です。そのおいしさと栽培のしやすさで、今や国内外で愛される存在となりました。
しかし、一方で知財流出や過熱する需要に生産が追いつかないといった課題も浮き彫りになっています。これらの問題を乗り越えるには、“本物”を守るための仕組みづくりと、消費者・生産者・行政が一体となった取り組みが求められます。