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2025

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    「仕事に家庭を持ち込むな」はもう古い。丹青社が実践する「新しい公私混同」が、人的資本経営の答えかもしれない

    「仕事に家庭を持ち込むな」はもう古い。丹青社が実践する「新しい公私混同」が、人的資本経営の答えかもしれない

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    なぜ丹青社は「会社に子ども」を連れてくるのか? 「新しい公私混同」が育む、人的資本経営の最前線

    店舗や博物館、イベント空間づくりで業界をリードする丹青社が、2025年夏、一つのユニークな社内イベントを開催した。その名も「TANSEI KIDS DAYS 2025」。「のぞいてみよう。家族の仕事を。」をテーマに掲げた親子参加型のイベントだ。

    イベントでは、仕事体験ワークショップやオフィスツアー、同社が開発したソリューションに触れる体験コンテンツなどが用意され、本社および関西支店での開催3日間で100組を超える家族が参加し、大盛況に終わったという。

    一見すると、社員向けの福利厚生の一環に見えるこの取り組み。しかし、その裏側には、単なるエンゲージメント向上にとどまらない、企業の持続的成長を見据えた緻密な戦略が隠されていた。

    なぜ今、“個”の課題意識から生まれた企画が、経営において重要視されるのか。企画を率いた人事企画課の内田芳嗣氏、志村泰典氏、秋山奈美氏の話から、その本質を探る。 記事内画像 内田 芳嗣(うちだ よしつぐ) (右) 広告代理店、メーカー広報宣伝、地域産業振興アドバイザーを経て、2013年より丹青社。指定管理施設運営、新入社員教育や社内報制作などを歴任。

    志村 泰典(しむら やすのり) (左) 丹青社に新卒入社。文化施設の開発、新規事業開発を経て、人事に異動。以後採用・組織開発を担当。

    秋山 奈美(あきやま なみ) (中央) 丹青社に中途入社。人事部にて教育・研修分野を担当。キャリアコンサルタント資格を取得し、社内キャリア支援にも力を入れている。

    きっかけは、組織からではなく“個”の課題意識

    「TANSEI KIDS DAYS 2025」では、人事企画課が中心となり、社員によるさまざまなワークショップや縁日などを企画。多くの子どもたちが家族とともに、盛りだくさんのプログラムに参加した。 記事内画像 記事内画像 驚くべきことに、この企画は経営層からのトップダウンではなく、社員個人の課題意識から始まったという。発起人の一人である志村氏は、その経緯をこう語る。

    「コロナ禍を経て働き方が変わるなか、あらためて『社員の仕事を家族に知ってもらう機会』が必要だと感じたのがきっかけです。小学生になった子どもに、これまであまり自分の仕事や会社のことを伝えられていないな、と」 記事内画像 組織としての課題解決ではなく、「そこで働く個人」の切実な想いが起点だったのだ。同じく人事企画課の秋山氏も、自身の経験から志村氏の想いに強く共感したという。

    「私自身も子育てをする中で、キャリアコンサルタントとして子どもに対するキャリア支援に取り組みたいという意識が芽生えていました。志村の想いに強く共感し、社員にとっても仕事のやりがいを再発見する機会にしたいと考え、新たなイベントプロジェクトが始動しました」 記事内画像 社員とその家族を対象にした取り組みは「究極のインナーブランディング」とも言える。社員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高め、ひいては企業価値向上につなげる重要な経営戦略だ。コロナ禍を経て、従来の「ファミリーデー」から「KIDS DAYS」へと名称を変更したのも、次世代育成やキャリア教育という目的を明確に打ち出す狙いがあった。

    内田氏もまた、この取り組みの意義を強調する。

    「コロナ禍で家族との時間が増える一方、会社と家族の距離は拡がったとも感じていて。(私自身は子育てを終えていますが)子育てと仕事の両立に励む社員へ何かできることはないかと考えました。親が普段どんな表情でどんな人と仕事をしているのか。それを子どもが見ることは、非常に意義があると思っています」 記事内画像 また、このタイミングでの開催には、同社が多数のパビリオンで内装プロジェクトなどを担う大阪・関西万博の存在も大きかった。万博という社会的な一大イベントは、社員が自らの仕事に誇りを持ち、最も身近な存在である家族に自社について語る、またとない機会だったと言えるだろう。

    個の「共感」が、組織を動かす。トップダウンでは生み出せない"自分ごと化"の連鎖

    とはいえ、このような大規模なイベントの実現には、多くの社員の協力が不可欠だ。関係者をいかにして巻き込んでいったのか。その工夫について、内田氏は「個の共感」が何よりも大事だと語る。

    「こういったイベントを始めるにあたって、例えば経営層からトップダウンだけで伝える形だと、どうしても熱量に差が出てしまう。ビジョンを語るだけでは届かない、現場レベルでの『自分ごと化』を促すには、担当レベルに直接訴えて共感を生むことを忘れないことがきわめて重要ではないでしょうか」

    志村氏も、熱量を生み出すための地道なコミュニケーションの重要性を指摘する。

    「社内施策に必要な熱量を生むには、普段から密なコミュニケーションをとり続けることです。ただお願いするのではなく、なぜこのイベントに取り組む必要があるのか、どんな効果があるのかをしっかり伝えることで、モチベーションを引き出すよう心がけました」

    イベントの主役である子どもたちへのコミュニケーションにも、同社ならではの工夫が凝らされたという。

    「例えば『プランナー = アイデアを考えてまとめる人』『演出技術 = いろんな技術で空間に魔法をかける人』といったように、仕事の本質とわかりやすさを両立できる言葉を選びました。これは考え方として、普段大人に対して説明をするときにも必要だと、あらためて気付かされました」と内田氏は言う。

    専門的な内容を、背景知識のない相手にいかに伝えるか。これは、多様なクライアントと協業する同社にとって不可欠なスキルだ。イベントの準備を通じて、社員が自らの仕事の本質を再定義し、伝える力をあらためて磨く機会にもなったようだ。 記事内画像

    ▲8つの職種カードで、社内で共有している職種を子どもたちに分かりやすく説明した

    「新しい公私混同」と、数値化できない企業文化への波及効果

    イベントを終え、企画メンバーはそれぞれ確かな手応えを感じている。

    志村氏は、「普段の業務から一歩離れ、仲間の仕事や家族のことを知り、同じ体験を共有できたのは非常に有意義でした。参加者からも、仕事の中にプライベートを持ち込む機会が刺激になる、という声が聞かれ、確かなニーズを感じました」と振り返る。

    こうした部門を超えたコミュニケーションは、組織のサイロ化を防ぎ、心理的安全性を高める効果が期待できる。それは、偶発的なアイデアやイノベーション、さらにはセレンディピティが生まれる土壌そのものだ。

    内田氏はこの状態を、興味深い言葉で表現する。

    「いわば『新しいかたちの公私混同』ですね。かつては『仕事に家庭を持ち込むな』が一般的でしたが、両者は確実に繋がっている。それを意識することは、双方にとって良い影響があると思います」

    この言葉を受け、秋山氏も続ける。

    「父親や母親としての『自分』は、仕事をする『自分』の延長線上にあります。公私を切り離す必要はなく、自然体でいることが仕事に活きる状態を作っていけたらと思います」 記事内画像 「KIDS DAYS」は、単なる一過性のイベントではない。それは、社員とその家族、ひいては社会との新しい関係を築き、“働きがい”と“企業の成長”を両立させるための、同社にとって重要な試金石なのである。三人は、すでに来年以降の展望を見据えている。

    「このイベントが“ハレ”なら、“ケ”である普段の業務でも子どもが近くにいる状態で働ける環境づくりに挑戦したい。学校に赴いて私たちの仕事を紹介する機会も増やしたいですね」(内田氏)

    「人材採用という面では、大学生向けだけでは遅いのかもしれません。子どものうちから自分たちの仕事や業界について知ってもらう機会を増やしていくことは、未来への投資だと考えています」(志村氏)

    「こうした取り組みが、社会全体に広がってほしい。そのためにも、社員一人ひとりが『この会社で働いていてよかった』と思えるような施策を重ねていきたいです」(秋山氏)

    個人の純粋な想いから始まった熱が、組織を動かし、企業文化を醸成し、やがて社会へと価値を還元していく。丹青社の挑戦は、数字だけでは測れない無形資産こそが企業の競争力を左右する時代における、人的資本経営の新しい可能性を示している。 記事内画像

    丹青社について

    • 【本社所在地】 〒108-8220 東京都港区港南1丁目2番70号 品川シーズンテラス19F
    • 【創業】 1946年10月
    • 【資本金】 40億2,675万657円
    • 【事業内容】 総合ディスプレイ業〔商業空間・ホスピタリティ空間・パブリック空間・イベント空間・ビジネス空間・文化空間の調査・企画、デザイン・設計、制作・施工、運営〕
    • 【従業員数】 1,484名(連結)/1,113名(単体)
    • 【上場】 東京証券取引所プライム市場(証券コード:9743 業種名:サービス業)
    • 【売上高】 918億58百万円(連結)/887億93百万円(単体)
      ※数字は2025年1月末時点
    #丹青社#空間デザイン#ディスプレイ業界#社員・文化紹介#社員・文化

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