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「全権」を条件に、再建の道へ
ビジョナリー編集部 2025/09/17
低侵襲医療機器の普及を促進し、心臓カテーテルで国内トップシェアのウイン・パートナーズ株式会社(本社:東京都中央区)。その歩みには、倒産寸前だった会社を全権と共に引き受けた代表取締役社長・秋沢英海氏の存在がある。その独自の経営観について伺った。
「全権」を条件に、再建の道へ
秋沢社長は倒産寸前の貴社の経営権を引き受けたと伺いました。その経緯についてお聞かせください。
もともとこの会社は源流を1980年代に遡る歴史ある会社でしたが、私が関わりをもつようになった当時、経営が立ち行かなくなっていました。そんな折、知人である循環器の医師から「この会社をなんとか応援できないか」と、繰り返し連絡をいただきました。
最初は社外から仕事を回すなどして支援していましたが、根本的な解決には至りませんでした。私は直接的に関わることを決意し、その際に提示した条件は「 全権を任せてほしい 」という一点でした。中途半端な立場では、抜本的な改革は絶対に不可能だと考えたからです。株式もすべて買い取り、全責任を負う覚悟でこの会社へ移りました。
当時の事業は、心臓カテーテル技術、リハビリ機器の全国代理店、そして海外からの手術器具輸入の3本柱でした。しかし、十数名の会社で、故障の多いリハビリ機器の修理に全国を飛び回るのは非現実的。輸入器具も、お世辞にも医療現場で使える品質ではありませんでした。
そこで、これら2つの事業から撤退することを決断。多少のトラブルはありましたが、当時まだ黎明期だった心臓カテーテルの分野に 経営資源を集中させることから、再建をスタート しました。
利益はリスクの裏返し。「儲けすぎず、少なすぎず」の信念
貴社は、「医療は儲けすぎてはいけない」「汗をかいた分だけ頂く」など、適正価格で医療機関に機器が納入されるよう意識されています。このようなお考えを持たれ、実施されるに至った背景をお聞かせください。
私は「利益を取りすぎてはいけないし、少なすぎてもいけない」と常に話しています。ビジネスはバランスが重要で、どちらか一方に利益が偏れば、持続的な関係は築けません。
利益とは、リスクの裏返し です。製品開発から製造までを担うメーカーが最も大きなリスクを負い、次に設備投資をして医療を提供する病院がリスクを負う。私たちのリスク量は、その両者と比べれば少ない。だからこそ、私たちは自らのリスクに見合った「適正な利益」をいただくのが妥当だと考えています。
利益が少なすぎれば、社員は「自分は生産性のない人間だ」と感じてしまい、正当な評価も受けられません。それは会社としてもあってはなりません。だからこそ、社員には「適正な利益をいただけるよう努力しよう」と伝えています。
逆に、メーカーが独占的立場を利用して過剰な価格を設定すれば、そんな商売は長続きしません。私たちは常に、メーカー、病院、そして私たち自身が、三方よしのバランスを保てるよう努めています。それが、ビジネスの永続性を担保すると考えているからです。
取引停止の危機を救った「人の縁」
倒産の危機に瀕した会社を立て直すという難所を乗り越えることができたのは、何が要因だったとお考えですか。
倒産寸前の会社を立て直す過程で、数えきれないほどの課題がありました。それを乗り越えられた要因は、「 人の縁 」だと考えています。
この会社に入社して間もなくのことでしたが、知り合いのメーカーの部長がやってきて、「実は取引停止を言い渡しに来た」と打ち明けられました。私は彼を説得し、全権を託されて再建に取り組む覚悟を伝えました。彼は私の本気度を汲んでくれ、「半年だけ様子を見る」と社内を調整してくれたのです。
また、ある病院の事務長は、私があるメーカーからX線装置の販売を断られたと知るや否や、「俺が保証人になるから売れ」と、メーカーの目の前で個人保証の判を押してくれました。
なぜ、彼らがそこまでしてくれたのか。それは、前職時代からの私の仕事ぶりを知ってくれていたからだと思います。私は昔から、お客様にいかに「ありがとう」と言っていただけるかを考えて仕事をしてきました。お客様の立場に立つというのは簡単なことではありませんが、 「お客さんがやりたいことの半歩先」のことをきちんと準備しておく 。その地道な努力の積み重ねが信頼となり、本当に困った時に、助けてくれる人の輪に繋がったのだと思います。
「正しいことを正しくやる」。未来の仲間へ伝えたいこと
医療産業に関わる方々には、高い使命感や倫理観が求められると考えられています。ご自身や社員の皆さんに、仕事に対する取り組み方や姿勢について、どのように伝えられていますか。
私は社員に、「仕事のプロセス」の重要性を口うるさく説いています。売上や利益というアウトプットは当然重要ですが、そこに至るプロセスが間違っていれば、正しい結果は生まれません。
そして、そのプロセスの根幹にあるのが、「 正しいことを正しくやる 」という姿勢です。お金や利益だけを判断基準にすると、いつしかグレーゾーンに足を踏み入れ、気づけばブラックゾーンにまで行ってしまう。しかし、常に正しい道を歩むというスタンスでいれば、道を踏み外すことはありません。どんなに儲かる話でも、それが少しでもグレーであれば、私たちは「すべてノー」です。
また就職活動中の学生さんとお会いする機会もありますが、その際「楽だけの人生はないし、辛いことがなければ人間は成長しない」ということも話しています。たくさんの会社を見て、自分なりの「物差し」をしっかり持った上で、私たちの考え方に共感してくれるなら、ぜひ一緒に働きたいと伝えています。
物流の進化と事業領域の拡大。次の10年を見据えて
高齢化が急速に進む中で、今後の事業目標や展望についてはどのような構想をお持ちでしょうか。今後のビジョンについて教えてください。
私たちは今、次のステージに進もうとしています。昨年11月に羽田に開設した物流拠点、WIN Heart Gateでは、全製品にICタグを貼付し、在庫管理に活用しています。今後はこれを、病院の保険請求漏れを防ぐために二次利用していただく計画を進めています。これにより、病院は収益を確保でき、私たちは顧客との関係をより強固にできます。
また、今後は不整脈治療などの成長市場へ、人・モノ・金を積極的に投下していきます。新たなビジネスも構想中です。病院の経営がますます厳しくなるであろうこれからの時代に、 私たちに何ができるのかを常に自問自答し続けなければなりません。
学生時代、恩師からもらった「最後までやり抜け」という言葉は今も礎になっています。これからも医療の世界で私たちにできることを追求し続けていきます。