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地域通貨の進化と可能性―成功事例に学ぶ未来のまちづくり
ビジョナリー編集部 2025/10/31
現在、デジタル技術の進化とともに地域通貨がブームを迎え、地域経済やコミュニティの在り方に変化をもたらしています。
本記事では、地域通貨の仕組みやメリットを解説しつつ、注目される事例を通じて、地域通貨の可能性に迫ります。
※ 記事内の情報は2025年10月時点のものです。
地域通貨とは何か?
地域通貨は、特定の地域やコミュニティだけで流通する通貨です。
日本円や米ドルのように全国どこでも使える「法定通貨」とは異なり、利用できる範囲が限定されているのが特徴です。
- 発行主体:地方自治体、信用組合、商工会議所、NPO、企業など様々
- 利用範囲:特定の市町村や商店街、または加盟店内に限定
- 交換性:日本円との交換が可能な場合もあれば、完全に独立したものもある
なぜ地域通貨が登場したのか
地域通貨の目的は、地域内でお金が循環する仕組みを作り出すことです。
たとえば、通常の電子マネーや現金は外部にも流れやすく、地方ほど地元商店街や地域産業にお金がとどまりにくい傾向があります。そのため、地域内でしか使えない通貨を発行することで、地元消費を促し、地域経済の活性化を目指しているのです。
地域通貨のデジタル化がもたらした変化
地域通貨自体は1990年代後半から2000年代初頭にかけて日本各地で導入が進みました。しかし、紙媒体による管理コストや偽造リスク、普及の難しさなどから、多くの事例が継続できませんでした。
ところが最近、デジタル技術の進化が地域通貨を大きく変えています。
- スマートフォンアプリによる決済・送金
- ブロックチェーンなどの技術による安全性向上・コスト削減
- 加盟店・ユーザーの利便性向上
これにより、以前よりもはるかに低コストかつ迅速に運用できるようになり、地域住民や事業者にも受け入れられやすくなったのです。
地域通貨の主なメリット
地域経済の活性化
- お金が地域内で循環する
→ 地元商店やサービス業の売上増加につながる - 地域外流出の抑制
→ 外部への資金流出を防ぐ
コミュニティの結束・活性化
- 住民同士のつながり強化
→ 地域イベントへの参加促進 - 地域独自のサービスやポイントで住民の参加意欲向上
行政・公共サービスの効率化
- 行政手続きや納税のキャッシュレス対応
- 健康増進や防災情報配信など、アプリを活用したサービス展開
データ活用による新たな価値創出
- 利用データの分析による住民ニーズの把握
- 地域課題の見える化と解決策の立案
【事例1】岐阜・飛騨の「さるぼぼコイン」
「さるぼぼコイン」は、岐阜県飛騨市・高山市・白川村で使えるデジタル地域通貨です。飛騨信用組合が2017年にサービスを開始し、今や2,000店舗を超える加盟店と3万人を超える利用者を抱えるまでに成長しています。
なぜ「さるぼぼコイン」は広がったのか?
- 地元金融機関が中心となり、住民や事業者に丁寧に説明・サポート
- アプリを使った簡単な決済と送金機能
- チャージ時のプレミアムポイント付与や行政サービスとの連携
- 自治体の税金納付・窓口手数料支払いにも対応
さらに、決済機能にとどまらず、「ヒダスケ!」という関係人口創出プロジェクト、ふるさと納税の返礼品、クマの出没や災害情報の発信など、地域への関わりやコミュニケーションツールとしても活用されています。
利用者層は若者だけでなく高齢者にも広がっています。地元信用組合が店舗や家庭を回り、使い方を丁寧に説明することで、「キャッシュレスは難しそう」という不安を払拭しました。
地域ぐるみの経済循環を実現
- 地元企業・行政・金融機関が一体となり、導入費用や運用コストを抑制
- 地元商店へのインセンティブ(導入費・月額利用料無料)
- プレミアムキャンペーンなどで消費喚起
行政・金融機関・商工会議所の連携が、地域経済の活性化・持続的な運用の鍵となっています。
【事例2】千葉・木更津「アクアコイン」
「アクアコイン」は、木更津市・君津信用組合・木更津商工会議所が連携して運営するデジタル地域通貨です。2018年のスタート以来、800店舗超が加盟し、利用者は3万5,000人以上に拡大しています。
アクアコインの特徴
- 信用組合口座と連携し高額決済や公共料金支払いにも対応
- ATMやチャージ機で簡単にチャージ可能
地域課題の解決を目指した多様な機能
- 高齢者への配慮
ICリストバンド型の決済実証実験を実施し、スマホが苦手な方でも使いやすい工夫を導入 - 加盟店同士のBtoB決済
アクアコインによる仕入れや業者間の支払いができ、地域内でのお金の循環がさらに強化 - 「1% for Children」など住民主体のまちづくり施策
加盟店の売上の一部を学校給食の地産地消化などに寄付し、地域の子どもたちの健康や教育支援につなげています - 歩数連動の健康ポイント機能「らづFit」
日々の健康増進もデジタル地域通貨で促進
市民参画によるまちづくり
アクアコインは、「運営側が頑張るだけでは地域通貨は盛り上がらない。市民の主体性が重要」という考えのもと、PTA会費の電子化など住民発のアイデアを積極的に採用しています。その結果、地域コミュニティの結束や健康増進、環境保全といった副次的なメリットも広がっています。
【事例3】東京・板橋区「いたばしPay」
2022年にスタートした「いたばしPay」は、東京都板橋区が運営するデジタル地域通貨です。
2024年7月には流通総額が100億円を突破、加盟店1,500超、ユーザー数13万人以上と、首都圏の自治体モデルとしても大きな存在感を放っています。
利用者・加盟店双方にメリット
- スマホアプリで簡単決済・チャージ
コンビニATMとも連携し、区内外どこでもチャージが可能 - 導入初期の大幅ポイント還元キャンペーンで一気に普及
- 加盟店への導入サポート(ポスター・QRコード配布など)でハードルを低減
行政サービスとの連携・健康増進施策
- 「いたPay健幸ポイント」
ウォーキング等の健康活動と連動し、ポイント付与で健康意識を啓発 - 地域情報発信メディア「いたPayさんぽ」
地域の魅力や店舗情報を発信し、利用者増加・加盟店拡大につなげています
地域経済の活性化・新たな「住民エンゲージメント」へ
いたばしPayの普及により、区民と事業者の絆が深まり、物価高などに苦しむ地元事業者の支援にも貢献しています。
地域通貨を導入・運用するうえでの成功のポイント
加盟店・利用者への徹底したサポート
- 機器操作やアプリ利用方法を丁寧に説明
- 加盟店の初期費用・手数料の低減
- 利用者向けキャンペーンで普及を後押し
誰でも使いやすい仕組み作り
- スマホが苦手な方へのサポート
- チャージ場所や決済方法の多様化
行政・金融機関・商工会議所など、地域ぐるみの推進体制
- 官民連携による運営コスト削減
- 地域課題に即した独自のサービス設計
利用データの活用による新たな価値創出
- 消費動向や住民ニーズの「見える化」
- 地域イベントや行政施策へのフィードバック
まとめ
デジタル地域通貨は単なる決済ツールを超え、地域経済の活性化、コミュニティの結束、行政サービスの効率化、住民の健康増進など、さまざまな可能性を秘めています。
地域通貨導入は決して簡単な道のりではありませんが、地域ぐるみの連携と新しいテクノロジーの活用、住民主体のアイデアがあれば、地域の未来を大きく変える力となります。
地域通貨の輪が、あなたの街にも広がる日が近いかもしれません。


