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2025

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    世界的ストーリーテラーとの対話が教えてくれた「Being Natural」の哲学

    世界的ストーリーテラーとの対話が教えてくれた「Being Natural」の哲学

    角川書店から出版した小説『パストラル』は、単行本と文庫を合わせて数十万部を売ることができましたが、私自身は「小説家の才能がない」と悟りました。なぜなら、私の作品はどうしても自分の経験の域を超えられず、どうしても「自分の世界」の枠から出られないからです。

    この問題について、世界的作家のジェフリー・アーチャーと深く話し合ったことがあります。私が彼に「あなたは世界的なライターだ」と言うと、彼はこう反論しました。

    「違う。私のことはライターとは呼ばないでくれ。私はストーリーテラーだ」

    ライターとストーリーテラーの違いは何なのか。彼は言いました。「ライターというのは美しい文章を書く人だ。しかし、ストーリーテラーというのは、読者が読み始めたら止まらなくなり、次から次へとページをめくりたいと思わせる人だ。私はそれなんだ」と。彼は美文を書くことよりも、ストーリーそのものの面白さに重きを置いていました。それを聞いた時、「ああ、俺もそれだな」と、自分のスタイルに合点がいったものです。

    では、ライターであり、なおかつストーリーテラーである歴史上の人物は誰かと問うと、彼は迷わずチャールズ・ディケンズの名前を挙げました。『クリスマス・キャロル』や『二都物語』を書いたディケンズが、もし現代に生きていたら、映画の脚本も、ミュージカルも書くだろう、それほどの才能があったと。

    ディケンズには、非常に面白いエピソードがあります。当時、彼は週刊連載をしていたのですが、ある日、散歩中に熱心な読者のおばあさんに呼び止められ、「この先、ストーリーはどうなるんですか?」と尋ねられました。その時のディケンズの答えが、ストーリーテラーの真髄を表しています。

    「マダム、I haven't written it yet.(私はまだ書いていないんですよ)」

    つまり、彼自身も物語の展開を完全に把握しているわけではなく、その時の気分や流れでストーリーが変わっていくというのです。

    私がジェフリーに、「君は1ページ目を書いている時に、エンディングがどうなるか自分で分かっているのか」と尋ねると、彼は「大体は分かっているが、その途中がどうなるかは、書き始めてみないと分からない」と答えました。同じ質問を『ジャッカルの日』や『オデッサ・ファイル』で有名な作家フレデリック・フォーサイスにしたところ、答えは全く逆でした。「私は起承転結すべてわかっている。書く前にエンディングはもちろん分かっているし、途中もどうなるかも分かっている」と。どちらのスタイルも面白いのですが、大体アバウトな私には、ジェフリーのスタイルのほうが性に合っていると感じました。

    そんなジェフリー・アーチャーやリチャード・ブランソン、マーガレット・サッチャーのような世界的なVIPと、長期間にわたって親密な関係が続いているのはなぜかと、私自身も考えたことがあります。そして行き着いた答えは、「Being Natural(素であること)」。これに尽きます。

    相手がVIPや大富豪、超有名人だと、多くの人はつい構えてしまうでしょう。しかし、私の場合は誰とでも態度が全く同じなのです。あなた(聞き手)とこうして話している態度と、ジェフリーと話している態度に違いはありません。そうすると、彼らは気に入ってくれる。リチャード・ブランソンも全く同じです。サッチャーに至っては、まるで親戚のおばさんと話しているような感覚で、「じゃあ一緒に飲みましょう」となるのです。

    マーガレット・サッチャーの代理人を私が10年間も日本で任されることになったのも、元をたどればジェフリー・アーチャーが発端でした。彼を日本に招いて講演会を開いた後、ホテルで食事をしていると、テレビでサッチャーが辞任したというニュースが流れました。すると、すかさず私はジェフリーに言いました。「彼女は日本で人気があるので、ぜひ日本にご招待したい」と言い出したのです。

    ジェフリーは元々保守党の副幹事長まで務めた政治家で、サッチャーと親交がありましたが、スキャンダルで失脚し、自己破産に追い込まれました。その100万ドルを取り返すという実体験を元に書いたのが第1作目の小説『百万ドルをとり返せ!』で、これが世界的ベストセラーとなり、彼は本当に100万ドルを取り返したという、小説のような話の主人公です。

    私はジェフリーに言いました。「あの時、あなたが騙されて全財産を失っていなければ、我われはあなたの面白い小説を読むことはなかった。あれは運命だった」と。彼は「その通りだ」と答えました。そして、「人間というのは、自分が気づいていない才能が眠っているかもしれない。それが本当は最大の天職かもしれない」と語ってくれました。

    そのジェフリーとの最初の出会いは、私がテレビ東京で企画・司会をすべて担当していた『ハローVIP!』という番組のゲストとしてオファーを出したことです。BBDOを通じて、アメリカ、イギリス、フランスの社長に頼み込み、ノーギャラでリストを送って次々とアポイントを取り付けました。これはテレビ局にはできないやり方です。アポ取りから質問事項の作成、インタビュー、そして帰国後のビデオテープを見ながらの字幕原稿作成まで、私がすべてを担いました。インタビューをした私が内容を一番よく理解しているからこそ、すべてを担当するべきだと考えたのです。

    #植山周一郎#ソニー#経営コンサルタント#コンサル#交渉人#代理人#ブランディング#マーケティング

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