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韓国「犬肉禁止法」2027年全面施行へ——食文化の終焉と日本社会への波紋
ビジョナリー編集部 2026/07/24
「伝統の味」か、それとも「動物福祉の欠如」か。
長年続いてきた韓国の犬肉食文化が、大きな転換点を迎えています。2024年初頭、「犬の食用目的の飼育屠殺及び流通等の終息に関する特別法」が成立し、3年後の2027年から全面施行されることが決まりました。違反した場合には、3年以下の懲役や最大3,000万ウォン(約300万円)の罰金という重い制裁が科されることになります。
この法律の特徴は、供給側の徹底的な規制に焦点を当てている点です。繁殖や飼育だけでなく、屠殺、流通、調理・販売までを網羅的に禁止しています。興味深いのは、「食べる行為」そのものには直接的な罰則が設けられていないこと。つまり、消費者を取り締まるのではなく、供給網を断つことで自然と犬肉食を社会から消失させていく狙いです。
【歴史と背景】韓国における犬肉文化の移り変わり
韓国における犬肉食の歴史は非常に長いものです。朝鮮王朝時代の料理書にも「狗肉の腸詰」や「狗肉の汁」といったメニューが記載されており、古くから貴重なたんぱく源として人々に親しまれてきました。「補身湯(ポシンタン)」という滋養料理は、特に夏の暑い時期——いわゆる「三伏(サムボク)」の期間に、体力増強のため食されてきた伝統があります。
ところが、時代は大きく変わりました。経済成長や食生活の多様化、そして何よりペットブームの到来が、犬の存在価値を根本から変えたのです。かつては「家畜」として見られていた犬が、今や「家族」としての地位を獲得。韓国語でも「愛玩動物」から「伴侶動物」へと表現が変化しています。
世代間の意識差も顕著です。高齢層には犬肉に親しんできた人が多いものの、若い世代では口にする人が激減しています。ある世論調査では、8割以上が「過去1年、犬肉を食べていない」と回答。今や犬肉料理店は年々減少し、「補身湯」の看板を下ろす店も珍しくありません。
こうした意識の変化には、動物福祉への関心の高まりや、国際社会の視線も大きく影響しました。とりわけ、前大統領夫人の金建希氏がSNSで愛犬との姿を発信し、大統領公約として「犬肉禁止」を掲げたことも、世論を後押しした要因といえるでしょう。また、欧米メディアの報道や国際的なイメージ向上への意識も、政策転換の大きな背景となっています。
【課題と懸念】なぜ一筋縄ではいかないのか?残された3つの問題
法律の成立は韓国社会に大きなインパクトを与えましたが、現場ではいくつもの課題が浮かび上がっています。
まず、養犬業者や犬肉料理店の補償・転廃業の問題があります。突然の法改正は、これまで生計の柱としてきた人々にとって死活問題です。政府は廃業に同意した業者に対し、1頭あたり2万5,000円から6万6,000円程度の補償金を支給し、総額110億円規模の補助金も用意しました。しかし、業者側からは「こんな額では生活が成り立たない」といった不満や反発の声が絶えません。
次に、飼育されている数十万頭の「食用犬」の処遇です。法律施行までにすべての犬を適切に引き取るというのは、現実的に大きな負担となります。家庭犬や警備犬として再分配したり、保護施設に収容したりと様々な対応が進められていますが、施設のキャパシティや費用面での課題は山積みです。一部は国内外への譲渡も行われていますが、すべての犬に新しい居場所が見つかる保証はありません。
さらに、完全禁止によって闇市場化するリスクも指摘されています。表向きには犬肉の流通が途絶えたとしても、水面下で密かに屠殺や取引が続く可能性は否定できません。特に根強い伝統や需要が残る地域では、規制の目をかいくぐる動きが生まれる懸念が拭えません。
こうした複雑さが、動物福祉と産業保護、社会的合意形成の難しさを浮き彫りにしています。
【日本の現状と波紋】日本は「対岸の火事」か?法規制と社会への直接的インパクト
「韓国の法改正は、日本にどんな影響を与えるのか?」という疑問を持つ人も多いでしょう。実は日本にとっても、これは決して他人事ではありません。
日本の法律において、「犬肉の食用利用」を直接禁止する明文規定は現在ありません。食品衛生法や動物愛護法による制限はあるものの、「食用目的での犬の飼育や販売」を明確に禁じてはいないのが実情です。かつては輸入例もあり、厚生労働省の記録によれば、2014年度は中国から約15トン、2015年度はベトナムから約18トンの犬肉が輸入されていました。
しかし、韓国の全面禁止決定を受けて、日本社会にも以下のような具体的な「波紋」と課題が生じています。
- インバウンド・国際的評価への懸念
訪日外国人が急増する中、「日本なら合法的に犬肉が食べられる」という誤った認知や一部の不透明な流通が国際的に拡散されれば、国家イメージや観光ブランドへの大きなリスクとなり得ます。 - 「犬猫食禁止法」制定へ向けた政治の動き
韓国の法成立に触発され、日本でも「犬猫食の禁止法」を目指す超党派の議員立法に向けた動きが本格化しています。曖昧だった法制上のグレーゾーンを解消し、国際基準に合わせた法整備を求める世論が高まっています。 - 食の倫理観と多文化共生の摩擦
在留外国人コミュニティにおける特定の食習慣と、日本の一般的な動物愛護感情との間でどう合意形成を図るかという、新たな文化・倫理的課題も浮き彫りになっています。
【結論】「伝統の尊重」から「動物福祉の国際基準」へ明確なシフトを
韓国で進む犬肉食の終焉は、一国の食文化の変化にとどまりません。それは、「伝統や食の自由」よりも「動物の生命尊厳と国際社会の倫理基準」を優先するという、グローバルな価値観の明確なシフトを象徴しています。
日本社会が受けるべき最大の示唆は、「法的に明文規定がないから放置する」という曖昧な態度を改め、主動的に「命の扱いに関するルール」を明文化することです。
食文化は時代とともに変化するものであり、多様性を尊重することと、動物福祉の最低限の倫理を守ることは決して矛盾しません。日本もまた「食」と「動物愛護」の境界線を曖昧にせず、国際社会に胸を張れる明確な基準を打ち出すべき時期に来ています。


