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2026

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    「同じことを続けていれば企業は必ず衰退する。」カード業界のイノベイター・クレディセゾン林野宏が置く、革新の里標石(前編)

    「同じことを続けていれば企業は必ず衰退する。」カード業界のイノベイター・クレディセゾン林野宏が置く、革新の里標石(前編)

     クレディセゾンは、なぜ常にカード業界の一歩先を走り続けられたのか。その源流には林野宏代表取締役会長CEOがセゾングループ創始者・堤清二のそばで学んだ哲学がある。「新しいことをやれ、人に真似されることをやれ」。金融サービス強化のために踏み切ったスルガ銀行との資本業務提携、本邦初のサインレス決済の導入など、大胆な経営判断と現場からの革新はすべてこの原点から発したものだ。

     企業は変化し続けなければ生き残れない。現場の気づきを武器に組織を進化させてきたCEO・林野宏氏が語る、思想と判断の軌跡。そして現代社会の視座と未来への提言を、前後編に渡って追う。

    堤清二から学んだ経営の原点

    会長はクレディセゾンを立ち上げて以来、常に新しいことを考え打ち出してこられました。発想を生み出す源泉はどこにあるのでしょうか。

     それは堤清二さんのそばにいたことが大きいですね。西武百貨店を日本一にし、西友やパルコなど次々と新しい業態を生み出し、西武流通グループ(のちのセゾングループ)を築いた。その姿を間近で見て、多くを学びました。特に「新しいことをやれ、人に真似されることをやれ、真似はするな」という教えは強く残っています。自分たちで新しいものをつくり、それが真似されても構わない。真似されたら、また次をつくればいい——そんなフィロソフィーでやってきました。

    するとクレディセゾンという金融事業は、堤さんが「ファイナンスをやるぞ」と号令をかけて行ったことなのでしょうか。

     いえ、そうではありません。堤さんは感性の分野は得意でしたが、お金やシステムの分野はあまり得意ではありませんでした。ですから、クレジットカードの会社に入社したときに私は、「これは運がいい」と思ったんです。自由にやらせてもらえるからです。今、当社には有利子負債が約3兆円ほどありますが、このビジネスは借入金がないと動かない。IT企業に投資するにも、資金が必要です。そうした“数字とシステム”の領域に関して、自由に任せてもらえたのは幸運でした。

    では、林野会長のそれまでのご経験が活かせると踏んでのことでしょうか?

     そうですね。ただしグローバル分野は、私も決して得意ではありません。英語も満足に話せません。それでも海外事業でも成果を出すことができて、さらに当社が経済産業省の選定する「DX銘柄」に2023年から4年連続で選定されているのは、その分野に強い人材が集まり、自由に力を発揮できる文化をつくってきたからです。「好きにやっていい、何かあればフォローする」という姿勢で、発想も議論も自由に、性別も年功序列も関係なく働ける組織を目指してきました。流通業は女性が主要な顧客ですので、女性が活躍できる環境づくりにも力を入れてきました。これも、堤清二さんの教えのおかげだと思っています。

    銀行との資本業務提携と日本初の“サインレス”——林野宏の経営判断と現場革新

    スルガ銀行との資本業務提携の判断はどこから生まれたのですか?

     クレディセゾンは「永久不滅ポイント」という、他社が真似しないサービスを提供しています。一般的にポイントというものは『将来の買い物で使える値引き』とみなされるため、付与した瞬間に将来の値引き義務が発生し、負債として計上しなければなりません。これが「ポイント引当金」です。当社ではこの引当金が1350億円にも達しており、しかもお客様のものであるのに、当社が税金を負担しなければならないことが分かりました。

     こうした背景も踏まえつつ、当社は事業拡大と金融サービスの強化に向けて、より安定的かつ柔軟な資金基盤の構築が不可欠であると判断しました。その中で、銀行とノンバンクの特性を掛け合わせることで新たな価値を創出できると考え、資本業務提携に踏み切りました。

     銀行が持つ安定的な資金基盤と、当社が培ってきた与信力や営業スピードを組み合わせることで、良質な資産の積み上げが可能となり、事業成長の加速につながっています。これは当社単独では得がたい、新たな価値を生み出す成長機会であると捉えています。

    そのように大胆な経営戦略が取れるのも、クレディセゾンが先陣を切って業界の常識を変え、利益を上げてきたからですよね。クレジットカードの利用も、この20年で大きく変わりました。

     そうですね、大きく進化しました。私たちも一生懸命取り組んできましたからね。その象徴が「日本初のサインレス取引」です。1990年の導入当初、クレジット会社からは「サインなしでカードを使うのは国際的にあり得ない」と強く反対されました。しかし、スーパーでカードを使うとサインのやり取りでレジが滞り、現金客が怒ってしまう。これではカードが使われません。

     そこで私は 「もしお客様が『使った覚えがない』と言ったら、クレディセゾンが負担します」 と宣言し、西友の食品売場でサインレスを始めたのです。結果として、そのようなクレームはほとんど起きませんでした。スーパーは日常的に使う場所なので、本当は使ったのに「覚えがない」と言う人は、一人もいませんでした。こうしてサインレスは定着し、今では当たり前のものとなりました。

    企業は変化し続けなければならない

    林野さんは今も現役のCEOとして活躍されていますが、どのような理念でクレディセゾンの事業を展開されてきたのでしょうか。

     私が大切にしている考えは、「同じことを続けていれば企業は必ず衰退する」 ということです。世の中が変わる以上、企業も変化し続けなければならない。生き物が成長しやがて寿命を迎えるように、商品やサービス、組織もまた、同じ運命をたどります。だからこそ、日々の小さな気づきを誰でも社内で報告できる文化が重要なのです。サインレス決済も、現場でレジの混雑を見て「これではカードが使われない」と気づいたことから始まりました。ポイントも同じです。今は短期間で使わせて回転させるモデルもありますが、私たちはその“泥試合”には参加せず、アメックスブランドを前面に押し出すことで差別化を図ってきました。

    今後、クレディセゾンの事業をどのように広げるおつもりでしょうか?

     これまで我々の事業の主軸だったBtoCのカード市場は、すでに1人平均3枚持つほど飽和しています。そこで、次は BtoB決済市場を開拓したいと考えています。企業間決済の多くはまだまだ銀行振込が主流ですが、ここをカードに置き換えればポイントも付き、資金繰りの改善にもつながる。そこには大きな伸びしろがあります。

     そしてもう一つが 海外事業 です。インド、ベトナム、メキシコ、ブラジルなど、人口も経済成長も大きい国々で事業を進めています。特にインドは14億人の市場ですからね。まずはアジアで勝負し、その先にはアメリカ進出も視野に入れています。私はそこまで生きていないかもしれませんが(笑)、若い社員たちに託していきたいと思っています。

    #クレディセゾン#林野宏#堤清二#セゾングループ#経営哲学#金融#クレジットカード

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