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2026

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    眠りの終わりを迎える日本に、いま必要な変革とは。カード業界のイノベイター・クレディセゾン林野宏が置く、革新の里標石(後編)

    眠りの終わりを迎える日本に、いま必要な変革とは。カード業界のイノベイター・クレディセゾン林野宏が置く、革新の里標石(後編)

     大胆な経営判断と現場発の革新で、常にカード業界の先駆者となってきたクレディセゾン代表取締役会長CEO・林野宏氏。後編では現代社会をどう捉え、未来に何を見据えるのか、その視座が語られた。金融のイノベイターとして林野氏は、「日本は長い停滞から抜け出しつつある」と明言する。一方で、不安定化が進む世界の構造変化を読み解き、若者が動き始めた日本社会がどのように再スタートを切るべきかについて提言を示した。

    日本経済は、低成長から再スタートへと明らかに向かっている

    林野会長は2007年1月、ダイヤモンド・ビジョナリーのインタビューで「格差は再び姿を現す」と指摘されていました。当時は『一億総中流社会』とも言われていましたが、20年経った現在、格差はどのように見えていますか。

     人間の根底には“格差をつけたい”という本能があると思うんです。それが生きる力や努力の源泉にもなる。会社でもスポーツでも、レギュラーと補欠のように差がつく。ファッションでも、人よりかっこいい色やラグジュアリーブランドを身に着ければ、ワンランク上に見られる気がする。そう考えると『一億総中流』というのはむしろ歴史的に見ても類まれな幻想だったのではないでしょうか。

     実際、格差は1980年代後半から広がり始め、1991~92年のバブル崩壊で新卒採用が止まり、非正規雇用が増えました。企業は人件費を抑え、売上が伸びなくても利益を確保し、株主に報いる構造が続いた。一方で社員の給料は上がらず、配当だけが伸びていく。そうした経済が長く続いてきたわけです。

    そんな日本企業の状況を踏まえ、日本経済はいまどのような転換点にあるとお考えですか。

     追い風が吹いて、日本の時代が来ると考えています。 日本は高度成長(1956〜73年)、中成長(74〜90年)を経て、その後は長い低成長が続きました。しかし、ようやくデフレが終わってインフレに転じ、若い人たちの給料も上がり始めています。たとえば初任給は、1992年に20万円だったものが2022年でも23万円と、30年でわずか3万円しか上がらなかった。それが今年になって、33万円や35万円を提示する企業も出てきた。これは明らかに流れが変わった証拠です。

    このようなチャンスには、有効需要を創出して経済を活性化させる後押しが必要となりますね。以前、住宅などの高額商品にこそ消費税を安くする“逆消費税”の導入を提唱されていました。

     日本のGDPにおいて、民間最終消費支出は54%を占めます。つまり、個人消費を伸ばさない限り、日本経済は成長しないということです。現在、食料品に掛かる消費税の一時減税や廃止が議論されており、高額商品への消費税を安くするのは不公平ではないか、金持ち優遇ではないかという意見もあります。しかし経済成長のためには、お金のある人に使ってもらう必要があります。新民主主義であるとかグローバル主義経済が壁に当たっているのでは、という議論もありますが、弾力的かつスピーディーな有効需要創出の措置は必要になると思います。

    急変する世界の社会構造に先手を。メディアはもっと議論を

    その一方で、国際情勢は不安定さの度合いを増しています。この社会情勢を、どうご覧になっていますか。

     一方的ともいえる強権的なリーダーシップや地政学的な緊張が各地で高まり、その結果として紛争や対立が起きているのは見ての通りです。21世紀も四半世紀を過ぎたにもかかわらず、ウクライナやイランをはじめ、世界各地でこうした事態が続いていること自体が、国際秩序の不安定さを示していると思います。

     もっとも、スポーツにもよく代替されると思うのですが、人間には攻撃性のようなものが本能に備わっているのではないか、と感じることがあります。そうでなければ、こうした緊張がなぜ繰り返されるのか説明がつかない面もあります。

    その上で、社会にはどういったアクションが必要とされるのでしょうか。

     これまでの社会構造や世界の政治構造が大きく変化していることを前提に、政治でも経済でも戦略を立て先手を打っていく必要があると感じています。そして本来であれば、こうした構造変化を社会に伝え、議論を促すのがメディアの役割のはずです。

     ところが昨今の国内の報道を見ていると、こうした認識が十分に共有されていないようにも思えるのです。むしろジャーナリズムは、日本では存在感を失いつつある。新聞も減り、テレビも若い世代はほとんど見なくなり、高齢者向けの広告が多くなっています。一方でSNSなどは、政治や社会の動きにも異常に影響力を持つようになりました。

    若者が才能を見つけ、挑戦する自由を支える社会へ

    SNSを中心とした政治活動を通じて、若い世代が台頭してきています。こうした動きについてはどう見られますか。

     日本が変わってきているということだと思います。それも、良い方向に。2026年2月の選挙では私も投票所へ行きましたが、雪が降っていたにもかかわらず若い世代の姿が目立ちました。立候補している人たちも若く、これまでとは違う空気を感じました。

     先ほどの格差の話に戻りますが、その根本にあるのは“自由”だと思うんですね。スポーツと同じで、差がつくのは結果なので仕方がない面もありますが、挑戦する目標を自分で選べる自由さが根底にある。そうした感覚を持つ若い世代が、「変えていく」という気概で選挙に臨んだのだと思います。そして、いい悪いは別として、今回の選挙ではこれまでとは違う多党化の傾向が表れていました。

     日本にとって眠っていた時間が終わり、社会は再スタートを切るのではないでしょうか。ただそこで問題になるのは、我々企業を率いる側がそうした変化を受け止め、新しい事業やサービス、商品、ビジネス、そして新しい社会を打ち出す気概を持てているのかという点です。

    若い世代のために、どのような社会を用意していかなければならないのでしょうか。

     努力が報われる社会ですね。若い人たちの才能を早く見つけて、自分に投資できるように手助けする。そして、高い所得を得られるポジションを、自由に競争して獲得できる社会にしていくことが大切だと思います。もちろん一人親家庭で経済的に苦しく、子どもが学校に行けないといった不平等は、社会として是正していくルールが必要です。ただ、リスクを取って挑戦した努力に見合った成果が得られる社会であってほしい。それは資本主義という制度の根幹でもあります。

     教育について言えば、支援のあり方は慎重に考える必要があると感じています。負担を軽減することは重要ですが、すべてを無償にすることで、かえって「自分は親に世話になっている」といった感覚が薄れてしまう可能性もある。教育の価値や、そこに込められた親の思いをどう伝えていくかは、社会全体で考えるべきテーマだと思います。

    前編はこちら

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