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学校は子どもの居場所になっているか――いじめ対策と不登校支援をめぐる日欧比較
ビジョナリー編集部 2026/01/29
厚生労働省および警察庁の統計によると、2024年に自殺した小中高生の数は過去最多水準に達しました。10代の死因として自殺が長年上位を占めている状況は変わらず、ほぼ毎週複数の子どもが命を落としている計算になります。
子どもの自殺の背景には、家庭環境、進路不安、精神的な不調など、複合的な要因があります。ただし、文部科学省の分析を見ても、学校生活、とりわけいじめや人間関係の悩みが重要な要因の一つとなっているケースが少なくないことは明らかです。
いじめは「どの国にもある問題」です。しかし、その言葉で片づけてよい段階はすでに過ぎています。日本のいじめ対策は今、どこまで来ているのでしょうか。そして、海外では学校という場をどのように捉え直し、対策を進化させてきたのでしょうか。
日本のいじめ対策はどこまで進んだのか
日本では、2013年にいじめ防止対策推進法が施行されて以降、「いじめを見逃さない」「早期発見・早期対応」が強く打ち出されてきました。文部科学省の調査では、学校が把握するいじめの認知件数は年々増加しています。
この数字は、「いじめが急増した」というよりも、「学校がいじめを把握しようとする姿勢が強まった結果」と説明されることが多いものです。しかし、認知件数が増えているにもかかわらず、深刻ないじめが長期化し、最終的に命に関わる事態へと至るケースが後を絶たないことも事実です。
現場では、担任や管理職に対応が集中しやすく、スクールカウンセラーなどの専門職も十分とは言えません。制度は整いつつある一方で、学校が問題を「抱え込む構造」から完全に脱却できていないという課題が残っています。
海外に共通する視点――「いじめは構造の問題」
海外のいじめ対策を見ると、日本との最大の違いは、対処法の細かさだけではありません。最も大きな違いと言えるのは、いじめを個別の逸脱行為ではなく、学校という共同体の構造的な問題として捉えている点です。
いじめが起きたときに「誰が悪いか」を探すのではなく、「なぜ孤立が生まれたのか」「学校はその兆しを拾えていたのか」という問いが先に立ちます。この視点の違いが、対策の方向性を大きく分けています。
フィンランド:いじめは「関係性の中で生まれる」
フィンランドでは、いじめを当事者同士の問題として切り分けるのではなく、クラスや学校全体の人間関係の中で生じる現象として捉えています。
全国規模で導入されてきたいじめ防止プログラムでは、加害者や被害者だけでなく、周囲の子どもたち、いわゆる「傍観者」の行動が重視されています。
困っている友達にどう声をかけるか、見て見ぬふりをしないとはどういうことか。こうした内容が、特別な指導ではなく日常の授業の中で扱われています。
問題が起きてから介入するのではなく、孤立を深めない関係性を日常的に育てること自体が、いじめ対策と位置づけられているのです。
イギリス:学校は「ケアの拠点」であるという発想
イギリスでは、学校は学力を教える場であると同時に、子どもの心身の安全と福祉を支える拠点と考えられています。
イギリスの大学や研究機関による複数の調査では、いじめへの対応力は「教員個人の力量」ではなく、「学校全体の支援体制」に左右されることが指摘されてきました。
実際の学校現場では、担任だけでなく、学習支援スタッフやカウンセラー、福祉担当者が連携し、チームとして子どもを支えます。授業への集中力の低下、欠席や遅刻の増加、友人関係の変化といった小さな兆しを教職員間で共有し、いじめが表面化する前の段階で支援につなげる運用が重視されています。
また、イギリスでは、リストラティブ・ジャスティス(修復的正義)を基盤とした学校全体アプローチが採用され、処罰中心の対応から、対話と学習を通じた関係修復へと重心が移されています。これにより、いじめを起こした側に対しても、排除するのではなく、行為が相手に与えた影響を理解させ、再発を防ぐための学び直しの機会を設けることが、学校の役割とされています。
フランス:法制度で「学校の責任」を明確にする
フランスでは近年、いじめ対策が法制度の面から大きく前進しました。学校でいじめを受けずに学ぶ権利が明確に位置づけられ、被害者が自殺や自殺未遂に至った場合には、加害行為が刑事責任を問われる可能性もあります。
同時に、被害者を守ることを最優先とする制度設計が取られ、状況によっては加害側を転校させる措置も認められています。重要なのは、フランスの対策が厳罰化だけで完結していない点です。共感教育やデジタルいじめ対策など、学校文化そのものを変える取り組みが並行して進められています。
とりわけデジタルいじめへの対応では、SNS上での中傷や晒し行為であっても学校生活と切り離さずに扱う姿勢が明確です。フランスでは、24時間対応の通報窓口を通じて子どもや保護者が匿名で相談できる体制が整えられ、投稿の削除要請や関係機関との連携を含め、被害の拡大を防ぐ仕組みが制度として組み込まれています。
不登校児の「居場所」をどう確保するか
いじめ対策と切り離せないのが、不登校の問題です。海外では、不登校を「問題行動」としてではなく、学校環境が子どもに合わなくなったサインとして捉える考え方が広がっています。
イギリスでは、学校に通えなくなった子どもに対し、元の教室に戻すことだけを目標にはしません。自治体や学校は、代替的な学びの場や少人数制の教育プログラムを用意し、学校外でも学びと人とのつながりを維持できるよう支援します。
フランスでも、不登校や長期欠席は社会全体で対応すべき課題とされ、学校、自治体、福祉機関が連携して支援にあたります。
共通しているのは、「学校に行けない=教育から排除される」という状態をつくらない姿勢です。不登校の子どもにとって重要なのは、「戻る努力」を求められることではなく、安心して存在できる居場所が確保されることです。この考え方は、いじめによって学校に居場所を失った子どもを守るうえでも欠かせません。
いじめ対策は「教育の質」を映す鏡
いじめ対策は、その社会が子どもをどう守り、どう育てようとしているのかを映し出す鏡です。過去最多となった子どもの自殺という現実は、日本のいじめ対策が「次の段階」に進むべき時期に来ていることを示しています。
学校は、勉強を教える場所であると同時に、子どもの命と心を守る役割も担っています。
海外の取り組みは完成形ではありません。しかし、「どこに目を向けるべきか」という問いを、私たちに突きつけています。その問いにどう答えるのかが、これからの日本の教育の姿を大きく左右していくでしょう。


