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一度きりの人生を切り拓くすべての人へ——未来を創る「好奇心」と「実行力」の哲学
越村 義雄 2026/07/30
この全30回にわたる連載の締めくくりとして、これから次の時代を担っていく若いビジネスパーソンや、それぞれの立場で懸命に未来を模索しているすべての方々へ、私がこれまでの歩みの中で確信を得てきたメッセージを遺したいと思います。
変化が激しく、先行きが見通しにくい時代だからこそ、今をどう生きるべきか。その指針となる経営や人生の本質は、驚くほどシンプルです。何よりもまず、「好奇心を持って、常に前向きに挑戦し続けること」。高度な戦略を立てることも、緻密な市場分析を行うことも確かに重要ですが、それらすべての原動力となるのは、個人の心の中に灯る小さな好奇心の火に他なりません。
そしてもう一つ、「自分はどのような形で社会に貢献できるのか、どんな価値を世の中に提供できるのか」という利他の視点を、常に心の真ん中に置いていただきたいのです。人生は一度きりしかありません。だからこそ、義務感や他人の目に縛られるのではなく、自分の好きなこと、魂が熱狂できることにどこまでも正直に生きてほしいと願っています。
もちろん、誰もが最初から自分の大好きな仕事、自分にぴったりの環境に出会えるわけではありません。時には「自分にはこの仕事は向いていないのではないか」「このままここで埋もれてしまうのではないか」と人知れず苦悩し、壁にぶつかることもあるでしょう。しかし、目の前の仕事に誠実に向き合い、泥臭く継続して努力を重ねていくうちに、かつては向いていないと思い込んでいた業務が、いつしか自分にしかできない天職へと変わっていくケースを、私はこれまでの長い経営者人生の中で何度も目にしてきました。
その歩みを支えるのが、生涯を通じて学び続けるという強い気持ちです。私は若い頃から、ビジネス関係の書籍をはじめとする多くの本を読み漁り、貪欲に活字から先人たちの知恵を吸収してきました。そしてそれ以上に、人との出会いや、そこから紡がれる素晴らしいご縁を徹底的に大切にしてきました。出会いによって人が人に影響を与え、視座が高まり、学ぶことが非常に多いからです。この「本」と「人」からの学びを決して絶やさずにいれば、どんなに高い壁が目の前に立ちはだかろうとも、自ずと道は開けていくはずです。30代後半から年2回参加していますが、今月7月22日から24日まで全国経営者セミナーに参加し、多くの学びがありました。
自身の人生を静かに振り返ってみたとき、「あのとき、こうしていればもっと良かったのではないか」「あっちの選択肢を選んでいれば、もっとスムーズだったかもしれない」という後悔や失敗が全くないわけではありません。しかし、私はそれらすべての苦い経験を、「自分を成長させてくれた最高の糧」として肯定しています。ビジネスや人生の途上では、時に不条理なほど理不尽な嫌なことや、胸が引き裂かれるほど悲しい出来事に直面することがあります。しかし、そこで悲嘆に暮れて立ち止まり、悩み続ける時間はあまりにももったいない。私は常に、「起こったことはすべて、自分にとって良いことなのだ」という強い解釈の盾を持って歩んできました。
どれほど嫌な出来事が降りかかろうとも、それは自分という人間の器を広げるために「この経験をしておきなさい」と神様が与えてくれた試練なのだと、素直に、前向きに受け止めるのです。失敗や逆境のなかにこそ、自分の判断力の幅を磨き、次のステップへと飛躍するための最大のヒントが隠されています。何より不幸なのは、失敗することではなく、失敗を恐れるあまりに最初の一歩を踏み出さないことに他なりません。言葉だけでどれほど立派な絵に描いた餅をこねくり回しても、実際にアクションへと繋げなければ、それはこの世界に存在しないのと同じなのです。
ビジネスの世界には、優れたストラテジー(戦略)があり、それを具現化するためのタクティクス(戦術)があり、精緻に組み立てられたプログラムが存在します。これらは企業を動かす上で必要不可欠な要素ですが、それらがどれほど世界最高峰の見事な設計図であったとしても、最後の最後のステップである「Execution(実行力)」が伴わなければ、何一つとして成就することはありません。
かつて、日本ヒルズ・コルゲート時代に私の直属の上司で尊敬し、今は大切な友人でもある元米国本社のインタナショナル社長のリック・ホーキンス氏は、常にアメリカンジョークを交えながら、しかし冷徹なビジネスの本質として私にこう語っていました。“Yoshi, even if you have excellent strategy, tactics and program, if you will not be able to execute the task, you will be executed!”(Yoshi, お前がどれだけ素晴らしい戦略、戦術、プログラムがあろうとも、達成すべき仕事を実行〔Execute〕できなければ、お前は〔処刑される〕クビを切られる〔Executed〕ぞ)と。この言葉は、過激ですがまさに真理を突いています。チャレンジして実行することをしないアイデアには、一文の価値もありません。
偉大な発明家であるトーマス・エジソンが、歴史に永遠に刻まれる数々の偉業を成し遂げられたのは、彼が突出した天才だったからではなく、その成果の裏にある99%の失敗を恐れず、実際に自らの手と足を動かしてチャレンジし、実行し続けたからです。だからこそ、私は口先だけで動かないイエスマンよりも、泥をかぶりながらでも果敢に実行する人を心から信頼してきましたし、自分自身も生涯を通じて「実行の男」でありたいと動き続けてきました。行動を起こし、不格好でも実行する人にしか、次の時代の景色を変えることはできないのです。
そして、その凄まじい実行力を最後の瞬間まで支え続けるエンジンとなるのが、「自分は一体、何のためにそれをやるのか」という、人生における根本の軸、すなわち「使命(ミッション)」です。単に売上を立てるため、組織の規模を拡大するため、あるいは自らの地位を守るためといった近視眼的な目標だけでは、いずれ大きな逆境にぶつかったときに、心が折れて逃げ出したくなります。
私たちは、自らの仕事を通じて「誰を幸せにしたいのか」という、命を懸けられるほどの揺るぎない大義名分を持たなければなりません。私がペットフードの事業に身を置いていたとき、それはただの製品を売るビジネスではなく、「言葉を持たないペットたちの命と健康を守り、彼らを家族として愛する飼い主の人生の幸福に貢献する仕事」という絶対的な軸がありました。だからこそ、強大な権限を持つアメリカ本社の圧力にも屈せず、日本の現場と獣医師の先生方の信頼を守るために世界で唯一「ノー」を突きつけることができましたし、周囲とぶつかり合いながらも、日本のペットのQOL(生活の質)を高めるための新しい学会やインフラを本気で立ち上げ、実行してくることができたのです。
「我以外皆我師也」という言葉の通り、先入観を捨てて素直な心で周囲を見渡せば、この世界は学びと好奇心に満ち溢れています。仕事であれ、プライベートのゴルフやシャンソン、社交ダンスであれ、まずは恐れずに飛び込んでみる。そこで培われた国籍や立場を超えた強固な人間関係と、現場で燃え上がる人間の熱量こそが、冷たいデジタル社会において、最後に市場を動かし、社会を良くしていく最大のブレイクスルーを生み出します。
一度きりの人生です。どうか恐れることなく、胸を張って好奇心の旗を高く掲げ、自らの手で、自らの足で、新しい時代を力強く「実行」していってください。綺麗にまとまった言葉はいりません。皆さんが泥臭く挑戦し、実行したその歩みの先に、人と動物が真に幸せに寄り添い、互いの命を尊び合える、世界に誇れる豊かな共生社会の未来が必ず拓けることを心から信じています。
これまで長きにわたりお付き合いいただき、本当にありがとうございました。皆様のこれからの挑戦に、心からの敬意と熱いエールを送ります。


