「価値共創」で描く次の100年——愛した事業を自...
SHARE
「一番難しい場所で、小さな成功を」——ユーグレナ出雲社長が語る、500回の挫折を越えた原動力とコンフォートゾーンの飛び出し方(前編)
ビジョナリー編集部 2026/08/18
不可能だと思われていたミドリムシ(ユーグレナ)の食用屋外大量培養技術を世界で初めて確立し、社会課題の解決に挑み続ける株式会社ユーグレナの出雲充社長。その原点は、18歳の時に訪れたバングラデシュでの強烈な体験にあった。なぜ彼はミドリムシを選び、500社もの企業に断られてもなお歩みを止めなかったのか。ノーベル平和賞受賞者から受けた衝撃と、変化を恐れる現代の日本社会への警鐘、そして未来を創る若者たちへ向けた「コンフォートゾーンを飛び出す」哲学を語る。
ベンチャー企業の使命は「一番難しい場所で、小さな成功事例を作る」こと
世界初の細胞培養技術を確立され、数々の挑戦を重ねてこられました。これまで出雲社長を突き動かしてきた使命感や原動力は何でしょうか。
私が考えるベンチャー企業が社会に存在する意義は、 「Make a small early success in the hardest field(一番難しい分野で、小さく早い成功を収める)」 ということです。みんなが絶対に無理だと思っている場所で、一番最初に小さな成功事例を作ることこそが、ベンチャー企業の醍醐味であり存在意義だと思っています。
例えば、バングラデシュのような貧しい国の、さらに過酷な難民キャンプで、もし栄養失調の子供たちが元気になったら、世界中の人が驚きますよね。「こんなに貧しい国でできるのなら、自分たちの国でもやってみよう」と必ずなるはずです。
そうなれば、大企業や国連がその成功事例を展開し、栄養問題という社会課題が解決に向かっていくでしょう。こうした最初の突破口を開くことは、失敗のリスクを恐れないベンチャー企業にしかできません。 一番難しいところで小さな成功事例を作り、それを起点に社会を変えていく。それがベンチャーの使命だからこそ、私は困難な状況でも楽しんで取り組むことができています。
取り返しがつかなくなる「子供の栄養失調」をなくしたい
バングラデシュで栄養問題を目の当たりにされたことが原体験だと思いますが、なぜ数ある解決策の中で「ミドリムシ」だったのでしょうか。
バングラデシュで栄養失調の子供たちを見て、ひたすら栄養の勉強をしました。その結果、一番栄養価が高いのがミドリムシ(ユーグレナ)だった のです。植物と動物の両方の性質を持ち、59種類もの栄養素を作ってくれるため、これを食べれば栄養失調問題は解決すると考えました。私は決して一人でこれを発見したわけではなく、農学部で長年ミドリムシを研究してこられた先輩方の英知を結集して取り組ませてもらっています。
しかし、より重要なのは「なぜミドリムシか」よりも「なぜ子供の栄養問題か」ということです。私は楽観的な人間なので、大抵の問題は大人になってから自分が努力すれば乗り越えられると信じています。しかし、唯一解決できないのが「子供の時の栄養失調」 なのです。
子供の時に栄養が足りないと、骨格や体格が十分に育たず、免疫力も低くなってしまいます。大人になってから一生懸命働いて美味しいものをたくさん食べても、子供時代の栄養失調は後から治すことができません。これは明らかにおかしいですよね。世の中には様々な理不尽がありますが、他の課題は私より頭の良い素晴らしい方々が取り組んでくれています。だからこそ、私は 「子供の栄養失調をゼロにする」という、一番ベースとなる課題を絶対にやり切りたい のです。
500回断られても諦めない信念を支えた恩師の存在
2005年の創業後、なかなか理解されず500社に断られたと伺っています。それでも挑戦をやめなかった信念はどこから来たのでしょうか。
よく「気合いや根性がある」と言われますが、そうではありません。私なんかよりもはるかに過酷な環境で頑張っている人を知っているから です。それが、バングラデシュでグラミン銀行を創設し、2006年にノーベル平和賞を受賞されたムハマド・ユヌス先生です。
私は18歳の夏休みにバングラデシュへ行き、グラミン銀行で1カ月間アルバイトをさせてもらいました。その時、ユヌス先生のお姿を直接拝見したのです。世界で一番貧しいといわれる農家を救うためにマイクロファイナンスを立ち上げ、950万人もの人々を救った方が、あのような過酷な環境でエネルギーに満ちあふれて仕事をしている。その姿を見たことで、私自身の価値観が根底から変わりました。
ユヌス先生がバングラデシュでどれほど大変な思いをして頑張っているかを考えれば、日本で500回断られたくらいで「信念が折れた」などと言ってはいられません。日本という恵まれた環境にいるのだから、もう少し頑張ろうと自然に思える のです。
完成されすぎた日本社会への危機感。「困っていないから変われない」
経団連の仕事もされており、日本を代表する経営者の方々と対話される機会も多いと思います。現在の日本のビジネス界や社会に不足していると感じることはありますか。
逆説的ですが、 「不足していることがないから、変われなくなってしまっている」 ということが最大の危機感です。今の日本社会や大企業は、ある意味で完成されています。本当に困っていることや決定的に足りないことがないため、人も会社も変わる理由がないのです。
途上国やアメリカのように、本当に困っている状況やハングリー精神があれば、様々なベンチャー企業が生まれて新陳代謝が起こります。しかし、日本は社会としてうまくいき過ぎているため、なかなか変化が起きません。ここまで変化がない社会で本当に大丈夫だろうかと、私は強く危惧しています。
日本が素晴らしい国であることは事実です。しかし、バングラデシュに行けば、どこに生まれるかで人生が決まってしまうような現実があります。日本の英知をもっと世界に生かせるはずなのに、海外へ目を向ける人が減り、パスポートの保有率も20%を切っている現状は異常だと言わざるを得ません。
若者たちへのメッセージ――「コンフォートゾーン」を飛び出せ
最後に、これから挑戦しようとしている若い方々へ向けてメッセージをお願いします。
とにかく 「コンフォートゾーン(快適な空間)を飛び出す」 ということです。
起業家教育で世界トップクラスの評価を受けるアメリカのバブソン大学では、学生たちにまずコンフォートゾーンを出ることを強要します。条件は3つ。 「自分が行ったことがない場所」「言葉が通じない場所」「頼れる人が一切いない場所」 に行くことです。そこで理不尽な経験をして苦労して帰ってくると、学生たちは猛烈なやる気に満ちあふれ、そこから経営やファイナンスの知識をスポンジのように吸収していくのです。
私にとってのその経験は、まさに18歳で行ったバングラデシュでした。行ったことがなく、日本語も通じず、誰も知り合いがいない場所でユヌス先生と出会い、強烈な原動力を得て日本に戻り、起業しました。
日本の社会は完成されていて快適なので、普通に暮らしているだけでは危機感や問題意識は生まれません。だからこそ、若い方々には先ほどの3つの条件を満たすような環境に自ら身を投じてみてほしいと思います。コンフォートゾーンを飛び出すことで、必ず人生の使命感や原動力が見つかるはずです。


