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「現場主義」と「両利きの経営」で複雑化する社会課題に挑む。クボタ新社長・花田晋吾氏が語る、等身大のリーダーシップと次世代へのメッセージ
ビジョナリー編集部 2026/08/20
「食料・水・環境」という人類の生存に不可欠な3つの領域で事業を展開する株式会社クボタ。創業以来の精神を受け継ぎながら、複雑化する社会課題にいかに立ち向かうのか。若い頃から海外の未開拓市場を駆け回り、今回、社長に就任した花田氏が見据えるのは、徹底した「現場主義」と、既存事業の深化と新規事業の探索を両立する「両利きの経営」、そして資本効率を高める質的な成長だ。社員との対話を重んじ、自らフロアに足を運ぶ新しいスタイルのリーダーが語る、クボタの変革と次世代への熱きメッセージ。
アジアの発展に貢献したい。赤字事業から始まった海外での挑戦
クボタが掲げる「食料・水・環境」の事業について、創業の精神を現在どのように体現されているのでしょうか。また、社長ご自身が入社されたきっかけも教えてください。
クボタは水道管事業から創業し、さまざまな多角化を経てきました。創業者の「社会の発展に役立つものを作りたい」という気持ちは現在も脈々と受け継がれており、社員の多くも 「何らかの形で社会の大事な基盤に貢献したい」 という思いを持っています。水から始まり、食料、環境へと至る中で、一時期はコンピューターや自動販売機などの事業も展開していましたが、選択と集中を重ねた結果、我々の事業の大部分はこの「食料・水・環境」という3つの分野に収斂してきました。今後もこの分野で事業を拡大していきたいと考えています。
私自身が入社したきっかけは、学生時代に1年間中国へ留学し、アジア各地を旅行した経験にあります。当時はまだまだ発展途上でしたが、農業機械も普及しておらず、この地域には非常に大きなポテンシャルがあると感じていました。 「これからのアジアの発展に貢献しながら事業を伸ばしていける」 と考え、それがクボタの方向性と非常にマッチしていると思ったのです。
入社後7〜8年は東南アジアを担当し、トラクターの海外事業に携わりました。当時は今と違って非常に規模が小さく、いつ撤退してもおかしくないような赤字事業でした。あまり注目されていなかった分、自由にやらせてもらえた部分もありましたね。
当時のクボタの強みであり、現在も変わらないのが 「現場主義」 です。担当者だけでなく、幹部層もできる限り現場へ行くことが徹底されています。若い頃、インドネシアの水田でトラクターがすぐに壊れるという問題が発生したことがありました。上司から「現場で何が起こっているか見てこい」と言われ、日本橋でビデオカメラを買って現地へ向かいました。すると、水田の中に水牛がたくさんいて、彼らが掘った穴にトラクターが落ち込み、水が入って壊れるという事実が判明したのです。現場へ行き、自分も周囲も正しく状況を理解することで、初めて具体的な対策が考えられる。 この経験は、私のターニングポイントの一つになりました。

楽しくて儲かる農業へ。人手不足を解消するスマート農業と新規事業の創出
推進されているスマート農業について、単なる効率化にとどまらず、これからの農業従事者にどのような価値を提供しようとお考えですか。
現在、日本だけでなく世界中で人手不足が顕在化しています。農業においても、これまでの機械化とは次元の違う、より高度な自動化による大幅な効率化が不可欠です。今後20年で日本の農業人口は4分の1になるとも言われていますが、食料は変わらず必要とされます。
我々が目指しているのは、単なる自動化ではなく、「楽しくて、儲かる農業」にしていくこと です。スマート技術やさまざまなデータを用いて作業環境の予測や故障の予防保全活動を行い、農業経営の役に立つパッケージを提供する。そこまでやることで、農業を持続可能で魅力的な仕事にしていきたいと考えています。
また、農業領域にかかわらず、新たな価値創出を目指すため、社内で「アントレプレナー塾」という新規事業創出プログラムを実施しています。今年で第4期を迎えますが、年齢や職種を問わず様々な社員が集まり、手挙げ式で新しい事業を提案しています。その中には、「都市に住む人が地域の農家をどうサポートし、事業として成り立たせるか」といったアイデアも出てきています。我々はメーカーですが、「農業を支える人を支えたい」という思いがあります。 機械を提供するだけでなく、我々と農家の方との繋がりを活かした新たな役割を果たしていきたいですね。
これまでの数十年、我々は既存事業の拡大や海外進出に全力で取り組んできました。その結果、成長することができましたが、一方で、既存の枠から少し離れた新しい事業を探索する 取り組みは、少し不足していた部分があったと反省しています。今後は、既存事業の深化と新規事業の探索を両立する「両利きの経営」を推進していく必要があります。アントレプレナー塾は、そうした新しい事業に繋げる入り口であり、新しいことに挑戦する企業文化を全社で作っていく ための重要なプロジェクトとして位置づけています。
それぞれの強みを最速で伸ばす。権限委譲による新たな組織体制
食料、水、環境の3つの領域の事業間で、データやテクノロジーの横展開など、シナジーが生まれる場面はあるのでしょうか。
一時期は、機械事業と水環境事業のシナジーを生み出そうと、研究開発部門を一体化するなどの取り組みを行いました。その中で見えてきたシナジーもありますが、今回の中期経営計画では、あえてシナジーを優先するよりも、「それぞれの事業をどうやって早く伸ばすか」にフォーカスした組織体制へと見直し を行いました。
機械事業と水環境事業では、市場も競合環境も、事業の進め方も全く異なります。例えば機械事業はすでに8割以上が海外売上であり、海外の力をより全社に活かすフェーズに入っています。これらを一つの枠組みで管理・決裁していくことには限界がありました。
そこで、水環境事業については「水環境カンパニー」を設立し、大きな案件を除いてカンパニー長が意思決定できるよう大幅な権限委譲 を行いました。一方で機械事業は全社組織に組み込み、私がトップとして事業判断を行っています。もちろん事業間で重なる部分やソリューションの基盤が共通する部分は活かしていきますが、現段階では各事業に最適な形で成長を加速させること を優先しています。
成長の「質」を高める。等身大のリーダーが描く変革と求める人材像
新中期経営計画の中で絶対に成し遂げたいことや、これからのクボタを担う人材に期待するマインドを教えてください。
人材育成や組織改革は数年前から進めており、私はそのバトンをしっかりと受け継いでいきます。それに加えて私が実現したいのは、クボタの成長を「質的」に高めること です。
これまでは、マーケットシェアの拡大や売上の増加など「物量」を増やすことに重きを置いてきた側面がありました。しかしこれからは、「いかに資本を効率的に使いながら価値を創出するか」というROIC(投下資本利益率)経営の視点へとマインドセットを転換 しなければなりません。現場の活動がどう会社全体の資本効率向上に寄与するのか、ROICツリーを用いて現場レベルまで落とし込み、評価にも繋げていく考えです。
これからのクボタを担う人材には、自分らしさという強みを持ちながらも、現状に満足せず、周囲と意見を戦わせて新しいことに挑戦するマインド を期待しています。会社としても、上下関係や部署の垣根を越えて議論し、チームワークで物事を進められる環境を整えていきます。月曜日に憂鬱になることなく、毎日楽しく仕事をしてほしいですね。
私自身、社長になったからといって社長室にこもるタイプではありません。会議があれば私が皆のいるフロアに出向き、積極的に話しかけるようにしています。社長だからといって身構えず、コミュニケーションを取ってほしい。以前コーチングを受けた際、 「人の真似をするのではなく、自分なりのリーダーのあり方でいい」 と気づきました。誰もが近づきやすい、等身大のリーダーでありたいと思っています。
現状に満足せず外へ向かえ。次世代のビジネスパーソンへ贈る言葉
最後に、これから羽ばたいていくビジネスパーソンに向けてメッセージをお願いします。
私が入社して数年経った1990年代半ばには、日本のGDPは世界の約17%を占め、世界で圧倒的な存在感がありました。しかし今や4%弱にまで縮小してしまいました。さらに危機感を覚えるのは、日本人が「内向き」になってしまったこと です。
「日本は住みやすい良い国だ」と現状に満足してしまっている。英語に「complacent(現状に満足してしまっている)」というネガティブな言葉がありますが、まさに今の日本はそんな状態です。外の世界を見て、「自分たちには何が欠けているのか」を謙虚に受け止め、もっと良くなろうとするハングリーな気持ちを持つ必要があると思います。
このままで満足してはいけない。より良い社会を作るためには、我々のように事業を行う人間がどんどん成長し、挑戦し続ける必要があります。クボタは、そうした挑戦ができる会社でありたいと思っています。ぜひ現状に満足せず、外に向かって挑戦してほしいと強く願っています。
▲新しいオフィスは社員が自由に集い合える、クリエイティブな場所


