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「家族化」するペットと拡大する市場──最新データで読み解く成長と新ビジネス
ビジョナリー編集部 2025/12/09
ペットは今や“癒し”や“かわいらしさ”を超え、家族やパートナーとしての存在感を強めています。実際、2023年時点で日本国内の犬・猫の飼育頭数は約1,591万頭。これは15歳未満の子どもの人口(約1,435万人)を上回る数字です※1。
では、こうした「ペットの家族化」は、どのようにペット市場の拡大を後押しし、どんな新しいビジネスチャンスを生み出しているのでしょうか?
本稿では最新データや具体事例を交えながら、ペット市場の現状と未来を紐解きます。
ペット市場が成長を続ける理由
「ペットは単なる癒しではなく、家族の一員」。こうした価値観の変化が、ペット市場拡大の大きな要因です。背景には、少子高齢化や単身世帯の増加といった社会構造の変化があります。コロナ禍を機に在宅時間が増えたことも、ペットとの生活を志向する人々を後押ししました。
たとえば2020年、犬の新規飼育数は41.6万頭と過去10年で最高を記録。コロナ前と比較しても「新たにペットを迎えた」「ペットと過ごす時間が増えた」という声が多く聞かれました。
興味深いのは、飼育頭数が増えるだけでなく、“1頭あたりにかける費用”が大きく伸びている点です。ペットを大切に考える飼い主が増えたことで、フードや医療、保険、ケア用品、旅行サービスなど、消費の幅も広がっています。
市場規模の推移
では、実際の市場規模はどのように推移してきたのでしょうか。
- 2014年:1.45兆円
- 2019年:1.57兆円
- 2020年:1.69兆円(コロナ禍で急伸)
- 2023年:1.84兆円
- 2024年以降:さらなる拡大が見込まれる
このように、ペット関連市場は10年で約4,000億円拡大。特に2020年のコロナ禍では、在宅需要や“家族化”ニーズによって、前年比1,200億円という大きな伸びを記録しました。
飼育頭数の推移
- 犬:2008年の1,087万頭をピークに減少傾向(2023年は684万頭)
- 猫:2013年以降は微増傾向(2023年は907万頭)
- エキゾチックアニマル(鳥、うさぎ、ハムスター等):近年人気が高まり、犬・猫以外のペットを飼っている人のうち約45%が該当
犬の飼育頭数は減少していますが、猫は堅調。エキゾチックアニマルも“手軽さ”や“珍しさ”を求める層に支持されています。
主要分野別の動向──「フード」「用品」「サービス」の三本柱
ペット市場は大きく「フード」「用品」「生体・サービス」の3分野に分かれます。それぞれの特徴や成長要因を見てみましょう。
ペットフード:健康志向・プレミアム化が牽引
ペットフード市場は、2023年度で約6,920億円(全体の約4割)に達しています。
- 健康志向の高まり:オーガニックやグレインフリー、高齢ペット向け療法食など、高品質・高付加価値フードが人気
- プレミアム化:価格は上昇傾向でも、飼い主は“より良いもの”を選ぶ傾向が強い
- 商品多様化:年齢・犬種・体格別の細分化や、サプリメント・おやつにもプレミアム商品が続々登場
たとえば、あるペットフードメーカーは「人間が食べても安全」をコンセプトにした商品を発売し、短期間で売上が倍増した事例もあります。ペットの健康長寿ニーズが、フード市場の成長を下支えしています。
ペット用品:快適性・デザイン性・ケア用品の進化
ペット用品市場も年々拡大し、2023年度は約3,269億円。
- ケア用品の進化:消臭猫砂や高機能シャンプー、歯磨きグッズなど、衛生・健康志向が強い
- 住環境対応:インテリアになじむデザインや、ペットの快適性を追求したベッド・食器なども人気
- サステナブル商品:地域資源活用や環境配慮型の商品も登場
林業会社が間伐材を使った猫砂を開発したり、建材メーカーがペット向け床材を提供するなど、異業種からの参入も目立ちます。
生体・サービス:保険・医療・旅行など多彩に進化
「生体+サービス」分野は2023年度で約8,441億円。市場の半分弱を占める重要セクターです。
- ペット保険の普及:2022年の加入率は18.6%(2017年の2倍)。欧米に比べると低いものの今後も拡大余地大
- 医療費の増加:ペットの高齢化や高度医療ニーズにより、診療単価が上昇
- 多様なサービス:ペットホテルやシッター、老犬ホーム、ペット同伴旅行、オンライン獣医相談など新ビジネスも続出
実際に、あるバス会社がペットと一緒に参加できるツアーを展開し、利用者からのリピーターが増えています。こうしたサービスの多様化も市場拡大のポイントです。
新たなビジネスチャンス──異業種参入とテクノロジー活用
ペット市場の拡大に伴い、異業種からの参入事例も加速度的に増えています。
- 家電メーカー:自動給餌器や見守りカメラなどIoT製品を開発
- 保険会社:ペット保険事業に新規参入
- アパレル企業:デザイン性の高いペットウェア市場へ
- 建材メーカー:ペット対応の床材や壁紙を開発
また、「ペットテック」と呼ばれるIT・デジタル技術の活用も急成長。AIによる健康モニタリング、GPS付き首輪、オンライン診療などが普及し、飼い主の利便性と安心感を高めています。こうした領域はベンチャーやIT企業にも大きなビジネスチャンスをもたらします。
ペット市場拡大の裏側にある課題
動物福祉の問題
- 繁殖・流通の倫理:生体販売時の動物の扱い、ブリーディング環境の改善
- 売れ残り問題や保護活動:命を扱う商売ゆえの社会的責任
消費者の意識も高まっており、動物福祉やサステナビリティへの配慮は企業活動の必須条件となりつつあります。
慢性的な人材不足
- 高い専門知識とケア力が必要:ペット業界は「動物好き」だけでは務まらず、知識や接客力が求められる
- 「3K職場」のイメージ払拭が課題:労働環境や福利厚生の改善が急務
人材不足がサービス品質や動物のケア低下につながるため、業界全体での取り組みが求められています。
今後の展望──変化するニーズにどう応えるか
これからのペット市場は、単なる成長産業というだけでなく「どのように社会課題に応え、飼い主とペット双方のQOLを高めるか」が問われる時代に入っています。
1. プレミアム化・パーソナライズ化の加速
ペット一頭一頭に合わせたフードやケア用品、医療サービスなど、よりきめ細かな対応が主流になっていくでしょう。データやテクノロジー活用による「パーソナライズ化」は今後の差別化ポイントです。
2. 地域資源とサステナビリティへの配慮
地方企業や異業種が、地域資源を活用したペット商品を開発する動きが広がっています。環境意識の高まりとともに、サステナブルな商品・サービスへの支持は一層強まるでしょう。
3. DX(デジタル変革)による新しい体験価値の創出
IoT、AI、オンラインサービスを活用し、飼い主が“いつでもどこでも”ペットを見守れる、新しい体験価値の創出が進みます。ペットの健康管理やコミュニケーションの在り方も大きく変わる可能性があります。
まとめ
ペット市場は、社会の価値観の変化とともに着実に成長を続けてきました。犬猫の飼育頭数は必ずしも増えていませんが、“1頭あたりにかける愛情と費用”は右肩上がり。健康・快適・安全を求める消費者ニーズに応え、フード、用品、サービス、テクノロジーなど多様な分野で新たなビジネスが生まれています。
一方で、動物福祉や人材確保、サービス品質の維持といった課題も山積しています。企業や業界関係者は、単なる“成長産業”としてではなく、「ペットも人も幸せにする」視点での新しい価値創造が求められています。
ペット業界に関わるなら、その波に乗るために企業が意識すべきポイントは大きく3つです。
- 飼い主の“愛情”に共感し、体験価値を高めること
- 安全・倫理・サステナビリティを徹底すること
- デジタル技術を活用し、飼い主とペット双方に新しい価値を提供すること
この3点を意識することで、ペット市場の新しい波に乗り、持続的な成長と信頼を獲得できるのではないでしょうか。


