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「子ども食堂」が地域社会にもたらす新しいつながりと安心
ビジョナリー編集部 2025/12/09
「子ども食堂」という言葉を聞いて、どのような光景を思い浮かべるでしょうか。
「子どもだけが通う場所?」「困っている家庭のためだけ?」
実は、子ども食堂は地域社会に新しいつながりと安心をもたらす存在へと広がりつつあります。
しかし、子ども食堂がどのように誕生し、なぜ全国に広がってきたのか知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
現在の子ども食堂の普及について
認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの調べによると、2024年12月11日時点での「こども食堂 全国箇所数調査」の調査結果を10,867箇所と発表しました。
これは、公立の中学校・義務教育学校を合わせた9,265校を上回る数にまでに増えています。2016年度の調査時で319箇所と比較すると、約5年間で34倍にまで増加しています。
きっかけは一軒の八百屋から
2012年、東京都大田区にある八百屋「気まぐれ八百屋だんだん」の店主・近藤博子さんが、店の一角で始めた「だんだんワンコインこども食堂」。これが、日本における子ども食堂の“起源”とされています。
当時、近藤さんは「給食以外で満足にご飯を食べられない子どもがいる」という現実を知り、「誰でもお腹いっぱいご飯を食べられる場所を作りたい」との思いから、自ら食堂を開きました。
当初の利用者は数名程度。しかし、温かい食事と居場所を求める子どもたち、その保護者に支えられ、徐々に輪が広がっていきました。
なぜ今、子ども食堂が広がるのか――背景にある“社会の変化”
子ども食堂が広がった理由――それは「社会の孤立」と「子どもの貧困」という現実があるからです。
- 子どもの貧困
日本では、約7人に1人の子どもが相対的貧困状態にあると言われています。 経済的な理由で十分な食事が取れない子どもや、親が多忙なために一人で食卓を囲む「孤食」の子どもが増加。これにより、子どもたちの心身への影響だけでなく、“孤立”が地域社会で進行しています。 - 家族・地域のつながりの希薄化
共働き世帯の増加や、核家族化の進行によって、子ども・親・高齢者それぞれが孤立しやすい状況に。かつては当たり前だった「みんなで食卓を囲む時間」が、現代では貴重なものとなってしまいました。 - 地域の「居場所」へのニーズ
子どもだけでなく、親や高齢者も含め、「誰かとごはんを食べたい」「相談できる相手がほしい」といった声が各地で高まっています。こうした“現代社会のすき間”を埋めるために、子ども食堂という新しい「地域の居場所」が求められたのです。
子ども食堂の広がり方
子ども食堂は、2012年の誕生から全国各地に急速に広がりました。その背景には、いくつかの重要な要因があります。
1. メディア・SNSによる情報拡散
テレビや新聞などのメディアで取り上げられたことに加え、SNSを活用した情報発信が大きな役割を果たしました。「こんな取り組みがあるんだ」「私も参加してみたい」と共感の輪が広がり、地域ごとに新たな子ども食堂が生まれていきました。
2. 地域住民・ボランティアの参加
子ども食堂の多くは、地域住民やボランティアによって運営されています。「自分たちにできることから始めたい」という思いが、現場の大きなエネルギーとなっています。
実際、「手伝いたい」「食材を提供したい」という声が、活動を下支えしています。近年では学生ボランティアや社会人も参加し、多世代交流の場にもなっています。
3. 行政・企業の支援
農林水産省や厚生労働省などの行政機関、さらには民間企業による協賛や場所の提供など、さまざまな支援が拡大しています。
例えば、コンビニエンスストアのファミリーマートが「ファミマこども食堂」を展開するなど、企業の社会貢献活動としても注目されています。
4. ネットワーク化によるノウハウ共有
「こども食堂ネットワーク」や「全国こども食堂支援センター・むすびえ」といった支援団体が登場。運営ノウハウを共有したり、全国の情報を集約するネットワークが整備され、「はじめてみたい人」の背中を押しています。
子ども食堂の“目的”とは
- 食事の提供
無料または安価で、温かく栄養バランスのとれた食事を提供すること。「お腹いっぱい食べられる」ことは、子どもにとって当たり前であってほしい――そんな願いが込められています。 - 「孤食」の解消、共食の場づくり
「ひとりで食べる」寂しさを解消し、みんなで食卓を囲む“共食”の喜びを体験できる場所。会話を楽しみながら食事をすることで、子どもの心の成長や安心感にもつながります。 - 地域コミュニティの再生
子ども同士、保護者同士、さらには高齢者や地域住民が自然と交流できる“新しいコミュニティ”。情報交換や相談、時には学習支援や遊びの場にもなっています。 - 誰もが安心できる「居場所」
経済的な困難がある家庭だけでなく、誰でも気軽に利用できる「ユニバーサル」な取り組み。「困っている人だけが行く場所」ではなく、「みんなの居場所」として開かれていることが、利用のハードルを下げています。
子ども食堂の“強み”と“課題”
強み:誰でも参加できる「開かれた場」
- 多世代交流の創出
子どもから高齢者まで幅広い世代が集まり、互いに支えあう文化が生まれています。 - 地域の“顔”が見えるつながり
「町の誰が困っているのか」「どんな支援が必要なのか」が、自然と共有されるように。
直面する課題
1. 運営資金・人手の確保
子ども食堂の多くは、ボランティアと寄付によって成り立っています。しかし、慢性的な人手不足や資金不足に悩むケースも少なくありません。
- ボランティアの確保が難しい
家庭や仕事の都合で、継続して関われる人が限られる現実があります。 - 資金面の課題
食材や消耗品の費用、会場の維持費など、日常的な運営コストが大きな負担となっています。
2. 会場や設備の問題
無償で使える場所が限られているため、開催頻度や規模が制約を受けることもあります。
3. 本当に支援が必要な家庭への情報到達
「誰でも参加できる」ことは強みですが、逆に本当に困っている家庭に情報が届きにくい、という課題もあります。学校や自治体と連携し、必要な人に確実に届く仕組みづくりが求められています。
子ども食堂を“続ける”ために
「子ども食堂を支えたい」「何かできることは?」
そう思ったとき、実はさまざまな関わり方があります。
ボランティアとして参加する
- 調理、配膳、片付け
- 子どもの学習支援や見守り
- 広報や事務作業
「自分にできること」から、無理せず関わることが大切です。
食材や寄付で応援する
- お米や野菜、調味料などの食品寄付
- 運営資金の寄付(少額でも長期的な支えに)
企業や団体による現物・資金協賛も大きな力となっています。
情報を広める・利用を勧める
- 周囲に子ども食堂の存在を伝える
- 必要としている家庭や子どもに情報を届ける
「知っている人が増えること」も、間接的な支援につながります。
自分たちで始める
- 全国ネットワークや支援団体が開設ノウハウを提供
- すでに活動している団体と連携しながら、無理のない範囲でスタート可能
結論――「子ども食堂」は社会の“希望”をつなぐ場所
「食べること」は生きることそのもの。
子ども食堂は、誰かと一緒にごはんを食べることで、心も体も満たされる「もうひとつの食卓」。その輪は今も、全国へと広がりつづけています。
「困ったときはお互いさま」「みんなで支え合う」――そんな社会をつくるヒントが、子ども食堂の現場には詰まっています。


