「若手が伸びる会社」は何が違うのか?Salesf...
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「最初の配属がすべてではない」中西製作所が最大15カ月かけて新卒に授ける、一生モノの“視座”と“武器”
ビジョナリー編集部 2026/02/26
人事と経営、両方の視点から見えたもの
現在46歳、人事領域に携わって20年以上になるという中西製作所の管理部人事課長、長澤英俊氏。同氏はこれまで、採用から育成、評価、給与、労務、制度企画まで、人事機能全般を渡り歩いてきた、いわば「人事のプロフェッショナル」だ。
前職のプロフェッショナルファームでは、人事を中心とした経営管理や組織設計に携わり、MBA課程では経営戦略やファイナンスも体系的に学んできた。理論や効率性、数字の重要性を深く理解している同氏だが、その結論は意外にも、「人に時間をかける方が、組織は長期的に強くなる」という確信だったという。現在は、人事の入り口から出口までを横断的に統括する立場で、同社の組織づくりを牽引している。
経験を重ねるほど強くなった「違和感」の正体
長年人事に携わる中で、長澤氏が一貫して感じてきた課題がある。それは、採用・研修・配属・評価が、制度上は存在していても、「人の成長」という軸で十分につながりきれていないという点 だ。
研修期間中は順調に見えていた新卒社員が、本配属後に「自分の仕事が会社の中でどう価値を生んでいるのかわからない」「思っていた仕事と違った」と悩み始める姿を、同氏は何度も目にしてきたという。配属後につまずいた状態から立て直すことの難しさを痛感しているからこそ、配属前に「会社全体を理解する時間」をつくるべきではないか。その切実な問いが、新たなローテーション研修制度トモナビ の出発点となった。
「歯車」にしない育成という、究極の経営判断
業務用厨房機器メーカーとして、「『いただきます』の未来をつくる」をスローガンに掲げる中西製作所。その価値は、営業、工場、本社のどこが欠けても成立しない。
だからこそ同社は、新卒社員を特定の部署の戦力として早期に「使い切る」のではなく、会社全体を理解したうえで動ける人材を育てたいと考えている。長澤氏は、トモナビは決して若手を甘やかすための制度ではないと強調する。「歯車にしない」育成とは、同社にとっての重要な経営判断なのだ。
最大15カ月・5拠点を経験する「トモナビ」の全貌
新卒社員が配属前に複数拠点・複数職種を経験し、会社全体を俯瞰するための制度「トモナビ」。その具体的な中身は、驚くほど徹底されている。まず、この制度の目的は以下の2点にあるという。
- 「現場の解像度」を高める 製造・営業・施工の全現場を知ることで、トラブル時にも「どこに原因があり、誰に相談すべきか」を即座に判断できる実務的な即応力を養う。これが顧客からの信頼に直結するという。
- 組織横断的なネットワークの構築 拠点をまたいだ人間関係を築くことで、将来どの部署へ配属されてもスムーズな社内連携を可能にする。「点」の知識ではなく、会社全体を「線」で捉える視点を養う狙いがある。 新卒社員に対して実施されるのは、最大15カ月間にわたる長期研修だ。入社後4〜6月は、全員共通の基礎研修と工場実習が行われる。
研修は座学にとどまらない。製品の製造工程を実習するだけでなく、実際に厨房機器を使用した調理・洗浄も体験し、使い手の視点と製品知識を徹底的に叩き込む。また、若手社員のコミュニティ「若手会」では、社長へのインタビューや展示会視察など、若手ならではの視点で会社を深掘りするプロジェクトも用意されている。こうした仕掛けを通じ、早期から 「自分らしく、イキイキと活躍できる土台」 を築くことができるという。
同社は厨房機器メーカーだが、その業務は多岐にわたる。レシピを開発する部署、配送計画を立案する部署、レイアウトを設計する部署、保守・メンテナンスを行う部署。これらが一丸となって、世界一と呼ばれる日本の給食制度を支えている のだ。
その礎を知るため、新入社員は奈良と群馬にある2つの工場をどちらも経験する。製品が異なれば製造工程も異なる。その違いを肌で知ることが重要だと同社は考えている。 7月以降は職種ごとにOJT研修へと進む。
- 営業系社員:翌年6月までの1年間、2拠点でOJT
- 生産・専門系社員:10月までの4カ月間、2拠点でOJT
この過程で、本配属までに最大5拠点を経験することになる。営業系であれば、地域によるニーズの違いや都市部・地方の戦略の違いを学ぶ。併せて、ITパスポートの取得やDX・業務改善のフレームワーク習得も必須だ。業務を「与えられるもの」ではなく「自ら改善するもの」として捉えてほしいという願いが込められている。
なぜ、あえて「工場実習・転勤」を必須としたのか
世の中が「転勤なし」を打ち出す流れにある中、同社の選択は一見、逆行しているようにも見える。社内でも議論はあったというが、それでも工場実習を必須としたのは、工場こそが同社の価値の源泉だからだ。
この研修は単なる現場体験ではない。将来的に海外拠点を含め、より大きな役割を担える人材の土台をつくることが真の狙いだ。若いうちから主体的に成長したいと考える層にとって、これほど挑戦の機会に満ちたキャリアパスはないだろう。
育成を「個人技」から「仕組み」へ
制度設計において長澤氏が最も苦心したのは、育成を属人化させないことだった。これまでは配属部署によって、経験できる業務や、育成の進め方に差が出てしまう という課題があった。
今回の制度では、OJT計画を見える化し、営業系では「何を学び、何ができるようになるのか」を記したシートを作成。誰が担当しても一定の質を担保できる仕組みを整えた。
また、約50名の新卒社員が全国に散らばるため、宿泊施設の確保や移動手段の調整など、運営面のハードルも高い。それでも「制度は運用して初めて価値が出る」という覚悟で準備を進めているという。
全国を渡り歩く新人を支える、手厚すぎるサポート体制
濃密な研修を支えるため、生活面とメンタル面のサポートには一切の妥協がない。
- 金銭・生活支援
・4〜6月:ホテル泊の宿泊費・朝食代に加え、4月は毎週の帰省費用を全額負担(5月以降は月1回)。さらに月3万円の研修手当を支給する。
・7月以降:会社借り上げの社宅に無料で入居可能。水道光熱費も会社が負担するという手厚さだ。 - メンタルケア
・人事部門が全員に対して定期的な個別ヒアリングを実施。3カ月に1度は同期全員が東京に集まるフォローアップ研修を行い、「横のつながり」を強化する。 - 柔軟なキャリア
・研修中に適性のミスマッチを感じた場合、人事が伴走して他職種を提案するなど、一人ひとりの可能性を見極める。
「大変だから補償する」のではなく、成長に集中できる環境を整えるのが会社の責任だ、という同社の姿勢が鮮明に表れている。
最後までやり切る人事の覚悟
「トモナビ」と名付けられたこの制度は、会社にとっても決して楽な道ではない。膨大な時間とコストがかかり、現場の協力も不可欠だ。
しかし、長澤氏は「これをやらなければ同じ課題を繰り返す」と断言する。人が育つまで向き合い続ける。同社はその覚悟で、この壮大なプロジェクトを始動させた。
学生へのメッセージ: 最初の配属がすべてではない
最後に、長澤氏は学生たちへ向けてこう語った。
「最初の配属先が、あなたの価値を決めるわけではありません。 大切なのは、自分の仕事を『会社の中でどういう意味を持つのか』理解できているかどうか。 その視点は、5年後、10年後に必ず効いてきます」
転勤や環境の変化に不安を感じる学生の心に寄り添いながらも、同社はあえて高いハードルを用意した。それは、「歯車」ではなく「いただきますの未来」をつくるプロフェッショナルになってほしいという、切なる願いの裏返しでもある。
中西製作所の「『いただきます』の未来をつくる」挑戦は、これから入社する新たな仲間たちと共に、加速していくことになりそうだ。


