
「注目バイアス」が武器になる理由──情報を“引き...
8/2(土)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/07/31
あなたは家電量販店で「通常価格10万円のテレビ、今なら5万円!」のPOPを目にしたとき、どんな気持ちになりますか?思わず「半額で買えるなんてラッキー!」と感じてしまった経験はありませんか。
この「最初に提示された10万円」という情報が、あなたのその後の判断や感情に大きな影響を与えている可能性が高いのです。これこそが、ビジネスパーソンが知っておくべき「アンカリング効果」の正体です。
アンカリング効果とは、心理学や行動経済学の世界でよく知られている認知バイアスの一つです。
「最初に提示された情報(基準点=アンカー)」が、その後の判断や意思決定に大きな影響を及ぼす現象を指します。
たとえば、次のような状況を思い浮かべてください。
どれも、「最初に与えられた数字や特徴」が、その後の判断の“ものさし”となってしまう例です。
アンカリング効果のメカニズムは、心理学者エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンによって1970年代に明らかにされました。
彼らの有名な実験では、被験者に「国連加盟国のうち、アフリカ諸国の割合は65%より多いか少ないか」と聞いたグループと、「10%より多いか少ないか」と聞いたグループで、質問の後に推定した値が大きく異なったのです。
このように、最初に与えられた数字に無意識に引きずられてしまうのです。
アンカリング効果は価格や数値情報だけでなく、意味的な情報にも働きます。
これらも最初に提示されたイメージが、その後の評価や購入意欲に影響します。
ただし、心理学の研究では具体的な数値情報の方が、意味的情報よりもアンカリング効果が強い傾向にあることが分かっています。
アンカリング効果は、マーケティングや営業、価格戦略、交渉術などビジネスのあらゆる場面で活用されています。
ここでは、ビジネスマンが日常業務で実践できる活用術とそのポイントを、具体例を交えてご紹介します。
「メーカー希望小売価格50,000円のところ、29,800円!」というように、最初に高い定価や標準価格を示してから実際の販売価格を提示する手法です。
消費者は「20,200円も安くなっている」と感じやすいため、購買意欲が高まります。
BtoB営業でもこの手法は有効です。
いきなり値引き後の金額を提示するのではなく、まずは「標準価格」や「高機能プラン」を提示し、その上で「ご要望に合わせて特別価格にしました」と伝えることで、相手は得したと感じやすくなります。
3つ以上の価格帯のプランやコースを用意し、最も高いプランを「アンカー」として目立たせます。
その結果、「一番高いのは手が出ないが、真ん中なら…」という心理が働き、売りたいプランに誘導しやすくなります。
4つのプラン(例:月額1,500円・3,000円・7,000円・10,000円)を並べ、最上位の高額プランを強調。多くの利用者が中間プランを選ぶ傾向が生まれます。
「本日限定」「当店だけ」「プロ仕様」などの表現もアンカリングを生み出します。
最初に「特別感」や「希少性」を提示することで、実際の価格やサービス内容の“価値”が高く感じられます。
自社商品と競合他社の価格やサービス内容を並べて比較することで、自社の優位性を印象づけます。
たとえば「A社は月額8,000円、当社は5,000円」と表示すれば、5,000円が“安く見える”のです。
アンカリングは便利な武器ですが、使い方を間違えると信頼失墜や法令違反につながるリスクもあるため注意が必要です。以下の注意点を必ず押さえてください。
定価や通常価格を実態よりも過度に高く見せたり、根拠のない価格をでっち上げるのは避けてください。消費者が相場を知っていれば、騙されていると不信感を抱き、ブランドイメージが傷つきます。
日本の景品表示法では、不当な二重価格表示を厳しく規制しています。このルールを逸脱すると、最悪の場合は行政処分を受けるなど、信頼失墜につながりかねません。
現代の消費者はネットで簡単に相場や情報を調べられる時代です。価格・サービス内容・付加価値など、すべてにおいて「透明性」と「誠実な説明」が欠かせません。
「割引が当たり前」「お得感演出が常態化」すると、ブランドの価値が下がる危険もあります。特に高級品や専門性の高いサービスでは、安易なディスカウント戦略に頼らず、実質的な価値訴求こそが重要です。
アンカリング効果は、ビジネスマンにとって非常に強力な武器です。
しかし、それはあくまで「適切な基準点の提示」と「誠実な対応」の上に成り立ちます。
日々のビジネスのあらゆる場面で、アンカリング効果は私たちの意思決定に働きかけています。この力を「知らずに流される側」になるか、「賢く使いこなす側」になるかで、成果にも大きな違いが生まれます。
ぜひ、今日からご自身の業務や商談、マーケティング施策で「アンカリング」を意識してみてください。正しく使えば、あなたのビジネスは一段上のステージに進むはずです。