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2025

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    アンカリング効果とは何か?──知って得するための実践活用と注意ポイント

    アンカリング効果とは何か?──知って得するための実践活用と注意ポイント

    あなたは家電量販店で「通常価格10万円のテレビ、今なら5万円!」のPOPを目にしたとき、どんな気持ちになりますか?思わず「半額で買えるなんてラッキー!」と感じてしまった経験はありませんか。
    この「最初に提示された10万円」という情報が、あなたのその後の判断や感情に大きな影響を与えている可能性が高いのです。これこそが、ビジネスパーソンが知っておくべき「アンカリング効果」の正体です。

    アンカリング効果とは?

    アンカリング効果とは、心理学や行動経済学の世界でよく知られている認知バイアスの一つです。
    「最初に提示された情報(基準点=アンカー)」が、その後の判断や意思決定に大きな影響を及ぼす現象を指します。
    たとえば、次のような状況を思い浮かべてください。

    • 転職の年収交渉で「前職は600万円」と伝えると、その後のオファーが600万円に近づきやすい
    • レストランのメニューで一番上に1万円のコースを載せると、その下の7,000円コースが「手ごろ」に見える
    • 「今日だけ特価!定価20,000円が8,000円!」といったセール表示で“安さ”を強調する
       

    どれも、「最初に与えられた数字や特徴」が、その後の判断の“ものさし”となってしまう例です。

    アンカリング効果の実験

    アンカリング効果のメカニズムは、心理学者エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンによって1970年代に明らかにされました。
    彼らの有名な実験では、被験者に「国連加盟国のうち、アフリカ諸国の割合は65%より多いか少ないか」と聞いたグループと、「10%より多いか少ないか」と聞いたグループで、質問の後に推定した値が大きく異なったのです。

    • 「65%」がアンカーだと、推定値の中央値は45%
    • 「10%」がアンカーだと、推定値の中央値は25%
       

    このように、最初に与えられた数字に無意識に引きずられてしまうのです。

    アンカリングは数字だけではない

    アンカリング効果は価格や数値情報だけでなく、意味的な情報にも働きます。

    • 「高級感」「限定」「プロ仕様」などの“意味情報”
    • 「この店は評判がいい」「あの人は優秀だ」などの評価情報
       

    これらも最初に提示されたイメージが、その後の評価や購入意欲に影響します。
    ただし、心理学の研究では具体的な数値情報の方が、意味的情報よりもアンカリング効果が強い傾向にあることが分かっています。

    ビジネスでのアンカリング活用術──「賢く使う」ための4つのポイント

    アンカリング効果は、マーケティングや営業、価格戦略、交渉術などビジネスのあらゆる場面で活用されています。
    ここでは、ビジネスマンが日常業務で実践できる活用術とそのポイントを、具体例を交えてご紹介します。

    1. “高いアンカー”で「お得感」を演出する

    事例:メーカー希望小売価格の表示

    「メーカー希望小売価格50,000円のところ、29,800円!」というように、最初に高い定価や標準価格を示してから実際の販売価格を提示する手法です。
    消費者は「20,200円も安くなっている」と感じやすいため、購買意欲が高まります。

    事例:見積書の作成

    BtoB営業でもこの手法は有効です。
    いきなり値引き後の金額を提示するのではなく、まずは「標準価格」や「高機能プラン」を提示し、その上で「ご要望に合わせて特別価格にしました」と伝えることで、相手は得したと感じやすくなります。

    2. “選択肢の幅”で購買を誘導する

    事例:複数プランの提示

    3つ以上の価格帯のプランやコースを用意し、最も高いプランを「アンカー」として目立たせます。
    その結果、「一番高いのは手が出ないが、真ん中なら…」という心理が働き、売りたいプランに誘導しやすくなります。

    具体例:サービスの料金体系

    4つのプラン(例:月額1,500円・3,000円・7,000円・10,000円)を並べ、最上位の高額プランを強調。多くの利用者が中間プランを選ぶ傾向が生まれます。

    3. 意味情報で価値を高める

    事例:限定・特別・高級の打ち出し

    「本日限定」「当店だけ」「プロ仕様」などの表現もアンカリングを生み出します。
    最初に「特別感」や「希少性」を提示することで、実際の価格やサービス内容の“価値”が高く感じられます。

    4. “比較対象”を意図的に用意する

    事例:競合との比較

    自社商品と競合他社の価格やサービス内容を並べて比較することで、自社の優位性を印象づけます。
    たとえば「A社は月額8,000円、当社は5,000円」と表示すれば、5,000円が“安く見える”のです。

    アンカリング活用の落とし穴──やり過ぎ・誇大表示に注意

    アンカリングは便利な武器ですが、使い方を間違えると信頼失墜や法令違反につながるリスクもあるため注意が必要です。以下の注意点を必ず押さえてください。

    1. 「盛りすぎ」「ウソのアンカー」は逆効果

    定価や通常価格を実態よりも過度に高く見せたり、根拠のない価格をでっち上げるのは避けてください。消費者が相場を知っていれば、騙されていると不信感を抱き、ブランドイメージが傷つきます。

    2. 二重価格表示には法律の壁がある

    日本の景品表示法では、不当な二重価格表示を厳しく規制しています。このルールを逸脱すると、最悪の場合は行政処分を受けるなど、信頼失墜につながりかねません。

    3. 市場の透明性と誠実さが不可欠

    現代の消費者はネットで簡単に相場や情報を調べられる時代です。価格・サービス内容・付加価値など、すべてにおいて「透明性」と「誠実な説明」が欠かせません。

    4. アンカリング頼みはブランド弱体化のリスクも

    「割引が当たり前」「お得感演出が常態化」すると、ブランドの価値が下がる危険もあります。特に高級品や専門性の高いサービスでは、安易なディスカウント戦略に頼らず、実質的な価値訴求こそが重要です。

    アンカリング活用で成果を手にするために

    アンカリング効果は、ビジネスマンにとって非常に強力な武器です。
    しかし、それはあくまで「適切な基準点の提示」と「誠実な対応」の上に成り立ちます。

    最後に押さえておくべきポイント

    • アンカリングの「基準点(アンカー)」は、数字・意味情報の両方で設定できる
    • 最初の印象が、その後の意思決定を大きく左右する
    • “お得感”や“妥当感”は演出できるが、やり過ぎは信頼損失・法令違反に直結する
    • 消費者・取引先のリテラシー向上を前提に、透明性と誠実な説明を心がける

    まとめ

    日々のビジネスのあらゆる場面で、アンカリング効果は私たちの意思決定に働きかけています。この力を「知らずに流される側」になるか、「賢く使いこなす側」になるかで、成果にも大きな違いが生まれます。
    ぜひ、今日からご自身の業務や商談、マーケティング施策で「アンカリング」を意識してみてください。正しく使えば、あなたのビジネスは一段上のステージに進むはずです。

    #バイアス

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