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2026

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    「事業承継」から「アトツギ」へ。100年先にバトンを繋ぐための次世代リーダーたちの戦略

    「事業承継」から「アトツギ」へ。100年先にバトンを繋ぐための次世代リーダーたちの戦略

     いま、日本の地方経済の底流で、静かな、しかし確実な地殻変動が起きている。

     長年、日本経済の課題として語られてきた「事業承継」。年間数万社が廃業の危機に瀕すると言われる中、この状況を単なる「代替わり」ではなく、家業の強みや歴史を最大限に活かしてイノベーションを起こす若きリーダーたちが現れている。彼らは自らを「アトツギ」と呼び、ベンチャー型事業承継という新たな潮流を生み出しているのだ。

     一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表理事として多くのアトツギを支援する山野千枝氏と応援購入サービス「Makuake」を通じて数々のアトツギと伴走してきたマクアケの代表取締役社長で、同法人の理事でもある中山亮太郎。二人の対話から見えてきたのは、効率性と画一化に覆われた現代経済に対する、アンチテーゼとしてのベンチャー型事業承継だ。

    「アトツギ」という言葉のアップデートが、挑戦者の孤独を救った

    ー 近年、「アトツギ」という言葉が経済メディアや果ては教科書にまで登場するようになりました。単なる呼び方の変化以上の意味がここにはあるように感じます。

    山野千枝(以下、山野) : 以前は「事業承継」という、制度や手続きを指す堅苦しい言葉しかありませんでした。しかし、私たちが「ベンチャー型事業承継」という概念を提示し、後継ぎを「アトツギ」とカタカナで再定義したことで、見過ごされていた価値が可視化されました。

    中山亮太郎(以下、中山) : 言葉のアップデートは、そのまま「憧れ」のアップデートに直結します。「スタートアップ」という言葉が2010年以降に日本で定着し、ベンチャーよりも高いワクワク感を生んだのと似ています。それも日本独自の「アトツギ」という四文字をカタカナにしたことで、世界に輸出できるレベルの熱量を持った共通言語になったと感じています。

    山野 : 実際に、「自分のことをちゃんと言語化してくれた」と救われる想いをするアトツギは非常に多い。これまで「0から1」を作るスタートアップやすでに成功した「老練な経営者」にばかり当たっていた光が、現在進行形で苦労し、葛藤しながら挑戦しているボリュームゾーンである彼らに当たり始めた。これは、日本経済の構造そのものを捉え直す大きな変化です。

    効率性へのアンチテーゼ:螺旋階段型の成長モデル

     ー スタートアップの急成長モデルが賞賛される一方で、アトツギの成長はどのような時間軸で捉えるべきでしょうか。

    山野 : アトツギの成長は、いわば「螺旋(らせん)階段」です。一見すると同じ場所を回っているように見えても、確実に一段ずつ上がっている。彼らにとっての最優先事項は「存続」であり、100年先へバトンをつなぐことです。短期的な資本効率の最大化よりも、永続性を重視した「遠回りだけれど確実な成長」。これを許容し、応援できる土壌こそが、今の日本に欠けていた視点です。

    中山 : 「やりたき成長」の形は一律ではありません。売上規模の拡大だけでなく、「孫の代に尊敬される価値を残したい」「家業が守ってきた魂をより深く熟成させたい」という、長期的な成長戦略もある。現代社会は効率を追求した結果、画一化され、どこへ行っても同じチェーン店が並ぶ「便利だが豊かではない」景色に覆われつつあります。

    山野 : 極端な画一化が進むと、スーパーには一つの大きなメーカーのお菓子しか並ばなくなってしまうかもしれません。日本の経済的な強み、そして豊かさは「多様性」にあります。その土地に根ざし、文化を守るアトツギが生き残り、アップデートすることは、人類の豊かさを守ることに直結するのです。

    中山 : 新政酒造の佐藤さんや平和酒造の山本さんのようなアトツギが、家業のアセットを活かして挑戦したからこそ、日本酒業に新しいアップデートが起きているし、Kapok knotの深井さんやワシオの鷲尾さんのようなアトツギがアパレル業界に新しい風を吹かせていたりと、独自の価値を生み出している。ゼロから立ち上げるスタートアップには真似できない「積み重ねられた歴史」こそが、彼らの最強の参入障壁であり武器なのです。

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    「Makuake」と「アトツギ甲子園」の結果が、社内の空気を変える

    ー アトツギが挑戦しようとする際、最大にして最初の壁となるのが「社内のステークホルダー」です。ここを突破するために、Makuakeやアトツギ甲子園はどう機能するのでしょうか。

    山野 : アトツギには、先代、古参社員、地域社会という、飽和状態のステークホルダーが最初から存在します。その中で信頼を獲得するための「求心力」を作るのは至難の業です。社内でどれだけ立派なビジネスプランを説いても、「お手並み拝見」という冷ややかな目で見られてしまう。

    中山 : そこで必要になるのが、外部による客観的な評価、すなわち「Reason to believe(信じるに足る理由)」です。Makuakeという市場の最前線で「応援購入の実績」という数字を叩き出すこと。あるいは、アトツギ甲子園という公的なお墨付きを得ること。これらは単なるイベントではなく、社内の求心力を書き換えるための「戦略的投資」なのです。

    山野 : 小さな実績の積み重ねが、「こいつは本当にやるんだな」と社員を納得させる。Makuakeで自社ブランドを成功させたことで、その技術力が社外からも再評価され、結果としてOEMの受注も伸びていく。この「B toC toB」の好循環は、外部の光を浴びる挑戦なしには生まれません。

    中山 : アトツギにとって、挑戦はリスクではなく「求心力というアセット」を構築するための手段です。Makuakeはデビューの場であると同時に、アトツギが社内の様子見中の勢力を「最高の応援者」に変えるための有効なツールでもあるのです。

    能登復興から「47都道府県」のエコシステム構築へ

    山野 : いま私が注目しているのは、地域や業種を超えた「アトツギ同士の共創」です。例えば能登の復興。現地のアトツギからは「能登ブランドを全国に届けたいが、自社のリソースだけでは量産ができない」という悲鳴に近い声が上がっています。これに対し、他地域のアトツギ企業がOEM先として協力し、ブランドを共同で育てていく動きが始まっています。

    中山 : 素晴らしい。地方のフルパワーを出そうと思ったら、アトツギの力は必須です。Makuakeのプラットフォームを使えば、地方に居ながらにして世界中のサポーターとつながり、メーカーとしての地位を確立できる。これは能登に限らず、すべての地方アトツギに開かれた道です。

    山野 : 私たちが始動させた「47プロジェクト(読み方:よんななぷろじぇくと)」もその一環です。行政の受託だけでは追いつかないほどのアトツギ支援のニーズを、各地のパートナー企業と共に担い、地域ごとにエコシステムを構築していく。47都道府県すべてにアトツギが挑戦できる土壌を整えることが、これからの日本を支えるインフラになります。

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    日本発の「サステナブルな承継」を世界へ

    中山 : 「アトツギ甲子園」は、日本独自の極めて強力なビジネスカルチャーです。地方大会であっても、支援者や家族が号泣するほどの熱量がある。これほどの求心力を生む仕組みは世界を見渡しても稀有です。

    山野 : そうですね。1から作り直すスクラップ・アンド・ビルドの時代は終わり、今あるものを磨き上げて次に残す「サステナブルな承継」の時代へ。この日本発のモデルは、韓国やヨーロッパなど、長い歴史を持つ産業国においても間違いなく求められています。

    中山 : 歴史を断絶させず、そこにベンチャーの魂を注入する。この日本的な「中庸(ちゅうよう)」の美学ともいえる手法は、画一的なグローバル資本主義に対する強力なカウンターになり得ます。

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    経営者としての「打席数」が未来を決める

    ー 最後に、これからの日本経済を担うリーダー、そして今まさに悩んでいるアトツギたちへメッセージをお願いします。

    山野 : 10年後、あなたがどのような経営者になっているかを決めるのは、現在の「打率」ではありません。「打席に立った数」です。リスクを取ってエントリーし、たとえ空振りであっても、バットを振ったという事実があなたを成長させ、景色を変えます。挑戦できるチャンスがこれほど増えている今、それを見過ごすことは、経営者としての最大の機会損失ではないでしょうか。

    中山 : 「積み上げられた魂」がアトツギの皆さんにはあります。それは物理的な資産以上の価値です。そのユニークさを自覚し、恐れずに外部の土俵に出てきてほしい。Makuakeも、アトツギ甲子園も、皆さんが「求心力」という新しいバトンを手に入れるための場所です。私たちはその挑戦の、一生のパートナーであり続けたいと思っています。

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