売上ではなく『体験した人数』を追え。アルビオン流...
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「地域と生きる金融」へ。城南信用金庫・林理事長が描く、Face to FaceとDXでつくる「幸せのプラットフォーム」
ビジョナリー編集部 2026/10/22
新入職員時代、営業実績が上がらず苦しんでいた林稔(はやし みのる)氏を救ったのは、ある古い町工場を営むご夫婦の温かい言葉と信頼だった。この原体験から「数字を追うことではなく、お客様の真の課題に向き合うこと」という信用金庫の神髄を学んだ城南信用金庫理事長・林稔氏。創業以来受け継がれてきた相互扶助の理念を守りながら、金融支援と本業支援の一体化、さらには行政やIT企業を巻き込んだ新たな地域コミュニティの創出に挑んでいる。同氏が貫く経営哲学と、地域と共に歩む未来像について話を伺った。
1年目の町工場で悟った、「Face to Face」と信用金庫の原点
林理事長が「地域と共に生きる」という価値観を深めることになった、原体験についてお聞かせください。
私が城南信用金庫に入職した1年目、足繁く1軒1軒のお客様のもとを訪ねて営業に回っていました。しかし当時は、頭では信用金庫のあり方を理解していても、実際の現場では「どうやって預金を集めるか」「どう融資を増やすか」という数字ばかりに意識が向き、自分の仕事の意味が見えなくなる苦しい時期を過ごしていました。
そんな折、担当地区にあった古い町工場を営むご夫婦と出会いました。実績に繋がらない私に対しても、「ここで休んで行きなさい」「一緒にご飯を食べていきなさい」と毎日のように温かい言葉をかけてくださったのです。
1年目の終わりに差しかかった頃、そのご夫婦から「工場を閉めて土地を売却したい」という重大なご相談を受けました。新人だった私は自信がなく、「専門の不動産業者などにご相談された方が良いのでは」とお伝えしたのですが、ご夫婦はこうおっしゃってくださいました。
「毎日来てくれたあなただから相談した。時間がかかってもいい、すべて任せるからやってほしい」
必死に調べながら多くの方の協力を得て無事に売却が完了した際、他行に比べて当金庫の金利条件が不利だったにもかかわらず、「あなたがやってくれたのだから」と、高額な売却資金をすべて当金庫に預けてくださったのです。
その瞬間、目から鱗(うろこ)が落ちる思いでした。私はこの1年間、お客様の目線ではなく自分の数字(手段)を目的化していたのだと痛感しました。相手の言葉に耳を傾け、信頼関係を築くことこそが先であり、成果はその結果としてついてくる。この経験から営業に対する姿勢が180度変わり、「Face to Face」でお客様や地域に寄り添うことこそが当金庫の原点だと身をもって学びました。
金融支援と本業支援は一体。「採算」を超えて地域と歩む使命
物価高や人手不足など、中小企業を取り巻く環境が厳しさを増す中、どのように企業を支えていくお考えでしょうか。
金融機関として適時・適切な融資を行う「金融支援」は当然の本業ですが、当金庫では販路開拓や事業承継、DXといった「本業支援」も金融支援と不可分な“本業”であると捉えています。
中小企業が直面する課題は複雑化しており、自社だけでは何がボトルネックになっているのか発見できないことも少なくありません。だからこそ私たちが現場へ足を運び、経営者様の想いや数値に表れない悩みを丁寧に聞き取り、金融と本業支援を一体となって提供していく必要があります。1社1社が元気になり、雇用が生まれることで、初めて地域全体が明るくなります。
営利のみを追求する一般的な金融機関であれば、採算が合わなければ店舗を撤退させるという判断もあるでしょう。しかし、地域に密着する信用金庫が撤退してしまえば、そのエリアの衰退を招きます。当金庫は86の店舗を展開していますが、「地域を徹底的に隅から隅まで明るくする」という使命のもと、頼りにしてくださるお客様がいる限り、採算上の理由での撤退はあり得ない と考えています。
また、単独の企業支援にとどまらず、同業種や異業種企業とのネットワークづくりにも注力しています。例えば「城南ものづくりコンソーシアム」をはじめとする約180社の企業ネットワークでは、大手企業からの仕事を共同で請け負うだけでなく、人手不足の際の相互協力や設備の貸し借り、将来的な事業承継や雇用の受け皿となる関係性を時間をかけて育んでいます。
DXは「人と会う時間」を増やすためにある。「不易流行」の経営美学
デジタル化の進展と歴史ある組織の伝統を、どのように融合させていかれますか。
創立80周年を超えて、私たちが大切にしているのが「不易流行」の精神です。
不易(変えてはならないもの) : 相互扶助の理念に基づき、「中小企業の健全な育成発展」「豊かな国民生活の実現」「地域社会繁栄への奉仕」を目指し、お客様に寄り添う姿勢。
流行(変えていくべきもの) : 時代の変化に対応した業務プロセス、デジタル技術や生成AIの活用、非対面チャネルの拡充。
よく誤解されがちなのですが、当金庫におけるDXの目的は「人件費を削減すること」や「対面接点を減らすこと」ではありません。むしろその真逆であり、業務の効率化によって生まれた時間を、お客様のもとへ足を運び、直接対話する時間を増やすためにテクノロジーを活用する のです。
データや画面の奥にある経営者様の本当の葛藤やご高齢のお客様の不安は、人にしか受け止められません。デジタルで利便性を高めつつ、アナログで温かみのある信頼関係を深める。この両者の最適な融合を目指しています。
行政やIT大手と創る「地域コミュニティプラットフォーム」の全貌
地域社会やコミュニティの活性化に向けた具体的な取り組みについてお聞かせください。
当金庫では、資金提供の枠組みを超えて、行政(品川区など)や大手IT企業IBMと連携した「地域コミュニティプラットフォーム」の構築を進めています。
都市部であっても希薄化している住民同士や地域の繋がりを再構築するため、Web上に誰でも安心して参加できるデジタルコミュニティを準備しています。このプラットフォームでは、行政の補助金情報とお困りごとをスムーズにマッチングさせる仕組みや、画面上のやり取りで孤立を防ぐ高齢者見守りサービス(簡単な操作でご家族に無事を伝える機能など)を無料で提供します。
さらに、東日本大震災の復興支援をきっかけに始まった「よい仕事おこしフェア」では、全国の信用金庫と連携して年間約4,000件の商談機会を創出しています。単なる自金庫の利益追求ではなく、地域や全国の皆様からお預かりした大切な資源を、コミュニティの活性化や人々の笑顔という形で還元していく ことこそが、私たちの本質なのです。
城南信用金庫と取引することで「幸せになれる」未来へ
最後に、中小企業の経営者様や次世代のビジネスパーソンへメッセージをお願いします。
2026年度の方針として、私は「当金庫と取引することで幸せになれる『地域・コミュニティのプラットフォーム』」という言葉を掲げました。
お客様が事業や暮らしに安心と希望を持ち、地域に新たな活力が生まれ、職員も自身の仕事に誇りとやりがいを感じる。この三者が好循環する状態こそが、私たちの目指す「幸せ」の形です。
経営者の皆様にお伝えしたいのは、複雑な課題をどうか一人で抱え込まないでほしいということです。どんなに小さな悩みであっても、お気軽にご相談ください。信用金庫は共に悩み、共に考え、解決まで伴走する存在です。
そして、次世代を担う若いビジネスパーソンの皆様には、AIやDXといった最新技術を柔軟に使いこなしながらも、「相手の話を真摯に聴く」「誠実に向き合い信頼を重ねる」という、人にしかできない本質的な価値 を磨き続けていただきたいと思います。
城南信用金庫はこれからも、この地域にしっかりと根を張り、皆様の挑戦と豊かな暮らしを全力で支え続けてまいります。


